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わたくし、用意されたはずの舞台で役柄迷子になりましたので、勝手させていただきますわ。



 ……わたくしの知っている知識との齟齬を考えると、続編ヒロイン様なのではと、平民で敵意をわたくしに敵意を向けてきた少女について考えますわ。


 わたくし事レイリシアがが意地悪く追い詰めるヒロイン様は、貧乏男爵の令嬢ですから。


 正直、続編があるのか思い出せませんわ。


 たぶん、フレイム様が出演しなかったのでしょう。いらない前世の記憶としてポポーイッと遠くに投げ捨てたのでしょうね。

 わたくし、過去に拘らない女……まあ、悪女っぽいですわ!

 ……なんの話でしたかしら?

 ああ、アゼル先生に出された課題、途中で飽きてパラパラ漫画を書いた事を叱られた件でしたかしら?


 きちんと最後まで仕上げましたのよ。途中経過で起こった事案で叱られるのは納得いきませんわ。

 まったく、細かい性格ですから成長がとま……ハッ!殺気!?



「オズワルド、単位減らされたいの?」

「いいえ!増やしてくださいまし!」

「……うん、減らさないでじゃなく、増やせって要求までしてくる生徒、嫌いじゃないから課題を増やすね」

「課題を増やすくらいなら嫌ってくださいですわー!」


 アゼル先生の鬼!悪魔!ショタ枠!!



 わたくし、ギリギリをちゃんとー…ちゃんとキープしておりましたのに!


「たまの赤点くらい許して欲しいですわ」

「婚約者殿は常に上位だよね?」


 ーーアゼル先生の背に悪魔の羽が見えましたわ。




 最近、フレイム様に会えておりません。


 ……同じ学園ですのにおかしいですわ。

 卒業まで後三ヶ月。

 学生服姿のフレイム様をしっかりと心眼に焼き写さねばならないというのにどういう事でしょう。


「ーーまさか、ここまでとは」



 ぐふふ…と何か書類を眺めながら、にんまり笑うタリス様。

 わたくしとサラはちょっとドン引きですわ。


「売れているわ……順調に。しかもニンニク買わなくても良い分、布の値段を抑えればもっと…ふ、ふふ…」


 わたくし、ニンニクが減ればいいと思っただけですし、正直売り上げが黒字でなくとも構わなかったのですが、タリス様の様子ではかなり売れ筋が良いようですわ。

 皆様、ニンニクがお好きなのですね。健康の為かしら?


「もっと、何か…ニンニクを割って入れれば作る量が増やせる……」



 ーータリス様が守銭奴に!


 ですが、ニンニクを増やされたら困りますし、それにそれは詐欺ではないですか!?


 わたくし、お友だちが断罪されるのは嫌ですわよ!


「タリス様、落ち着いてください。もう、十分ですのよ?」

「ですが、今儲けないと!」

「タリス様、いけません!」



 わたくしは、正気を失いかけている金の亡者の手をぎゅっと握りますわ。

 ーー生還してください。タリス様!今の貴女はギャンブルにハマった親父と同じ濁った目をしておりますわ。


「れ、レイリシア様」



 わたくしの祈りが届いたのかタリス様の目に光が戻りましたわ。


「……私…」

「正気に戻ってくださり、嬉しいですわ」


 にこっと、微笑むとタリス様の目に涙が滲み……、わたくしは、そっとタリス様を抱き締めなぐさめ……



「なんの茶番ですか」



 サラが盛り上がりも最高潮だというのに一人冷静でしたわ。


 一人、壁役でしたから寂しかったら混ざってよろしいのですわよー。





 ーーフレイム様の周りをちょろちょろする小娘がいるそうですわ。


 ふ、目障りな。



 ……やばいですわ。わたくし、漸く悪役令嬢らしいですわ。うふふ……ふ、……。



「はあ…ですわ」



 わたくし、食堂の椅子に座り、ひとり黄昏てみますわ。


 サラは居ますけど。



「邪魔しないのですか?」

「あら、ギル」


 人目のある場所では平民として偽っているのでギルとおよびしているギルフォード様は、わたくしの対面側の椅子に座り、憂い顔で問いかけてきた。


「……わたくし、無理矢理婚約者になった身ですのよ。真実の愛に出会ったのならば、身を引かねばならぬのですわ」

「ふぅん…」

「婚約破棄を言い出し辛いのでしたら、わたくし、頑張る所存ですわ!」

「……オズワルド令嬢が頑張ると録な結果にならない気がします」


 嫌ですわ。ギルフォード様ったら。でも、わたくしを心配してくださっての事ですので、そっと、ガーリックライスを奢りますわ。にっこり、「平民と偽っているので基本タダなんだけどね」というので、あとから請求書出すことにいたしましたわ。





