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銀翼の天使達  作者: 蛍蛍
動き出す世界編
69/85

ゼェーレスト攻防戦 2

「ソフィーっ」


「レーカっ」


 巡航する小型級飛宙船(エアシップ)、その船内にて。 バスのように等間隔に並んだ座席に座る俺、その腰の上に跨がり迎え合わせに密着するソフィー。

 大きく股を開いているのでスカートが腰近くまで上がり、ニーソックスの鉄壁防御を上回って太股が際どい場所まで覗いている。

 思わず白い太股に手が伸びてしまった。


「んっ」


 少しだけ驚いた様子のソフィーだが、抵抗する様子はない。

 触れた手をゆっくりと這わせ、スカートの下に指先を入れる。

 顔を赤くするも、抵抗する気はなさそうだ。

 意を決して手を更に奥へ。骨盤の突起を越えて、紐状のものに指が触れる。


「んっ、んあっ……」


 呼吸が荒くなってきた。上気した顔が色っぽい。


「興奮、してるの?」


「ばかっ。レーカだって」


 もじもじと腰を動かさないでくれ。

 いい匂いのする彼女の髪を撫でる。


「ソフィーっ」


「レーカっ」


「いい加減にしたまえ、君達」


 呆れた顔でキザ男に注意された。顔がちょっと赤いぞ。


「もう少し気を引き締めたらどうかね?これから作戦だぞ」


「気負うよりマシさ、命がけなのはこっちも同じだ」


 ゼェーレスト防衛作戦と同時に行われる強襲作戦。死亡率は、正直こちらの方が高い。


「俺の見立てでは33パーセントは助からないはずだ」


「3人に一人、酷い生還率だことだ。ところでその内約は?」


「お前が落ちるに決まってるだろ。なんで白鋼(しろがね)が落ちなくてはならないんだ」


 ソフィーに腕をつねられた。


「はいはい、死ぬなよキザ男。……この作戦での失敗はイコール死だ、ほんとに無理するなよ」


「ふ、ふんっ!僕を誰だと思っている!」


「自称撃墜王だったか?そんなことより、一つ学んだことがある」


「何かね」


「女の子のパンツって、けっこう伸びるんだな」


 指先に掛けて引っ張り、ぱしっと弾くと「ひゃんっ」とソフィーは鳴いた。


「し、知らん!姫、こいつから降りて下さい!」


 強い口調で促され、しぶしぶ俺の腰から降りようとするソフィー。

 その両太股を押さえ、立ち上がるのを阻止する。


「待て」


「レーカ?」


「ちょっと待って。あ、動かないで」


「……あれ?」


「液体燃料ロケットはスケジュール管理が難しいが、固形燃料ロケットは完成形で保管出来るから倉庫から出したり引っ込めたりが楽なんだ」


 我ながら文学的な比喩であった。


「打ち上げ中止?」


「傾きを自己診断AIが感知した」


 ソフィーが自分の席に戻る。俺の身体におかしな部分などこれっぽっちもない。


「そういえば、共和国はカムイとかいうロケットを持っているかも、って話だったな?」


「ええ、その前提で作戦も立てたはずよね」


「脈略がありそうで全くない話の展開なのだよ」


 ラウンドベースを最後に見たのは、帝国軍の基地でだったか。

 その巨体は平時に見てもあまりに大きく、到底まともな方法で動きそうにない。

 それを亜音速まで加速させるほどの推力を持つロケットなんて、いったい地球では何があったんだか。

 足元のトランクを少し開き、一枚の紙を取り出す。

 複雑な式。それは数字ではなくアルファベットが多数を占める、化学式であった。


「あるいは、これを完成させれば……まあ、こんなのオカルトだし」


 シミュレート上は存在するはずの物質、というやつだ。

 量産されている物としては最強の火薬であるヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン(誰だこんな名前を付けた奴)もコンピューターによって存在を確認してから生産された爆薬であり、世の中には存在を予測されていた原子分子は意外と多い。


