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1話『はじめまして』①


 晴天の空、休み時間ということもあってか学園内は色々な色の声で溢れかえっている。オレンジだったり藍色だったり、時には黄色だったり場所によってそれは様々で表現豊かな絵が沢山描かれていた。



「だーから、俺じゃねぇって言ってんだろ」

化学準備室に一人、赤黒い色を放つ男の目の前に猫背のまま姿勢も正さず立っている男子生徒がいた。その男の名は馬見新聖弥マミシン セイヤ、茶色がかった黒髪にキリッとした目付き。耳には無数の黒いピアスが飾られ、ジャケットの下はグレーのパーカーを着ている。澄み切った碧色の瞳とは裏腹にどこか死んだような目付きをしている彼は青蘭学園セイランガクエン中等部の二年生である。

「じゃあお前以外に誰が盗むって言うんだ!」

「はぁ?知らねぇよそんなの」

聖弥の目の前にいる男───聖弥のクラスの担任は彼の態度に苛立ちを募らせる。手を握りしめこめかみには筋が浮かび上がっていた。それでも聖弥は姿勢も言葉遣いも正そうとしない。

「てかなんで俺ばっか疑ってんだよ、他のやつだっているだろ」

「そんな見た目をしているからだろう!疑われたくなければ自分の姿を改めることだな!」

「……は」

担任の怒号にも似た声に聖弥は目を丸くする。

 そんな見た目?そんなことで疑われるというのだろうか?ピアスに制服改造、どれもこれも確かに普通の生徒からしてみれば不良だと言われても仕方ないのだろう。でも、別に校則に違反はしていない。この学園は服装や見た目は基本的に度を越してなければなんでも自由である。そういう校則のはずでそれに惹かれて(家から近かったのもあるが)入学したというのに、一度中に入ってしまえば、堅苦しい真面目な人間ばかりだった。普通の学校の模範生みたいな姿の人間が多く、聖弥はこの学園では浮いているほうであった。教員も教員で、服装で大っぴらに指導をしてくることはないが、なにか他のことで問題を起こせば「そんな見た目をしているからだ」「もっとまともな格好をしなさい」ばかりしか言わない。校則違反はしていない、まともな格好ってなんだ、なんて問いかけても返ってくるのはオウムのように同じ言葉たちで、ああこいつらには何を言っても無駄なんだろうなと一年の頃に実感した。

 目の前にいるこのクソ担任も同じようなタイプの人間なのだろう。普段はユーモアがあって面白く生徒から人気のあるらしいが、聖弥からしてみれば自分のお気に入りの子以外には態度が変わる嫌いなタイプだった。

 聖弥は近くのゴミ箱を蹴飛ばした。バコッと痛々しい音が準備室に鳴り響く。幸いあまりゴミは入っていなかったのか周りが散らかることはなく、コロコロと転がるのみだ。

 「おい!まだ話は終わってないぞ!」そんな声を後ろに聴きながら聖弥は準備室を後にした。





 一度廊下に出てしまえば、騒がしさがいっそう増す。キャッキャッと友人同士で話に盛りあがったり、ふざけあったり一見仲が良さそうに見えるが、聖弥からして見ればどれもかれもが上辺だけのものにしか見えない。ああ……くだらない。

セイちゃん!」

教室に戻るため廊下を早足で進んでいると、後ろからふざけたあだ名でよばれる。誰か検討をつけつつ振り向くとそこに居たのは案の定想定した相手であった。

ナオ

「担任に呼び出されてたんだって?大丈夫だった??」

「別に問題ない」

聖弥が幾分か上を見なければ目線が合わない男子生徒の名は池坂直輝イケサカ ナオテル。紺碧色の髪の襟足を伸ばし、前髪はピンク色のピンでとめている。聖弥同様、耳はピアスで飾られており、Yシャツの第二ボタンまで開けているせいか中の黒Tシャツが見えてしまっている。

 直輝は聖弥の小学校からの友人で、聖弥が心を許している相手の一人であった。一般的にいえば親友と言っても差し支えないだろう。

「本当に?大丈夫?」

「本当に大丈夫だ。直はマジで心配性だな」

「そんなことないよ、それに聖ちゃん意外と繊細でしょ?」

「その呼び方やめろ」

直輝が横に並んだことで聖弥は歩く速さを緩める。

 自分のどこが繊細なのか分からないが、昔から直輝は聖弥に対して過保護気味だ。よその学校の生徒と喧嘩した時だって、教員に怒られたときだって周りは心配さえしなかったのに、直輝だけは「大丈夫だった?」と声をかけてくれる。それを心の拠り所にしている自分がいるのを知っているせいで、聖弥はあまり直輝に強く出られない。

「今日さ、放課後用事があるから……」

「わかった、待ってる」

「……ありがとう」

家も同じ方向の幼なじみとは小中と変わらず一緒に帰ってきた。委員会などがあってもお互いが待っていて、いつの間にか一緒に帰ることが当たり前になってしまっている。今日だってそうだ、直輝と一緒に帰るために聖弥は待っていると言った、いつもの事なのに直輝はとても嬉しそうな笑顔でお礼を呟いた。

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