「レイリシア様」



 わたくしが食堂から部屋に戻ろうとサラを伴い歩いていると、……あら。


「侍従様」

「はい」


 フレイム様の侍従様が手招きしておりますわ。

 わたくし、ふらふらとその手招きに向かって歩き始めますわ。


 あら、サラ、どうして、わたくしの肩を掴んで「優雅に!タリス様みたいで……亡者再びみたいになっていますわ!!」と……わたくし、背筋を伸ばしますわ!シャキンッ。




 侍従様がわたくしを連れ出したのは、学園の近くにある森ですわ。

 ……あら?暗殺?



「レイリシア」


 木々の影から、聞こえた声にわたくし、ピコーンと耳をたてましたわ!

 ふ、ふ、ふ……!



「フレイムしゃまあ!」


 あ、噛んでしまいましたが、わたくし、気にしませんわ。

 今は何より、腕を広げてわたくしを呼び寄せるフレイム様に飛び付きますわ。



「まて!」

「はい!」


 侍従様の声に反射的にわたくし、立ち止まりましたわ。本能が逆らってはいけぬと……。


「おい…ルイ」

「私は『まて』と言っただけですよ。フレイム様」


 爽やかにどす黒い笑みを浮かべる侍従様。確かにわたくし、命令はされておりませんわ。声に反射的に従っただけですわね。


 侍従様は悪くありませんわ。フレイム様。


 わたくし、侍従様を敵に回して、フレイム様との明るい未来はないと悟っております。


「……レイリシア様がフレイム様に飛び込んだら、気絶してしまいますので」



 確かに!

 ですが、わたくし、久しぶりのフレイム様に全力で甘えたいのですわ!

 もう、胸に飛び込んで……気を失っても後悔しないわ!


「……そんなレイリシア様にこれを」


 あら、侍従様。ニンニクを入り紫のお守りを買っていただけたのですか。……それ、寄付を強制したものですが宜しかったの……あ、フレイム様が慌てながら自分のポケットをパンパン叩いて、確認しておりますわ。ーーまさか、スリですの!?


「では、このお守りをじーっと見つめてください」

「はい」



 ゆらゆらと紐の部分を持ち、紫のお守りを揺らす侍従様。……まさか、催眠術!?

 ふ、わたくしのように精神の強い人間がそのようなちゃちな術にかかる訳などないじゃないですか。

 ………ゆらゆら、ゆらゆら……、あ、眠たくなってきましたわ。


「……いいですか。フレイム様とレイリシア様の関係はこいび………いえ、飼い主と子犬です」



 わたくし、あまりの衝撃に覚醒致しましたわ!いまなんと!?


「そうなると」



 わたくしは、子犬ではありませんわ!

 誇り高い公爵令嬢で悪役ですのよ!何よりも、フレイム様のこ、婚約者であるわたくしが子犬などと…っ、そ、そんな屈辱がゆるされるとでもー…


 わたくしは、まだお守りをゆらゆらと揺らし続ける侍従さーーいいえ、しれ者をキッと睨み付けますわ。わたくしを侮辱した罪は重くてよ。


「子犬になれば、飼い主であるフレイム様に抱きつき放題、頭を撫でて貰い放題になりますよ。……子犬になりたくなってきましたよね」


 …………。


「えーと、レイリシア?」


 わたくし、誇り高いオズワルド公爵家の長女。そして悪役令嬢ですの。


 ゆらゆらと揺れるお守りなんてーーナンテ……。


「………レイリシア?」

「わん!ですわ!」






 ーーパンッと手を叩く音で正気に戻りましたわ。


 ハッ、今、何か幸せな夢を見た気が致しますわ。

 フレイム様に抱きついて、頭を撫で撫でされてクンクン匂いを嗅いでー…、自分の体臭を気にせずにたっぷりとフレイム様を堪能した夢を!


 いつもなら、意識を手放してしまい、わたくし、ほとんど覚えていないフレイム様の体温!

 ……わたくし、全力で尻尾を振った気がしますわ。幸せでしたわ!


「……ルイ」



 フレイム様が真っ赤な顔で侍従様を呼んでおります。


「これは…危険すぎるから、止めてくれ」



 そんな!

 わたくしが、もう一回くらい暗示に掛かりたいと侍従様に視線を向けたのですが、侍従様ったら笑顔で返してくださいましたわ。



「ええ、微笑ましい主達の戯れにうっかり殺意がわきましたので止めます」

「リア充なんて滅べばいいのに」


 チッ、とサラと侍従様が舌打ちを!