「オカルトって?」


「魔法とか、魔術とか、幽霊の総称かな」


 本当は「正当派ではない」という意味であり科学に則ったこの化学式はオカルトでもなんでもないのだが、今回の用例はいわば「高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない」の意味で使ったので誤用ではない。


「なるほど、魔力の関わる事象のことね」


 セルファークではオカルトがオカルトたりえないな。


「それで、なに、これ?」


「新型エンジンに使う重金属の粒子だ。だがどうもうまくいかなくて、な」


白鋼(しろがね)のエンジンを変えるの?」


 機体の改造は事後報告であることも多いしソフィーもさして興味を示さないのだが、エンジン換装についてはさすがの彼女とて敏感になる。空戦においてエンジンパワーが必要なのは理解していれど、やはり風に乗ってゆったり飛ぶのが好きなのだ。


「いや、このエンジンは特殊だからな。成功すれば新しく機体を作った方がいい」


 ちょっとショックを受けているソフィー。


「し、白鋼を乗り換えるの?」


「まあ、そういうことだ」


 首肯する。


「元々白鋼は遊びの少ない機体だ。試してみたくても出来なかったアイディアも沢山ある。いい機会だろう」


 窓の外、並走する飛宙船の荷台には前進翼をはみ出した愛機が鎮座している。

 それを見つめ、改めて確認した。


「元々はただのレーサーマシンだ。戦闘機として過激な運用をしてきて、よく今までもったよ」


 白鋼に修理・改修をしていない部分などもうない。頭から爪先まで徹底的に手を加え尽くし、ほとんど見た目が同じなだけの別機体と考えた方が正しい。


「メインフレームの金属疲労も限界だ。いや、とうに限界なんて越えていたのかもな」


「つまり……寿命?」


「ああ、遅かれ早かれ引退だ」


 そんなに暗い顔をするな、ターゲットドローン(無人標的機)とかにはしないから。


「ソフィーだって、今の白鋼に満足しているわけじゃないだろ?」


「う、うん。ちょっと操縦しにくい、かも」


 軽さが売りだったはずの白鋼も、度重なる装備の追加で今や全重量10トン近い。強力なフラップとエンジンで誤魔化しているが、ソフィーのドストライク好みである軽快な操縦性ではないはずだ。


「ま、それもこいつが完成してからだけど」


 手に持つ紙をピラピラと揺らす。


「ちゃんと完成させることが出来れば、エンジンと防御を両立する便利粉なんだが……ま、この調子じゃ冷却に使えればいいとこだろう」


 地球のフィクションに影響されて始めた研究だが、あまりに理想が高過ぎた。今の俺にはこの理論にのみ存在する粒子は調合不可能なのだ。

 それでも研究を継続しているのは、その役割の一つでもこなせるなら大幅なパワーアップを果たす見込みがあるからに他ならない。


「新しい機体は設計をほぼ終えているが、エンジンはこれまでと同じ物を使うつもりだ」


 勿論強化は試みるが、既存のエンジンで心神(しんしん)と戦えるのかは不安が残る。

 装甲が更に減る見込みなので、粒子を防御に回せないことも不安要素だ。クリスタル自身が持つ魔力障壁だけで大丈夫だろうか。


「この素材で作ったエンジンって、どんなものなの?」


「うーん、委細は省くとして―――見た目は炎を纏った筒、かな」








 大気を押し退け、直径10キロの空中要塞はゼェーレスト村へと進行する。

 亜音速で浮遊する巨大鉄塊―――統一国家所属のラウンドベース級三番艦アイリーンは、先に現れたラウンドベース級二番艦キャサリンと同じく神威ロケットによる亜音速強襲を敢行していた。

 それをレーダーによって知ったリデアは迷うことなく指示を出す。


「180度回頭、正面のラウンドベースは囮じゃ!砲雷長、主砲発射準備!」


 操舵士メイドが操縦幹を倒すと、アナスタシア号がゆっくりと船首をスライドし始める。

 セルファークでは未だに大きな操舵輪を回す原始的な舵も多いが、大型船となれば当然機械式だ。

 アナスタシア号では更に一歩進み、入力した操縦を一度信号に変換し船全体に指示を発する、という形式となっている。その為操舵には複雑な手順を必要とせず、素人でも全ての操作を直感的に行うことが可能なのだ。

