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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
難易度はルナティック
39/39

エピローグ

「惜しい奴を亡くしたな」


訓練所の一角で、体格のよい熟練の冒険者が、剣に酒をかけていた。


私はその冒険者の顔に見覚えがあった。


たしかこの男、テイラーといったはずだ。部下の報告によれば彼は熟練の冒険者で、魔獣相手の戦いは実に見事なものだったそうだ。何人もの部下が、彼に救われたと言っていた。


それほどの男が、これほどまでに気落ちしていようとは。


「仲間を亡くしたのか?」


私は気になって、ふとその男に声をかけた。


「これは分隊長殿、このたびは世話になりやした」


「いや、世話になったのは我々のほうだ。魔獣相手の戦闘経験が豊富な貴様らのおかげで、少ない損害で成果を上げることができた。貴様の土魔法、なかなかのものだったぞ」


「お褒めにあずかり光栄ですな。俺たちも、きっちり報酬はいただきやしたことですし、お互い様ってことで」


「ふむ、そうか」


男の表情に、わずかだが笑みが浮かんだ。そのガタイと強面こわもての顔に似合わず、男の笑顔には妙に子供っぽさがあった。


「その剣は?」


「ああ、こいつは。後輩の冒険者のものでして。魔獣に夜襲を受けたとき、こいつだけ残して姿を消しやがったんでさ」


「姿を消した?逃亡か?」


すると、男は静かに首を振った。


「奴は崖から落ちやがったんでさ・・・魔獣に追い詰められて」


「貴様、落ちたのを見たのか?」


「いや、見てはいねえ。だが、奴が戦っていた場所のすぐ後は崖だったんだ。逃げ場なんぞぞなかった。それで、最後に奴が戦ってた魔獣に、これが突き刺さってやがったんでさ」


「最期をみていないのならば、まだ生きている望みはあるだろう」


しかし、冒険者はゆっくりと首を横に振る。


「それは、ねえな」


「何故そう思うのだ?」


「奴の、最期の言葉を聞いたんでさぁ、戦いの後、奴を探してうろついてるときに」


「最期の言葉?」


「『先輩、空を見てください』ってな。奴は言いやがった」


私は首を傾げた。


「声が聞こえたのならば、近くにいたのではないか?」


「ありえねえ。あの声は、空の上から聞こえてきた。深い崖のずっと上から」


「空には何かあったのか?」


「狼煙でさ」


「・・・狼煙だと。あの狼煙を見つけたのは、貴様だったのか」


狼煙について、直接の報告を直接聞いたのは部下からだ。しかし、その部下も確かに「冒険者が狼煙を見つけた」と言っていた。


よくぞ、あの薄暗い森の中で、山影から僅かに見えていた狼煙を見つけたものだ。冒険者も侮れんなと感心したものだが、それがこの男だったのか。


「あいつが俺に、教えてくれたんでさ。そして奴は続けて言いやがった。『先輩、短い間でしたが、ありがとうございました。どうかご無事で』と」


男は黙って剣を見つめた。


「あいつは、天に上る前に最後の手柄を譲りやがった。ったく、新入りのくせに。俺なんかに気を使いやがって・・・」


「・・・そうか」


私は彼の言葉を聞いて、頭を下げた。


「それはすまなかった。仲間の名誉を汚す言葉を口にしたことを謝罪しよう」


「いえいえ!そんな、頭を上げて下さいよ、分隊長どの!」


「冒険者にも、何名かの犠牲が出たと聞いている。彼らの弔いは、我ら王国軍の責任において必ず行う」


「それは、ありがてえ。あいつも、少しは報われるだろうさ」


男はしみじみ呟くと、再び剣に酒をかけ始める。


「名前を」


「え?」


「その剣の持ち主の、名前を尋ねてもよいか?」


すると、男は剣を持ち上げて、私に向かって掲げて見せた。


「クジキリって男でさ。駆け出しで、まだ若い男でしたが、見どころがありやした。経験さえ積みゃ、いい冒険者になったろうに。まったく・・・」


「クジキリ、か」


その名前は、不思議と私の遠い記憶を揺さぶった。


・・・どこかで聞いたことがあるだろうか?


しかし、私は思い出すことができなかった。


「今日は、奴と飲み明かしやす」


彼はそういうと、盃を私に掲げて見せた。


「存分にな」


そのとき、彼が帽子を目深にかぶったことに気が付いた。


私はこれ以上、彼の弔いの邪魔をすべきではないと判断した。


「では、失礼する」


一礼をすると、私はその場を後にした。


冒険者は、互いの競争が激しいときく。一時的に共闘することはあっても、慣れ合うことは少ないと聞いていた。


「仲間思いの者もいるのだな」


私は兵舎へと戻りながら、そんなことを考えていた。



ハクション!


「うわっ!?」


間近で不動の声がして、思わず頭を上げる。


目の前には、再起動の終わったパソコンのいつものログイン画面が表示されていた。


「びっくりした。いきなりくしゃみするから」


ふりむくと、すぐ後ろで不動が驚きの表情を僕に向けていた。


「誰かが噂したかな?」


僕は周囲を見回す。


「誰かって誰よ」


「知らない」


「・・・適当なこと言って!」


そういうと、彼女は僕の頭をコツンと叩いた。


「いてっ、何すんだよ」


「授業に来ないと思って、わざわざ探しに来たの。なのにシュウちゃん、その態度ひどくない?」


「え、そんな時間?」


僕は慌てて時計を見る。


「げ!」


「じゃ、私、先行くから!」


「やべえ!」


急いでパソコンを鞄に流し込む。


「そうそう、私は今日、バイト休みだだ。でも、シュウちゃんはシフト入ってるから、遅れないで行ってよ?」


「・・・そうなんだ」


彼女がバイトを休むのは珍しい。


「晩に、親戚の集まりがあってね。明日はまた行くから」


「分かった」


「じゃ!」


そう言うと、不動は僕を置いて走って行ってしまった。


鞄を背負うと、僕もすぐに後を追おうと立ち上がる。


「やれやれ」


僕は疲れが取りきれていない脚を引きずりながら、次の授業の教室へと向かって歩き出した。


面白いと思っていただけましたら、評価★★★★★を付けていただけましたら幸いです。


何も解決はしてませんが、一応投稿を予定していた話はここまでです。最後までお読みいただきありがとうございました。気が向いたら、続きを書くかもしれません。


この話は、個人的に気に入っている「無自覚無双系」の話が最近はあまりない気がしたので、自分用に書いたものです。せっかく書いたので、投稿してみました。もし、お楽しみいただけたのなら幸いです。


最初はもうちょっとゲームの戦略とか惑星開発の話も入れてたのですが、あまり面白くない気がしたのでざっくり消しました。機会があれば、どこかで復活させるかもしれませんが・・・


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