王宮へ向かう道中にて
久しぶりの新話投稿です。
「そういえばお母様。決意を固めて締め括ったのは良いのですが…お茶会、明日です。」
「…まぁ。ルナちゃんが綺麗に締めてくれたから、ママ、すっかり忘れちゃってたわぁ!」
私も忘れていたけどね。"一応"この国の王子からの招待なんだもの。忘れてたなんて言葉では済まない。良かった、思い出せて。
そしてお茶会の事を思い出したと同時に一つの可能性が浮上した。
そう、それは攻略対象者2人目、「ランツェ」がお茶会に来る可能性だ。
お茶会と言うのはそもそも男女2人のみで開催されることはほぼ無い。数人~数十人の男女が集まって開催されるものだ。
そしてランツェの爵位、「伯爵」レベルの家柄ならば必ず明日のお茶会に来るだろう。
次々と休む暇もなくストーリーがすすんでいく。
だが私には「前世の記憶」という最高の手札がある。前世の記憶があるという点で1番有難いのは大きくストーリーが逸れない限りどのタイミングで攻略対象者が現れるのかわかる、という点である。これにより私はある程度相手と対面する前に対策が取れる。非常に嬉しい。
だ・け・ど!
今回はあまりにも早い。2日連続で攻略対象に会うのはさすがに無理!対策が取れない。前世では選択肢を選ぶだけだっから(むしろ早くで出来て嬉しかった)楽だし簡単だったけれど、今は違う。どんな言葉を紡ぐかも全て自分自身で決めなければならない。言葉を慎重に選ばなければこの貴族社会で生き残ることは難しい。すぐに足元をすくわれるから。
今回の場合私が注意すべき相手は殿下とランツェだけだから幾らか気は楽だ。
引き締めなければならないのは変わらないけれど。
「ルナちゃん。あまり気を張りすぎちゃダメよ?気疲れしてしまうわ。せめて気を張るのは明日のお茶会の時にして、今はゆっくりしましょう?」
考え込んでいた私を見兼ねてか、お母様がそう言葉をかけてくれた。確かにお母様の言う通りだなと思った。ので「今から気を張ったって仕方がない」そう自分に言い聞かせて紅茶を一気飲みし、
(お母様から非難の眼差しを受けてしまったけれど)
息をついた。よし。お茶会よ、かかってこい。
対策?なるようになる。臨機応変に対応すれば良いのだ。と、半ば思考放棄をして考えることをやめた。
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来たるお茶会当日。
今日の私のドレスは髪の色とおなじプラチナピンク。上品に、それでいて私の魅力を引き立たせてくれるような1品である。
「まるでルミナスお嬢様の為にあるようなドレスですね…」
と、ドレスを着た私を見て見惚れた様に呟くのはシルヴィである。相変わらずその思考は私が第1なようだ。
「そう?ありがとう、シルヴィ。」
いつもの事なので、私は軽く流した。
髪は結わずに下ろしている。ハーフアップにしても良かったのだけれど、なんとなく今日は下ろしたいと思った。なぜかは不明。人間なんてそんなものよね。
それにしてもお茶会、ねぇ…お茶会には正直に言ってかなり…いや、もの凄く行きたくない。だけどもう仕方がないのだ。昨日王子が家に来た時点でだいたい察していたもんね。
えぇい!仕方あるまい!行くぞ!
