第8話 違う未来
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「かはっ!」
「おらぁ! てめぇのせいだ! ただで済むと思うなよ!」
「痛い痛い痛い痛い!」
俺はリーゼルに救出された次の日、金髪サル、デブ、陰キャに学院の人気のないところでボコボコにされていた。
金髪サルは俺を壁へと叩きつける。
そして壁にもたれかかった俺に金髪サルは容赦なく何度も蹴りつけていく。
すると金髪サルは俺に目線を合わせるようにしゃがみ込むと髪の毛を鷲掴みにして、無理やり顔を合わせていく。
「てめぇのせいで俺は手に傷を負った。跡までついた。しょうもねぇことをしやがって雑魚のくせによ!」
「ぐっ!」
「お前みたいのがいていい場所じゃねぇんだよ!」
「ふ、フォルティアナさんといつの間に仲良くなりやがって!」
金髪サルに続いてデブと陰キャが蹴ってくる。
「がはっ! ぐふっ!」
俺は痛がる演技を続ける。
あー、そろそろめんどくせぇなこの演技を続けるのも。タイミング合わせて動いていくのが一番かったるいんだよなー。
まあ、救うまではこうしていなきゃいけないとしても、さすがにめんどくせぇな。一回ストレス発散行動でもしておくか? こいつらの記憶を改ざんすればいいわけだし。
「てめぇのせいで俺は恥をさらされた! てめぇが余計なことをしたせいで!」
りっふじーん。頭の悪さ全開の理不尽が最後までたっぷりな言葉だ。
「おら! 後で有り金全部使って俺のために食いもん買ってこい! 逃げられないように魔法陣もつけてやる!」
こいつはデブまっしぐらだな。これ以上食って太ってどうする。将来は肉団子にでもなるつもりか? というか、そんなぜい弱な魔法陣を俺の首につけた所ですぐに解除できるぞ。
「お、お前はいつフォルティアナさんと仲良くなった! 吐け、いつだ! というか、そもそもお前ごとき汚物がフォルティアナさんに近づくんじゃねぇ!」
おっと、やっぱりこいつだけベクトルが違うな。まあ、知っていたけどな。にしても、こいつだけリーゼルに異常な執着心を見せるな。
......もしかして、もうこの時点からすでに? 俺が入学してからまだ二週間と少ししか経っていないんだぞ?
だが可能性がないと言い切れない以上確かめる必要があるな。
俺は出来るだけ悟られないように幻惑魔法と魔力探知魔法を同時に使っていく。
ん? 首元に魔力反応がある。まさか本当にこの時からもうあるのか!?
「た、助けてぇ......」
「ち、近寄るな!」
「ぐふっ!」
俺は助けを求めて縋りつくように陰キャへの服を掴んでいく。そして無理やり自分のもとへと引き寄せる。
それから、殴られる前に僅かに首元を見るが俺の知っている魔法陣は無かった。
そのことに俺は僅かに歯を噛みしめる。
「きめぇことしてんじゃねぇ!」
そして俺は殴られ続けた。あいつらの気が済むまで。
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その日の放課後、俺は学院の庭にあるベンチへと座っていた。
殴られた後すぐにレイナに発見されてしまったせいで、俺は治療室にまで連れて行かれて顔中ガーゼだらけの絆創膏だらけ。
まあ、レイナに自分が幻惑魔法を使っていることを知らせていないので当然と言えば当然の結果なのだが。
レイナをそばに連れずに俺が一人ここにいるのはあるイベントを回収するためだ。
それ即ち、リーゼルとの放課後デートイベント!
過去の俺はこんな美味しいイベントを憂鬱な気分で過ごしていたとなるとぶん殴ってやりたくなる。
しかし過去に戻った俺は違う! このイベントを骨の髄まで思い出を沁み込ませてやるんだ!