 尤も、上手く操れるかは別問題だが。

 コンプレッサーが圧縮した空気を、サイドスラスターが獰猛な大型動物の叫び声のような音を発しつつ噴射させる。そのスピードは機敏という言葉からは程遠い。

 限界近い重装甲と時速100キロのトップスピードを両立させたスピリットオブアナスタシア号だが、旋回に関してはこと鈍重としか評しようがない。元より戦略兵器と割り切った設計思想なのだ。

 あまりに重い船体は、後ろを向くだけでも多大な時間を必要とする。


『多薬室砲、スタンバイ開始します』


 無論、船員達もただ旋回を終えるのを待ち続けるわけではない。

 アナスタシア号の最大にして最強の戦略兵器が、静かに開眼した。

 船首の砲口が左右に開く。直径1メートル以上の砲身は船体を前後に貫いた、300メートル以上の長身砲。

 職人達が蔦のように絡み合ったパイプ、そのハンドルを回し、燃焼室に燃料を満たしてゆく。

 自動装填装置が送り込むのは、更に改良を加え指向性を持たせた衝撃波特化核弾頭。

 安全装置を外し、指差し確認を済ませ責任者がオーケーサインを出した。


『準備完了、いつでも撃てます』


 船が旋回している間、主砲の発射準備は僅か一分程度で完了。船はほとんど旋回していない。

 どのような大砲も連射性能は求められる。機械化の進んだアナスタシア号の多薬室砲は規模の割に装填時間が短い。


「問題はこの旋回の遅さじゃな、焦れったい」


 旋回に要する時間は風は勿論、大気圧などにも影響される。リデアとしては一秒でも早く振り向き発射したいところだが、そんな都合を天は考慮してなどくれない。


「主砲を撃っていれば、レーダーの感知が遅れて確実に間に合わなかった。まさか切り札の神術級兵器()とレーダーとの相性が悪いとはの」


 核爆発の電磁パルスはレーダーへの悪影響を及ぼす可能性がある。零夏は事前に、その可能性についてリデアに話していた。ラウンドベース・キャサリン……最初に出現した敵に対し、核を使用しなかった理由がこの一点だ。

 地球での近年の兵器は電磁パルスの影響を考慮し、対策がなされている。しかし零夏が苦心の末に完成させたレーダーは、性能が低いだけではなく外部からの影響を受けやすいのだ。

 レーダーが使用不可能となれば第二波攻撃の探知が著しく遅れてしまう。後手に回って止められるような相手ではない、だからこそ無茶を承知で第一波攻撃を銀翼二機のみで迎撃させたのだった。

 船首回頭より長い10分の後。旋回の経過はおよそ半分、90度回ったところ。


「焦れるなよ、まだじゃ、まだ」


 手の平に汗が滲む。リデアの呟きは自身に言い聞かせるものであった。

 レーダー察知時で彼我の距離は300キロ、敵の速度は900キロ。接触まで20分、単純に考えれば回頭完了と同時に衝突する。しかしサイドキックの加速を考慮すれば猶予はあるし、風の具合によっては更に時間を稼げるかもしれない。

 あるいは、最後の微調節に時間をとられる可能性もある。つまるところ、後は祈るしかなかった。

 空の向こうにプレッシャーを感じる船員達。


「もうちょっと。あとちょっと」


 全員の喉はカラカラとなり、手に嫌な汗が滲む。

 重力の少ない重力境界間際を飛翔させることで、弾速によっては極めて長距離の弾道攻撃を行う技術がこの世界には存在する。主砲の射程は状況により変化するも、およそ40キロは確保されていた。

