第7話 女神降臨
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
タイトルは当然ユリス視点です
「ねぇねぇ、見た? あのランキング戦のあの試合」
「見た見た。凄かったよね、ある意味」
「それね。互いに互角同士の戦いも素直に凄いと思ったけど、あれは本当に違う意味でヤバすぎ。あのデブ、よくこの学院に入学できたよね」
「裏口入学じゃない? 少なくとも教師はどこかの貴族と何らかのパイプを持っているって聞くし。まあ、それって大概は自分の体裁や地位を護ったりする意味で聞くからあれはさすがに違うと思うけど」
「実際違うらしいわよ。噂によると辺境の地からやってきた村出身なんだって。その名前は確か......なんだっけ? ともかくそれほど知名度のない場所からやって来たから当然なんじゃない?」
「どうやってこの学院に合格できたんだろうね。ランキング戦だから必ず最下位者が出るのはわかってるんだけど、あそこまで酷いとさすがに......学院から追放されるのも時間の問題だね」
「それね! 一生分の奇跡使ったんじゃない?」
......聞こえてるぞと本当は声を大にして言いたい。
俺が廊下を歩くと全員が蔑みを通り越して哀れな目で見てくる。
そしてヒソヒソと話すことはあのランキング戦のことばかりだ。
まあ、そう思われて当然のことをした。むしろそう思われることをしたという方が正しいだろうか。
とはいえ、俺は歴史をなぞっただけに過ぎない。
俺自身としてはよくこの状況から卒業までいったなと褒めてやりたいところだ。
だが当然ながら俺の目的はこれではない。
これも大きな目的のための小さな目的ではあるが、少なくともあの場所でリーゼルを救うまでは歴史を沿わせなくてはいけない。
「ユリス君、その頬の傷は大丈夫?」
「大丈夫だよ。それよりも、レイナはこんな所にいたら困らないか?」
レイナは俺に対して本当に心配そうに尋ねてくる。その気持ちだけで十分に嬉しい。
過去の時もそうであった。レイナだけが俺のことを見捨てずにそばにいてくれた。出会ったのはたまたまであったというのに。
だからこそ、出来る限り傷ついて欲しくないのだ。
レイナは強い。しかし、心までは強くない。優しいだけなのだ彼は。
ちなみに、今の俺の恰好は顔に右頬にガーゼを貼っていて、左目は青あざが出来ている。
そして今は別の制服だから違うが、その当初はまさにボロボロといった感じであった。
もちろん、今の傷はそういう仕様である。リアリティを出すために右頬は自分で傷をつけて、左目のあざは幻惑魔法でごまかしているだけ。
俺が入学式を終えて今に至るまでのハイライトを簡単に語るならこうだ。
俺はランキング戦が始まるまでにいろいろとわざと皆をイライラさせるようなポカした行動をしていた。
そしてその状態でランキング戦、対戦相手はあの金髪サルだ。
そこで俺は無様に惨めにやられ続ける。あの時の一部からの俺に対するヘイトコールは凄かった。
それから数日が経ち、そのランキング戦を見ていた一部の人達からは先ほどのような態度を取られ、見ず知らずの明らかな同キャラ(※ここでは惨めなザコと言う意味)から罵られるという始末。
それが今だ。
先ほど俺が聴覚を発達させる魔法で聞いていた女子生徒二人の会話にあった"学院から追放される"というのは、ここが実力主義な学院だからこその発言。
どこまでいってもこの学院は実力のある貴族の学院なのだ。
幼い頃から魔法の基礎、その基礎からの応用を教え込まれた貴族にとってどこぞの村から来たチビデブは蔑みやもはや哀れみの対象でしかないということだ。
それ故か俺と同じくこの学院に入学できた平民出身もいるのだが肩身の狭い生活をしているというらしい。
そして俺はその狭さに圧をかけた人物なので同じ平民からも恨まれている。
なので、俺にとって味方と呼べる人物はこの学院で二人しかいない。
俺の質問にレイナは自分の制服の裾を引っ張ると俺に見せつけるようにしてきた。
「大丈夫だよ! これでも僕は白服なんだから!」
「そうだね。レイナは確かに強いと思うよ」
俺は微笑みながら買返答した。だがレイナは違う解釈をしたらしく......
「あ、ちが......そういうことを言いたいんだけど、きっと誤解してると思うんだけど......」
「いや、大丈夫だよ。それに仕方ないことだしね」
レイナは俺に対して申し訳なさそうな態度と表情をとる。それに対し、問題なさそうに答えていく。
レイナが俺に対してそういう態度を見せたのは理由がある。
それは俺とレイナの制服の違いだ。
現在、俺は黒の制服を着ていて、レイナ白の制服を着ている。それはこの学院において厳正に決められたルールだ。
この違いを一言で表すならオブラートに言ってレベルの違いによる区別。
この学院は実力主義と言ったが、そのうちランキング戦で優秀な成績を収めた上位半分は白の制服を着ることが義務付けられていて、それは一年時からでもよそに出しても問題ないと思われている証拠だ。
逆に言えば、黒の制服は問題児扱いと言った方がいいだろう。
こういう奴らは時間経過とともに学院の教師から強制的に退学させられたりする。
それに白の制服と黒の制服(通称白服と黒服)ではかなり区別化が高い。
白服の生徒では無料でもらえるものが、黒服では買うことになったり、他にも白服にしか使えない施設があったりと白服優遇のことが多い。
加えて服自体にも差異があって白服には防汚や自動回復、物理半減、魔法半減などの効果が付与されていたりするが、黒服には一切ない。
極めつけは一度だけ死ぬほどのダメージを受けるとその99%ダメージカットするぐらいか。つまりは黒服は死んでも問題ないと言っているのと同然。
まあ、そんな学院なのだ。ここは。
だからこそ、自分の方が力が上であるかのような行動をしたレイナは訂正するような言葉をつけたのだ。
わかっているから安心してくれ。お前を蔑むような奴が現れたら俺が直々にお仕置きをしてやる。
そして俺とレイナが二人仲良く歩いていると後ろから耳障りな声が聞こえてくる。
「お! チビデブ、良いところにいたな。少しツラ貸せよ」
「あ?」
俺は金髪サルの言葉に思わずにらつけるような目で振り返った。
金髪サルはデブと陰キャの取り巻きつきらしい。
誰がデブだ? 誰が? 俺はぽっちゃりなだけだ。殺されてぇのか低知能? つーか、お前のすぐ近くに俺よりデブがいるじゃねぇか。お前の目は節穴か?