俺は落ち込んでいる風を装って顔をうつむかせる。すると数分後、遠くから足音が聞こえてくる。
その音に俺は思わず歓喜した。口元も勝手に緩まってくるというものだ。
だが少し気になることと言えば鈴のような音がしていることだが。
まあ、きっとどこかで気に入ったから買っただけなのだろう。
そしてその音は俺の目の前までやってくると止まった。
そうそう、そうなんだよな。こうしてわざわざ俺の前に来て、俺が顔を上げたタイミングであげ損ねたパンを急に食べさせてくるんだったよな。
何十年経っても忘れないその思い出! さあ、再び歴史通りに再現しようではないかリーゼ―――――――
「ちょっと話があるんだけどいいかしら?」
「......」
.......リーゼルじゃなかった。誰だっけこの赤髪の女。
あ、思い出したたった二週間で上級生を何人も倒している噂の紅潔の剣姫様じゃないか。
なんでこいつが俺に話しかけんだ? というか、歴史の流れはどうした! 俺の大事な放課後イベントは!?
くっそー、なんでこいつなんかに俺の貴重な放課後が潰されなきゃいかんのだ。
確かに今日だったはずだ。リーゼルと放課後に会うのは。
ともかく、今は下手に干渉せずこの場を離れよう。
「あ、あの......僕に何か用ですか?」
「その下手な小芝居はやめなさい。私は知っているわよ。あんたの顔に傷一つないことぐらい」
「!」
俺はその言葉に思わず目を見開く。それはこの女が俺の幻惑魔法に気付いているからだ。
まあ、自分の見る目を信じて勝手に俺のことを暴こうとハッタリをかましているだけかもしれないので、一応動揺した反応を見せておこう。
「え?......まさか僕が顔の傷を魔法を使って皆を騙していると思ってるの? だとしたら、それは全くの勘違いだよ。僕がボコボコにやられていたところを見ていたはずだし、それに先生まで騙せるはずがない」
「白状したわね。私はあんたに傷がないことについて言っただけよ。なのに、あんたは魔法を使って騙していたとまで言い始めた。普通なら『何言っているのかわからない』って言うはずなのにね」
「......」
チッ、ミスった。まさかこんなところでこいつに会って、そしてまさか自分がこんなにも嘘が下手だったなんて誤算過ぎた。
しかしこれで確かなことは今確実に俺の歴史は違う歴史に来ているということだ。
だとすると、どういうことだ? 俺は一体いつからミスっていた?
少なくとも俺が入学試験を終えて学院内の時のベンチに座っていた時にはリーゼルと会っておらず、あの廊下で初めて出会って放課後で話始めたはずだ。
それが本来の正史の流れ。
しかしこうなったということは少なからずあの時点で俺は違う未来へと来てしまっているということだ。
この歴史の流れでリーゼルがあの時で死ぬ以前に死ぬ未来だとしたら目も当てられない。とはいえ、それは逆のことも考えられる。
変わったことと言えばあの時リーゼルと出会ったことと今この女に出会っていることぐらいで、他に変化はなかった。
とすると、ここで下手に実力を出すのは愚策と思えるが......この女が引くとは到底思えないんだよなー。
「どうやら答えられないようね。ということは図星ということでいいのかしら?」
「ははは、さすがにそんなわけないよ。僕はただ騙すとなればそういうことをすると思っただけで他に他意はないよ」
「一応、筋は通っているようね。でも、残念。私は看破の魔法が付与された魔道具をつけているの。だから、あんたがいくらうまく隠そうとも私の目は誤魔化せない」
そう言ってその女は俺に腰にある鞘に結びつけられたペンダントのような小さな魔道具を見せつける。
うむ、良い脚だ。すらっと伸びていてハイニーソからの絶対領域に目が映る......とそうじゃない。
それが魔道具か。そんな上等な魔道具がこの時点から存在していたとはな。持っているのはさすが貴族と言うべきか。
するとその女は俺を指さしながら自信満々に告げた。
「さあ、あんたの正体を明かしてもらうわよ! ユリス・クロードフォード!」