 的は確かに大きい。しかし、無駄弾を打つ余裕などない。

 故にじっと、アナスタシア号は敵との邂逅を待つ。

 ―――空の果てに、黒い影が滲んだ。


『有効射程、入りました!』


『方位、仰角合っています!』


「撃ち方、始めええぇーーっ!!」


 リデアは思わず叫んでいた。


『発音が違います』


 自分の台詞を奪わないでほしいと思いつつも、砲雷長はトリガーを引く。

 電子式の信管が計算に則り連続的に着火。一定の割合で、最初は低速であった弾頭が膨張ガスに押され加速していく。

 船の底から沸き上がるような、ぞっとしない揺れ。それは数秒後には大地震の如く艦内を揺さぶる。

 閃光と業火を砲口より吹き出し、巨大弾頭は艦首より射出された。

 反動が船を少しだけ後退させ、衝撃波が森を揺らす。ゼェーレスト村の幾つかの木造建築は耐えきれず倒壊することとなった。

 重力の合間を縫って飛翔する弾頭は、30秒後にラウンドベースと接触。装甲に食い込み、食い破っていく。

 完全に埋没した時点で、時限を最大にセッティングした遅延信管は核融合爆弾を点火した。

 ラウンドベースの内部、広範囲を蹂躙する衝撃波。防壁も距離も超越し広範囲に破壊と殺戮をばらまく。熱線と電磁波が人を焼き機器を狂わせ、熱量により膨張したガスと破片は艦内の設備をこれでもかと言わんばかりに破壊した。

 犠牲者はどれほどか。だが、それでも―――


『ラウンドベース、止まりません!』


 ―――その損害は、ラウンドベース級の一部でしかなかった。


「次弾、わしの許可はいらん!装填され次第撃て!」


 リデアに出来ることはない。彼女はただ、敵を見据える。

 四十秒後、二発目が発射される。想定されたスペックより早かったのは一重にドワーフ達の鬼気迫る努力の結果だ。

 二発目の核爆発。さきほどより近い分、アナスタシア号で感じられる衝撃と轟音も一際大きい。


「ダメ、これでも止まりません!」


 双眼鏡を覗いたメイドは、核を二回受けても止まらないラウンドベースに愕然とした。

 構造物は多くが溶け、いたるところから黒煙を漏らしている。まさしく死に体の巨大母艦は、それでも愚直に前進し続ける。

 否、彼の乗組員には既に制御する術がないのだ。神威ロケットのコントロールは失われ、脱出しようにも身動きがとれない。アイリーンは既にそのような状況まで追い詰められている。

 それでも、超大型級飛宙船に体当たりなどされればアナスタシア号は間違いなく全壊する。驚異であることは何ら変わりなかった。


「次!」


 リデアの指示は、もうただそれだけだった。

 ブリッジクルーメイドが忠告する。


「これ以上近くで着弾すれば、この船もダメージを受けます!」


『こちら砲術長、砲身が熱で歪んでいます!次に撃てば深刻なダメージが!』


『マキ機関長だよ。滅多に使わないことが裏目に出たね、設計が甘かったぽい』


「じゃがやるしかあるまい!」


 そして彼女は、ふてぶてしく口の端を吊り上げる。


「どの道後一発ぶちこめれば時間切れじゃ!やれ!」


『了解、―――ってぇえぇ!』


 進言しつつも準備を進めていた砲術長。仕様の限界を越えて運用された多薬室砲は廃熱が追い付かず、亀裂が走り崩壊しつつも役割を全うする。

 着弾、三発目の核爆発。しかし、ラウンドベースは止まらない。


「駄目、なのか!?くっ、総員対ショック体勢!」


 使用された砲弾は対ラウンドベースを想定して用意された物だが、それでラウンドベースが容易く沈む保証などどこにもなかった。リデアとてそれを承知していなかったわけではないが、こうも見せつけられると受け入れがたいものがあった。

 リデアはブリッジから駆け出し、艦橋から飛び降りて甲板に魔法で軟着陸する。 杖を構え、迫るラウンドベースを睨む。


「精々防いでやる。わしとて魔導姫、素通り出来るなど思うなよ!」


 視界を鉄塊が埋め尽くす。それはただの壁に等しい。

 何百もの魔法陣障壁を多重構成したリデアは、それで船全体を覆った。

 所詮気休め、人間に再現可能な攻撃ならほぼ防ぎきれるリデアの多重障壁も、ラウンドベースという大質量には耐えきれない。ラウンドベースは単純な物量による戦略兵器なのだ。