と、猛将の如く勢いで馬車に乗り込み王宮へ向かった。
今回一緒に王宮へ向かうのは、私の道中護衛役のギィとシュウ。そしてシルヴィの3人。
ディータも行きたそうにしていたけれどごめんね…留守番をしてもらうことにした。
あんまり大勢で行くと周りの貴族から「ディクテイタ家は大貴族だからといって従者をたくさん侍らせている」とか「己が政権を握っていると見せびらかせているのだ」という意味不明な解釈をされかねない。止むを得ん。
馬車が王宮に向かってる途中、私は確認しなければいけないことを思い出した。
「そういえばシルヴィ、今日のお茶会に来る子息や令嬢の中で、うちの家を妬んだりしている家はある?」
お茶会と言っても、行くべき場所は王宮なのだから戦場という事に変わりはない。親に命令されて我が家になにかよからぬ事をしようと画作している子息や令嬢も少なくはない。
「表面上はいないように思えました。その代わり、ディクテイタ家に取り入ろうと考えている家がちらほらと。」
成程ね。まぁその辺は想定内だったから大丈夫だと思う。
お母様に習った通りに軽くあしらえば良い。
そして前世で何かをはぐらかす時にとてもお世話になっていた言葉「善処します」を使えばさらに完璧である。なんか使うのが楽しみになってきた。
ああそうだ。もう1つしなければいけないことがあった。
「ギィ、お願いできるかしら?」
「は、承知。」
「出来るだけで良いからね。無理だけはしないように。」
「御心のままに。」
私のもうひとつしなければいけないこと、それは至って簡単
「アルバート家の不正なお金はどこから来ているのか〜!」に、ついて調べる事!
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それは昨日の夜のこと。
私が明日に備えて寝ようと寝室へ向かおうとした時、お父様が私を呼び止めた。
「お父様、どうされましたの?」
「すまんな、ルナ。お前が寝ようとしていた時に。」
「いえいえお構いなく。お父様が私を呼び止められたということは、明日のお茶会で何か探りを入れて欲しいことでも?」
「ははは、その通り。流石俺の娘だ。年々俺に似てきたな?」
「もう、そういうのは今は良いのでご要件をお早く!」
そうお父様に告げるとお父様は真剣な顔をして話し始めた。
「近頃どうも王宮に嫌な空気が流れていてな。こういう嫌な空気が流れる時は大体金がつるんでいる。俺の勘が間違っていなければだが...アルバート家が王宮の金庫の金を不正に使っているとみた。だからルナ...もといギィに探らせて欲しいんだよ。俺の配下の奴らは別件で動かしていてな。ルナにしか頼めない。丁度明日王宮へ行くんだろう?ここはひとつ、頼まれてくれないか?」
ふむ、基本的にお父様が私に頼み事をすることなんて殆どないから
(お父様配下の影がいつもコソコソ動き回っているのは知っているけれど)
何事かと思ったけどそういう事ね。影は全員別件。お父様もまた随分大きな獲物を追ってらっしゃる様で。
「そういう事ならお任せを。ギィ。」
「は。」
「聞いていたわよね?あのお父様が頼りにしてくれているもの、頼めるかしら。」
「お安い御用です。」
「ふふ、ありがとう!という事でお父様、私もといギィがそのご命令、謹んでお受け致しますわ!」
「それは頼もしい。すまないね、頼んだよ。」
闇夜のディクテイタ家でお父様、私、ギィを交えた密談(?)は、こうして締め括られたのである。
(なおロウソク1本を囲んで密談したので真っ暗ではない)
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と、言う訳で。
私は表からランツェに探りを入れて、ギィは裏から王宮内で動くという二重の探りを入れる。
ゲームの設定のままなのであれば、ランツェはかなり鈍感で探りを入れられても気づかない筈だから簡単だろう。
ただし、殿下や他の貴族の邪魔さえ入らなければだけれど。他の貴族は何とかなるとして。問題は殿下だ。
昨日あれだけ色々張り切っていたから今日もなにかしでかすのではないかと思わざるを得ない。
いや、フラグを自ら立てるのは辞めておこう。
そんなこんなで考えに耽っていると、シルヴィから
「お嬢様、もうすぐ王宮です。」
と、伝えられた。
「ありがとう、シルヴィ。」
よし、頑張りますか。
改めて気合を入れ直しつつ、令嬢モードをONにした。ここからが本当の勝負である。
1日1投稿は厳しいとは思いますが、なるっべく頑張ります。