......と汚い言葉が漏れそうになったな、失敬失敬。
ちなみに金髪サルとその取り巻きは白服だ。そっちに上がれたらしい。まあ知ってたけど。
「なんだその目はよぉ!」
「かっ!」
俺は金髪サルに廊下のど真ん中で殴り飛ばされた。口の中を少し切って、血を流しながら地面へと倒れる。
その行動にすぐに声を上げたのはレイナだ。
「ユリス君?」
だが、それを見ている弥次馬は多く入れど、割って仲裁するような奴は誰もいない。
まあ、そう簡単に出来ないとはいえ、目線が哀れみしかない。俺への反応はそれだけらしい。
やはりクズの集団のようだ。もちろん、一人を除いて。
「待って、ユリス君が何をしたっていうんだ!」
「黙ってろレイノール! お前には関係ないことだ!」
「ひっ!」
レイナは俺に近寄ろうとするがその言葉に思わず止まった。
そして俺に対して申し訳なさそうな態度を取るとそばから離れていく。
いいんだレイナはそれで。今は無理だが、いつか必ずこいつらに地獄が生ぬるく感じる現実を見せつけてやるから安心しておけ。
すると金髪サルは俺の胸ぐらを掴んで持ち上げた。その目は血走っている。
相変わらず目つきの悪い顔だな。俺に近づくな。臭いが移ったらどうするんだ。
「おい、何だぁ? さっきの目はよぉ? てめぇは死にてぇらしいな」
「ご、ごめんなさい! 悪気はないんです!」
「本気でやってただけなんだよ」って言えないのが辛いなー。あ、そうそうちなみに今のへなちょパンチは何も効いてないからな。
「うるせぇ! てめぇのようなカスに俺があんな目をされるのが気に食わねぇ! もう一度ボコボコに殴り潰してこの学園にいられなくしてやるよ!」
「ひっ!」
俺は弱気なテンプレな演技を続けていく。そして俺は頭のことで別のことを考えながら、女神が来ることを待った。
にしても、あんな目とはどんな目であろうか。ランキング戦では普通に悦に浸っていた気がするし.......もしかして入学試験の時か? マジかよ、こいつ。
そして金髪サルが俺に拳を振り上げた瞬間、野次馬が大きくざわめきだす。
その野次馬は道を開けるように突然両サイドに分かれ始めた。
―――――あ、来た。
その野次馬から一人の少女―――――リーゼルが現れた。
リーゼルはまるでそこには何も起こってないかのように歩きながら、手に持ったパンが詰まった袋から一つのパンを取り出して美味しそうに食べ始める。
俺はリーゼルと目が合った。
するとリーゼルは俺がどういう状況になっているかも気にせず近づいて来てパンを一つ咥えながら、もう一つのパンを袋から取り出すと俺に差し出す。
「ふぁふぇふ?(食べる?)」
おっほー! 女神リーゼル様がやってきたぜぇ! その金髪サルどものガン無視っぷりには俺はたまらなく痺れる! 憧れるぅ! さすが俺の大恩人。やることなすこと全て他とはちげぇぜ!
......ごほん、少しはしゃぎすぎてしまったようだ。ここは落ち着かなければ。
「え? あ、ありが―――――――」
俺がリーゼルに返答しようとするとその前に金髪サルに遮られる。
「邪魔すんな! てめぇ!」
おいてめぇこそ邪魔すんな、殺すぞ。俺とリーゼルの大事な会話の場面だっただろうが。それをぶち壊すとか何考えてんだてめぇ。
俺は内心怒りに溢れていた。だがここで事実を曲げるわけにはいかないし、それにリーゼルの前でそんなはしたない姿は見せられない。
するとリーゼルは俺に渡そうとしていたパンを袋に戻すと俺の胸ぐらを掴む金髪サルの手へと触れた。
そしてそのままその手を氷で凍てつかせていく。
「痛たっ!?」
金髪サルは痛みのあまりその場から飛び跳ねるように退いた。
そんな様子に目をくれることもなくリーゼルは俺に手を差し出す。
その揺れた髪に、パンを加える姿。そして弱者の俺を救ってくれて、強きを挫く行動。やはり君は俺の知っているリーゼルだ。
俺はその手を握ると立ち上がる。先ほど氷魔法を使ったせいか少しだけひんやりしていた。
けど正直助かったな。俺の手は興奮で熱くなっているし。
だからこそ本気で誓う。俺は必ず君を助けるよ。
「ふぃほぉ(行こ)」
「うん!」
俺はリーゼルに手を引かれながら歩き始めた。