「いかん、手紙をまだ書いておらんな……いや、もう手遅れだったか。とはいえ逃げるわけにもいくまい」


 時間制御魔法陣を確保された時点でリデアの戦いは敗北が決する。ポイントオブノーリターンは当の昔に通り過ぎていた。


「お主は格納庫に入っておれ、ガチターン!」


『間に合わねぇよ、上手く盾にしてくれな』


 甲板で待機していたガチターン機がリデアの前に滑るように移動する。


「エカテリーナ、お主は逃げるのじゃ」


『そうさせてもらうわ、雀蜂じゃどうしようもないもの』


 悠々と離脱する雀蜂。迷いのない逃げっぷりに呆れるも、ピーキーな機体を操るのに必要な割り切りなのだろうとリデアにも想像出来た。


「っ、くるっ!」


 杖を握り締め、半身で身構える。 その時、ラウンドベースが浮き上がった。


「む?」


 円盤の前部が上昇し、重力境界に突入する。勢いのまま浮遊する岩石群が分厚い装甲に打ち付けられ、その衝撃はメインフレームにまで影響を及ぼした。

 徐々にラウンドベースは区画の境目から折れ曲がる。それこそ、放射状に切り分けられたピザを半月状に左右に分けるように。

 そして破断。空中分解したラウンドベースは上下左右に四散し、数十万の流星となって散らばっていく。


「なんとっ、これは!」


 慌てたリデアは船体をまんべんなく覆っていた障壁魔法陣を制御、比較的大きい瓦礫を迎撃するように移動させる。

 瞬間、鋼の雨が降り注いだ。

 アナスタシア号に衝突するだけでも破片の数は数百以上。破片といえば聞こえはいいが、どれも自動車ほどの鉄塊だ。

 リデアは目を細め、その中でも特に大きい破片を魔法陣で受け止める。


「ぐうっ!重……ッ」


 大きな破片ともなれば人型機(ストライカー)以上のものも多々存在する。数メートルの瓦礫ならばアナスタシア号の装甲がかろうじて防げるが、それ以上は迎撃なしではまずい。 歯を食い縛り、自身に『割り振られた』限界の魔力を供給して障壁を維持する。

 幾つか障壁が破られ甲板に瓦礫が転がる。しかし減速には成功していた故に、衝撃は内部まで通らない。

 ラウンドベースの一角が横倒しになって森の上を跳ねながら転がり、高度2000メートルほどまで飛び上がって宙で瓦解する。

 その他の形をある程度保った数百メートル級の残骸も、アナスタシア号を逸れて後方へと流れていく。


「……やったか」


 実感もないままリデアは理解する。 多薬室砲と核弾頭は、確かにアイリーンを撃破していた。






 艦橋に戻り、リデアはドカリと艦長席に腰を落とす。

 当面の驚異が去ったことで喜んでいい場面であったが、リデアはそんな気分にはなれなかった。


(これで10万)


 ラウンドベース級に乗る人員の数は、おおよそ10万人と定義されている。

 人によっては多いと思うかもしれないが、規模から考えればかなり少ない。船内設備は多くがメンテナンスフリーであり、そのように作らなければ乗り込む人間が多すぎて使い物にならなくなる。


(わしの指揮で、10万人死んだのか)


 厳密にいえば生存者がいないわけではないが、これだけの惨事―――多くもないことは誰にでも見当がつく。

 リデアは胃の奥から酸っぱいものが込み上げるのを感じ、平静を装ったままそれを飲み込む。


(これでわしも、ラスプーチンやガイル、ヨーゼフと同類じゃな)


 目的の為に手段を選ばないこと。指導者には必要な考えだが、リデアはそれを結局受け入れきれていない。


(いや、今更か。わしの判断の結果で人が死んだのは、今回が始めてでは決してない)

 彼女は自分の手の平を見詰める。

 白魚のような、と誰もが褒め称えるであろう華奢な手。しかしリデアはそれを直視出来ず視線を逸らした。


(わしの手はとうに汚れておる、今日は特別多かったというだけじゃ)