 そんな!わたくしが羞恥心を抱かずにフレイム様に抱きつく方法が……っ。


 ハッ、自己暗示!


「レイリシア、ここに来る前にニンニク食べた?」


 食堂でガーリックライスをいつもの癖で食べましたわ!


「ま、まさか臭って……」


「い、いや、…そのレイリシアの匂いだなって」



 わたくし、ここ一年くらいしか集中して食べてないのにわたくしの匂いとして浸透している事に恐怖を感じましたわ!


 いやですわ!ほら、昔はフローラルな香りだった筈ですわ!思い出して、フレイム様!!



「ニンニクの匂いを嗅ぐとレイリシアがいるような気がして」


 ただのニンニク臭!


 ふ、フレイム様にニンニクの匂いがする婚約者だと思われるなんてーー、断罪イベント!ニンニクの臭いで婚約破棄はイヤーーッ!!



「捨てないでくださいですわ!」

「え?」

「まだ、ヒロイン様も見つかっておりませんし、わたくし、悪役令嬢らしく、名物の階段落としもしておりませんわ!」

「どこの名物!?」

「危険だということはわかっておりますので、なにか……防具を」

「……しなければいいんだよ?」

「ですが……」

 わたくしは、ちらりとフレイム様を見上げますわ。

 悪役令嬢(わたくし)という障害があってこそ、運命の恋が……。



「……レイリシア、ともかく会いたかった」

「はい」

「俺と会わない間に誰かに嫌な事をされたりしなかったかい?」



 あら、心配されておりますわ。何故かしら?



「お守り作りに忙しくて」


 タリス様のおかげで軽いブラック企業と化しておりましたわ。優雅にお茶も飲めずにメッセージカード作り。ターナ様やアイラ様もお手伝い頂き、タリス様が定めた期限に間に合った時は内職を手伝ってくださった皆様で抱き合い、涙をぬぐいあいましたわ。


 あの時は、タリス様が連れてきた平民達とも抱き合いましたわ。……いいえ、彼女たちは、平民ではありませんでしたわ。ーー戦友、ですわ。キリッ。


「……レイリシアが楽しそうで良かったよ」


 そう言いながら、フレイム様の目が泳いでおりますわよ。

 一通り、フレイム様と近況を話し合ってお別れすると、サラの顔色が優れませんわ。

 侍従様に何か言われていたみたいです。


 ……嫁に来ないか?とかでしょうか。


 サラに嫁がれたら、わたくし、どうやって生活すればいいのでしょう。わたくしこそ、血の気が引いてしまいますわ!





「リシア」

「あら、シオン様」


 護衛も付けずにフラフラする王子ですわね。


「お前、リディアという平民を知っているか?」

「存じませんわ」

「……妹の教育をしろ」



 どう繋がっているのですか。そのお話は。わたくしが首を傾げると、シオン様は面倒くさそうですわ。


「兄上のお気に入りだ」



 あまりに存在感がありませんでしたが、シオン様にはわずか数日差の兄がいましたわね。……側室の子ですか、まあ、シオン様より優れている筈でしたの。


 ……そう、筈、でしたの。


 昔のわたくし、実は神童と呼ばれておりましたわ。お父様に褒められるたびに前世の知識を披露し、調子にのってぺらぺらと。なまじお父様が優秀でわたくしの知識を体現出来てしまうので結果として残ってしまい……本来ならば神童と呼ばれ、その後胡座をかく予定だったシオン様を蹴落とした結果、ハイスペックなシオン様とフレイム様が、幼きわたくしに負けぬよう頑張りすぎて、第一王子の影が薄くなりましたの。



 麗しいご尊顔で才能もあり、努力の方……お優しい人でしたが、俺様とはいえ、ハイスペックで王太子なシオン様が努力まで始めたら……影薄くなりますわよね?


 見事にやさぐれましたわよね。




 それから、それから……わたくしは忙しく戦友たちとお守りを作ったり、人目を憚るようにフレイム様との逢瀬を繰り返し、最後の考査と学園の卒業式の前にシオン様の誕生パーティーがありましてよ。



「オズワルド公爵令嬢、お前と婚約破棄を言い渡す!!」



 ……わたくしを指さして、そう言われても困りますわ。シオン様。妹のレーリアが真っ青な表情をしているので、あえてのブラフですのね。


 そうですわね。わたくしは、悪役令嬢としてにっこりと微笑みますの。



 ーーわたくしのヒロイン様が不在ならどこの誰に対して、悪役を発揮しても宜しいですわよね?






 


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