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もふもふ異世界料理人 しあわせご飯物語  作者: りょうと かえ
貝殻の国、料理対決

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乙女心が揺れる時

 とめどもなく、日本の歴史紹介は続いていた。

 石器時代から始まり、縄文から様々な時代へ移り変わりながら。


 王様は聞き手として静かに頷きながら、聞いてくれている。

 ただ、歴史上の重要点では質問を投げ掛けてきた。


「源の義経は何を思って兄と対立することになったのでしょう?」


「織田信長は、どういう思考で勝ち抜いてきたのですか?」


 つまり、当時の人たちの考えを引き出そうとしていた。


 教科書に書いてあった答えから私の空想まで、まちまちに答えるしかない。

 王様は私が何を語っても、自分の考えを述べることはしなかった。


 私はありがたいような、恐ろしいような気持ちになった。

 王様は私の話から、どんな日本を描くのだろう。

 一介の大学生、料理人には想像もつかない。


 心を読めるアリサは耳を伏せ、寝ているかのようにおとなしい。

 つまり、王様の考えがわかってたとしてもノータッチということだ。


 紅茶で喉を潤し数度の休憩をしながら、私はなんと現代の話まで行き着いてしまった。

 予定では天山の国から貝殻の国まで、ほぼ日中全てを使うはずなのだ。


 出発はだいたい朝のうちで、ずっと話をし続けたことになる。

 果たして、どれだけ長話をしてたのだろうか。


 若干喉が痛かったけれど、王様の好奇心というか姿勢もたまげたものだ。

 私の拙い話に、こんなにもつきあってくれたのだから。


 ふと、私はこんなに長時間男の人と話をしたのは、初めてだと気が付いた。

 ウィスキーのせいかもあるかも知れない、胸の奥と手のひらが熱くなる。


 さらさら金髪と、さわやかな笑顔で、よく見ると結構体つきががっしりしている。

 中世なら乗馬とかもしてるんだろうな。


 私とは全く世界が違うイケメンだ。

 とってもとっても素敵な人だ。


 ああもう、苦しい考えを止められない。

 もし神祖のことがないのなら、王様は私なんて歯牙にもかけない。


 丁寧で優しいのは撫でているアリサのおかげであって、私自身を見てはいない。

 彼女たちが力を取り戻せば、契約も終わりだろう。


 以後はきっと、二度と王様と会うことはない。

 こんなに話をしていても、手の届かない人になる。


 当然でもあり、悲しくもある。

 悲しい? そうだ、私はいつか来るさよならを悲しんでいる。


 別れを言えないかもしれないし、言えるかもしれない。

 仕事の繋がりとはいえ、なんともむなしい。


 王様が日本人なら、きっと連絡が取れるのに。

 神祖のことが終わっても、友達くらいにはなれるのに。


 窓の外から射し込む光が傾き始め、オレンジの斜陽が私たちを包みこむ。

 外は見ていないけれど、カモメの鳴き声が響いてきた。


「……貝殻の国が近くなったんですね」


「ええ……もうすぐ平野が終わり、海が見えてくるでしょう」


 海、潮か。

 塩を舐めた後のような、そんな私がいるのであった。




 ◇




 グリフォンは大きすぎて、港町ではなく広い野原へと降り立った。

 宿泊場所は大使館で、そこまでは厳重に警護され向かうことになる。


 馬車が今度は、ペガサスに繋がれて動き始める。

 人の上を飛ぶのはまずいらしく、蹄で音を立てながらの行進だ。


 窓越しに見るのは、まさに潮騒の街だった。

 黄昏は終わりを告げて、薄暗がりになっている。


 それでも港町は喧騒に満ちていて、レムガルドの活気を肌で感じる。

 街ゆく人を遠目でも見たのは、実は初めてだったのだ。


 汗と塩気がべったりと肌につくからか、みんな薄着で日焼けしている。

 着飾っている天山の国とは真逆の身軽さだ。


 道行く人も興味深げにするけれど、交易の国らしく過度に反応されはしない。

 失礼に当たるので、私もじろじろ見たりはしなかった。


 小一時間で白塗りの大使館に着き、アリサを抱えながら手を引かれて馬車を降りる。

 当たり前のようにエスコートされてしまったのだ。


 頬を染めまいと懸命になる私に、王様は小憎らしい程いつも通りだ。

 すでに夜といっていいくらい、周りは暗くなっていた。


 街灯のない世界は、心細くなるほど黒塗りだ。

 魔法で照らすガス灯みたいなものもあるけれど、地球と比べれば数は少ない。


 事前にアリサがきっちり言い含めていたのだろう。

 助かることにラッパも歓迎会もなしだった。


 クッキーを食べ続けたのもあって、お腹はほとんど空いてない。

 喋り通しでもあったし、明日のことも考えて早寝したかった。

 アリサも同様に、あまり喋らず動かずにいる。


 部屋は天山のデザインらしく、豪華に彫り物が張り巡らされてる。

 王様には抜かりはなかった。馬車と同じく、クラシックなスイートルームだ。


 ああそうだ、ニナに言われていたのだ。

 魔法の繋がりを維持するために、一緒に寝るようにと。


 汗を流してさっぱりした私は、アリサを抱っこしてベッドに入った。

 アリサももふもふだけど、薄い掛け布団なので厚くない。


 今のアリサは、本当に胸の中に収まる。

 サイズ的に、あったかい抱き枕だ。


 どの程度一緒にいればいいのかわからないので、結構ぎゅっとしてしまう。


「苦しくないですか?」


「……大丈夫」


 小さな声で、アリサが答える。


「なら……良かったです」


 明日はついに料理対決だ。

 もふっとした彼女を抱きしめながら、私は眠りに落ちていくのだった。

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