 近くに備え付けられていた水筒からお茶を注ぐ。よく見れば零夏の名前が書かれていたが、気にせず一気に煽る。


「……ってあちっ、あちゃちゃ!?」


 零夏が自作したそれは電子ケトルであり、紅茶は煎れたてのように熱かった。

 ひぃひぃと舌を冷まして、妙なアクシデントにほんの少しだけ気が晴れたことに気付く。

 根本的な解決ではないが、今はそれでいい。リデアはそう割りきった。


「……ふん。乙女を傷物(舌を軽度の火傷)にしたんじゃ、レーカが帰ってきたらこき使ってやる」


 そう言いつつこっそりと甘えるんだろうな、とブリッジメイド達は割と察していた。

 自身に向けられるブリッジクルー達の半目の微笑みに、リデアは狼狽する。


「な、なんじゃその生温い目は!状況を、状況を報告せんか!」


 がー、っとライオンのように唸るリデア。


『船体のダメージ軽微。艦長に防いで頂いたお陰です』


「ゼェーレスト村の建築物はほぼ倒壊しています。防衛設備も多数大破、ですがシステムは無事です」


『ちょっとチェックしてみたけど、多薬室砲は使えないかなー。無茶すれば多少はなんとかなるかもだけど』


『雀蜂、無傷よん』


『俺だ俺、こっちも大したことないぜ』


『レーダーが機能不全を起こしています。これでは有視界で目視した方が早いでしょうね』


 それは想定内であった。


雷神(らいしん)蛇剣姫(じゃけんひめ)の受け持ったラウンドベースも出現しない、上手くやったようだ―――」


「6時方向、ラウンドベースです!」


「―――などと上手く、いくはずもないか。銀翼二機でも落としきれなかったとは」


 背後より迫るラウンドベース。リデアとて覚悟はしていたが、それでもうんざりしてしまう。

 作戦は順調に進んでいるのだろう、ラウンドベースは大きく傾き各所から煙と炎を上げている。先行したにも関わらず後に到着したのもそれが理由であろう。


「臆するな、相手は死に体じゃ!通常の砲撃でも―――」




「―――3時方向……ラウンドベース、三隻目です!」




「なに……!?」


 船の右舷より先の彼方、空に浮かぶ黒い影。 リデアも双眼鏡で覗くと、新たに出現したラウンドベースは外にまで人型機を固定し積載限界量の重兵装をしていた。

 さながらタンクデサント、かつてソ連で多く行われた戦車の上に大勢を乗せ移動する禁断の兵士輸送方法。

 しかしそれも、ごく限られた状況においては有効な戦術となる。


「電磁波の嵐を隠れ蓑にしたじゃと……やられた、三隻目が本命か!」


 二手先まで読んでいたリデアであったが、ヨーゼフは三手先を見据えていたのだ。

 この状況はフィオが統一国家に与していることを考えれば、予測されてしかるべきであった。リデアはフィオの技術力の片鱗を知っていたのだ、核の影響について知識があることも予測可能だったはずだから。

 後方と右方より迫るラウンドベース。もう被害は免れぬ状況。 リデアは覚悟を決めて叫んだ。


「通常戦力で迎え撃つ、兵器使用自由!安全装置解除!一番落とした奴にはマリアからキスのプレゼントじゃ!」


『『『『ヒャッハー!』』』』


「しないわよ!」


 線香花火の如く、アナスタシア号全ての高射砲より鉛弾の花弁が開花した。


〉蛇剣姫のラウンドベース着地シーンが若干わかりづらいというか、描写不足を感じました


修正しました……が、あまり変わってない(汗

これでとりあえずご容赦を。



〉A-10パイロットには他の機体のパイロットには無い落ち着きというか、威厳、老獪とも呼べるような雰囲気があって好きでしたのに。


U2にしてもそうですが、一点特化型の飛行機はどんどん減ってますね。マルチロール機が嫌いなわけでもないのですが。


以下、A10コピペ(ry

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