第6話 やるべきこと
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
やはり恩人に久々に会うのは緊張するものです
俺はどうすればいいかわからなかった。何がどうしてこうなっているのか。
確かに正史通りに―――――まあ、多少は違くとも―――――動いてきてたはずだ。
なのに! どうしてここにリーゼルが!?
俺は動揺と嬉しさのあまりに思考が上手く働かなかった。
聞こえてくるのはやたらうるさい心音と隣から聞こえてくるの菓子パンを食べる音。正直、息が詰まっていた。
なんて声をかけたらいいか分からなくて、声をかけること自体していいことなのか分からなくて。
ただわかっていることは恐らくこれは正史とは少し外れているだろうということ。
もしここで俺が違う行動を取ればリーゼルとの出会いの事実が変わって、歴史が変わってしまうかもしれないということ。
出来ればあの時まで正史通りに動いて欲しいが、実際こうなってしまったのなら仕方ない。
まあそれはそれとして、どどどう話しかけようか。
リーゼルは無心で菓子パンを食べてるし、ここは邪魔しない方がいいのでないか?
でもでも、ここで少しでも俺のことを知ってもらえるなら、それに超したことはないような気がするし。うーん、悩ましい。
するとその時、突然リーゼルが両手で菓子パンを口元に運んだまま俺に告げてきた。
「そのお肉、プニプニして気持ちよさそう」
「え!? あ、はい!......ってお肉?」
「ん、それ」
リーゼルは右手で指をさすと俺はその方向を見る。するとその指さしたところは俺のお肉であった。
あー、そういえば、過去にであった時も確かこんな風な出会い方だったな。
急になんだと思ったが、そこは相変わらずのようだ。そしてあの時は確かこう答えたんだよな。
「あの......触りたいんですか?」
「いいの?」
はい、出会って今日イチのキラキラした瞳をいただきました。まさか本当にこんな出会い方をしていたとはな。
正史とは場所もタイミングも違うけど、それでもやっている行動は同じ。
なら、この歴史は一体どう動くのだろうか。こればっかりは俺にも読めないな。
だが出来る限り同じに振舞おう。そして修正しよう。
するとリーゼルは俺の脂肪をつまむとプニプニと弾力を確かめるように触っていく。
その感触となんとも言えない恥ずかしさに俺は悶えながらもリーゼルの気の済むままになんとか耐える。
頑張れ俺! 俺が耐えるのはリーゼルを助けるあの時までなんだ。そうすれば、その後はもう枷を外せばいい。
それから数分間、リーゼルはジト目で―――――これが彼女のデフォルトである―――――無言のまま無心にプニプニしていく。
そしてやがて、リーゼルは一つ息を吐くと呟いた。
「ふぅー、スッキリ。ありがとう、触らせてくれて」
「い、いえ、それほどでも......」
俺は気が小さい風を装って答えていく。というより、恥ずかしさで本当に声が出ないだけなんだが。
するとリーゼルは跳ねるように長椅子から立ち上がるとパンの入った袋を抱えたまま歩き出す。
そして少し歩いたところで突然立ち止まるとリーゼルは頭だけをこちらに向けて告げた。
「個人的にそのお肉気に入った。また会おうね」
まじか!? 脂肪で釣れた!?
「う、うん! そうだね!」
「それから――――」
リーゼルはさらに言葉を続けていく。その時、何故か俺はリーゼルから強い視線を感じた。
その視線の意味がよく分からなかったが、リーゼルが言った言葉で何となく想像がついた。
「キミからはなんだか不思議な感じがする。見た目と不釣り合い? というかそんな感じ」
「!......そ、それは気のせいなんじゃないかな?」
「それは私が決めること。でも気のせいだとしたら、きっと強くなれるよ」
そう言うとリーゼルは軽快に歩き始めた。その後ろ姿を見ながら、俺は内心動揺が隠せなかった。
まさか俺が中身は全く違う俺であることに気づいているのだろうか?
......いや、それはないはず。仮にも俺は神の一柱に過去戻りしてもらったんだ。
さすがに神の力を見抜けるやつはいないだろう......と思いたい。
とはいえ、さすがリーゼルだ。侮れない。しかし逆に言えばふだんおっとりしてそうなタイプの子がああいう態度を見せるのは実に良き。
いや違うな。あれはリーゼルだから似合うのだ。きっとそうに違いない。リーゼル最高。
もはやリーゼルにデレたような態度を取っていると遠くから声が聞こえてきた。
やや甲高い声に、見てみれば腕を振りながら駆け寄ってくる姿。あれでスカートを履いていればさぞかし良かったと思う。
まあ、さすがにリーゼルには敵わないが、それでもかなりいい線は言っていたと自負できる。
なぜ男なのだ、レイナよ。
「ごめん、待たせて。たまたま遅いところの列になって、それでさらに実技で使っていた藁人形が一つ壊れちゃったみたいで、とても時間かかっちゃった」
「別に問題ないよ。それよりももう全員終わった?」
「うん、終わったよ。だからもうすぐ結果が出ると思う――――来た!」
そうレイナが言った直後、胸元にぶら下げていた緑色のペンダントが発光しだした。
これは筆記、実技ともに合わせた点数で合否が出たという証だ。
そしてペンダントが発光したということは合格の証。
俺とレイナは思わずハイタッチした。
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―――――時は少し進んで入学式、俺はレイナと横並びに座って入学式に参加していた。
顔ぶれは全員は覚えているわけでないが、やはりというべきか見知っている顔が多い。
それは単にいじめたやつの顔とか見捨てたやつの顔とかが記憶にこびりついている感じなので、実に腹立たしい。
それに横から金髪サルの視線を感じる。
その顔は屈辱に顔を歪ませているというよりも、何か企んでいる顔だ。まあ、その全てを知っているんだが。
とにかく、俺は目的の人物であるリーゼルに出会えたとはいえ、念の為にこれが正史通りの流れなのかを確認する必要がある。
その理由としては、出来る限り正史の方が予測した行動が立てやすいからだ。そして余計な危険は取り除きたい。
これが正史通りに動いていくとすればリーゼルは......いや、これは考えてはいけないことだ。考えて現実になってしまったらどうする。
ともかく、俺が本来リーゼルと救うタイミングまではこの雑魚キャラユリス君を演じ続けなければいけない。
正直、屈辱的で味わいたくないこともあるのだが、そこはリーゼルのためだと思って我慢だ。
俺が脳内でこれからの整理をしていくとこの学院の理事長の話が終わった。
次は一年の代表者による言葉。そしてそれを言うのは、試験の日に藁人形を破壊したやがて"紅潔の剣姫"の二つ名がつく女だ。
その女は一年スクールカーストのトップに君臨する女で散々俺をゴミのように扱ってきたんだったよな、確か。
それ以来だっけ、俺がリーゼル以外の女が全て嫌いになったのは。
まあ、今となってはどうでもいいことだし。あいつと関わることになっても適当に無視すればいいか。
俺が冷めた目で見つめているうちにその女の話が終わった。
するとその時、振り向きざまに目が合ったような気がした......いや、さすがに気のせいだろう。
今の俺はチビデブだ。可能性的に言えば俺の隣の方が高いぐらいだ。
そしてそれから適当な話が進んでいくうちに入学式が終わっていく。
さあ、ここからだ。学院が始まってまもなくで一番最初のランキング戦が始まる。
そのランキング戦で俺は――――華々しく負ける!