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*本作はオリジナル作品です。
この世界には、果たして人間が存在しているのだろうか。
少なくとも私は、ここで自分と同じ姿かたちをした存在に一度も出会ったことがない。
つまり、私はこの屋敷に監禁されている可能性がある。
あるいは——
ここは、そもそも人間が存在しない世界なのかもしれない。
空は紅く染まり、世界は常に月の光に照らされていた。
私は静かに窓辺へと歩み寄り、そっと身体を預ける。
窓の外に広がっていたのは、ただひたすらに静まり返った光景だった。
見渡す限り、何もない。
街も、人の気配すらも。
あるのは、どこまでも続く紅い空と、冷たい月の光だけ。
あまりにも静寂に包まれたその光景は、美しさを際立たせると同時に、ぞっとするほど不気味だった。
コンコン。
控えめに扉を叩く音が聞こえた。
扉へ目を向けると、例の“それ”が食事を運んできた。
まだ湯気の立つ温かなスープに、焼きたてのふわふわなパン。
瑞々しい果物と、冷たい水。
質素ではあるものの、今の私にはちょうど良い食事だった。
“それ”は相変わらず、いつも私の身の回りの世話を焼いてくれる。
山羊の頭に、黒いスーツのような装い。
あるいは、一張羅のように仕立ての良い清楚な服を纏っているようにも見えた。
……もしかすると、“それ”は人間ではないのかもしれない。
声はやや低く、それでいて驚くほど優しい善き声。
服装や声、立ち居振る舞いから察するに、“それ”は恐らく男性なのだろう。
普段の様子を見る限り、貴族のような高い身分の方なのかもしれない。
けれど、この屋敷にはメイドや執事の姿は見当たらない。
むしろ、“彼”の方が私の侍従のように思えるほどだった。
彼は、いつも私に問いかける。
「×××……君は、どうしたい?」
上手く聞き取れない。
けれど、おそらくそれが私の名前なのだろう。
「……君は、何を選ぶ?」
選ぶ。
何を選べばいいのだろう。
どうしたいのか。
何を選ぶのか。
そう問われても、そもそも私は自分自身のことすらよく分からない。
——ゆえに私は、いつも沈黙することしかできなかった。
「きっと僕は、君の心を尊重したい。
そう思っているはずだ」
……そう思っている、はず。
どういう意味なのだろう。
「これが最後なのだから」
最後?
その言葉の意味を問い返すよりも早く、彼は小さく息をついた。
「……少し、喋りすぎてしまったようだ。
もう失礼するよ」
そう言って、彼はいつものように静かに部屋を後にする。
彼にとって、私は何か特別な存在であるらしかった。
「そうだ」
ふと、あることを思いついた。
少しでも、自分のことを思い出せないだろうか。
何か手がかりさえ見つかれば、それをきっかけに記憶が戻るかもしれない。
まずは、この部屋を調べてみよう。
そうして私は、自分の部屋を探索することにした。
はじめに、クローゼットを開けてみることにした。
中には、上質なドレスが几帳面に並べられている。
その下へ目を向けると、一つの写真立てが伏せられたまま置かれていた。
ふと気になり、私はそれを手に取って表向きに返す。
すると、白い紙のようなものが乱雑に押し込まれているのが見えた。
そっと金具を外し、破れないよう慎重に取り出す。
それは、随分と昔に撮られたと思われる古い写真だった。
そこには、二人の子どもが写っていた。
少し照れくさそうに笑う男の子と、
幸せそうな笑顔を浮かべた女の子。
二人は小さな指を絡め、約束を交わすように指切りをしていた。
「懐かしい……」
意図せず、言葉が口からこぼれ落ちた。
——懐かしい?
自分で発した言葉に、思わず戸惑う。
何が懐かしいのか。
写真に写る二人の子どもが誰なのか。
まるで見当もつかないというのに。
それでも、この写真はきっと。
失われた記憶を取り戻す手がかりになる気がした。
私は写真を大切に抱え、枕元に置かれていた鍵付きの箱へそっとしまい込んだ。
次に、本棚を調べてみることにした。
そこには数え切れないほどの書物が並んでいた。
魔法書や魔術書、古びた文献、見たこともない文字で綴られた本。
中でも、“魔女”に関する書物は隙間なくぎっしりと並べられていた。
その中で、ひときわ目を惹く一冊があった。
『虚無の魔女』
そう記された表紙を見た瞬間、なぜか胸がざわめいた。
気になった私は、そっとその本を手に取り、静かに頁を捲った。
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title : Aplistia
拾参回目の鐘の音は、警鐘の証。
その美しき音色を受け入れし時、
×××は、やがて×××となるだろう。
すべては、愛の名のもとに。
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この本に記されていた内容は、一体何を意味しているのだろう。
——虚無の魔女。
それは、一体何なのか。
肝心な部分だけ文字が欠けており、うまく読み取ることができない。
さらに、それ以外の頁は焼け爛れ、ほとんど読めなくなっていた。
まるで、知られては困る秘密でも隠すかのように。
それでも、この本は何か重要な手がかりになるかもしれない。
私は『虚無の魔女』を数冊の本とともに重ね、枕元へそっと置いた。
次に、ガラスキャビネットを調べてみることにした。
中には、小さな人形がいくつも並べられている。
どの人形も精巧に作られており、今にも瞬きをしそうなほど生き生きとしていた。
……まるで、ここから出してほしいと訴えかけてくるかのように。
そう思ってしまったせいか、ひどく気味が悪い。
そのほかにも、カードゲームや王冠、指輪などが丁寧に飾られていた。
高価そうなものから、何気ない小物まで。
どれも大切な宝物のように扱われているようだった。
あとは、ひときわ存在感を放つ機械仕掛けの古時計。
中に何かが隠されているようだが、今のところ取り出すことはできそうにない。
これは、また別の機会に調べることにしよう。
今のところ、この部屋の中はおおよそ調べ尽くしたようだ。
あとは、部屋の外。
そこは、まだ私の知らない未知の世界だった。
勝手に外へ出てもいいのだろうか。
けれど、もし彼の言葉どおりなら——
私は、自分の意志で好きに行動しても構わないはずだ。
とはいえ、今日は少し疲れてしまった。
続きは、また明日にしよう。
明日になれば、何か新しい手がかりが見つかるかもしれない。
もしかすると、“誰か”に出会える可能性だってある。
そんな淡い期待を胸に、私は再び深い眠りについた。
ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
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