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もふもふ異世界料理人 しあわせご飯物語  作者: りょうと かえ
貝殻の国、料理対決

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33/44

紅茶と王様

 王様が一緒に取り出したのは、古びた黒い木製のコップが三つだった。

 底が広く高さは控えめで、倒れにくくなっている。

 彫りは控えめで、どことなく侘びさびを感じさせるものだった。


 コップを長机に置き、王様は小瓶を傾ける。

 慌てて手を出そうとするが、片手をそっと出されてしまう。

 にこやかに小首も振られれば、もう黙っているしかない。


 ああ、何から何まで世話になりっぱなしだ――。

 つま先が丸くなってしまう。


 濃厚な赤の液体が、つつっとコップへと注がれていく。

 瓶に閉じ込められた紅茶の風味と、アルコールの香りがクッキーと混じりあう。


 甘いお菓子と一緒に、身体を温める組み合わせだ。

 注ぎ終えたコップが、品良く少しだけ前に差し出される。

 私とアリサ、そして王様自身の分だろう。


 飲まないわけにはいかないし、クッキーの食感が残ってる。

 飲み物が欲しいのは、嘘偽りない気持ちだった。


 ええい、料理対決はどうせ明日だ。

 今日はグリフォンの旅を満喫してしまえ。


 私はぐっとコップを掴み、口元に寄せていく。


「どうぞ、遠慮なさらず」


 王様は、なんかちょっとだけ楽しそうだ。


 あるいは、料理人の私に振る舞えるのが嬉しいのかもしれない。

 そういう人は、どこにでもいるものだ。


 問題は、相手が恐れ多くも王様だという事実だけれど。

 見つめられるまま、コップをくいっと口につける。

 おっかないので、舐めるように少量だけだ。


 風鈴のような爽やかさが、まずクッキーの後味を流してくれる。

 舌先のジャムが、紅茶に洗われる。


 続くのは、麦のぐいっとした味わいだ。

 乱暴な味のようで、クッキーとは絶妙に調和する。


 お酒に詳しくない私でも知っている、アイリッシュウィスキーだ。

 雑味がなく、麦の力を存分に感じさせてくれる。


 心配したほど、アルコール分は強くない。

 ほとんど紅茶ちょっとだけウィスキーだ。


 飲み過ぎなければ、大丈夫。

 むしろほんのりいい気分で、旅をエンジョイできる。


「……あれ、そういえば揺れないですね」


 ガラス皿も音を立てることがない。

 コップの中の紅茶も、静かに水平を保ってる。


「まっすぐ飛ぶよう、訓練させていますからね。あとは馬車の側面に、様々な装飾があったでしょう? たくさんの魔法で乗り心地を良くしています」


 馬車の中も、蒸してはいない。

 かなりの早さで飛んでるようだけども、風切る音も騒がしくない。


「もちろん、御者の腕もありますがね。これほどの大編隊で飛行するのは、私が即位してはじめてでしょう。グリフォンと心を合わせ、緊張させないようにしているのです」


「……うう」


 小声で、私は唸ってしまう。

 一目見た時から、すごい送り届けだと思っていたけれども……!


「彼方……気にしない、気にしない」


 もふりと、アリサが長椅子に頭を横たえる。

 体力の消耗を抑えるためか、普段よりもアクションが少ない。


 窓から外を見ると、山々を軽々と飛び越えていく。

 高さからすると相当寒いはずだけど、室温は変わらない。


 雲や霞を走るのは面白いけれど、ずっと外を見ているわけにもいかない。

 アリサがお休みモードに入ってしまったので、とにかく手持無沙汰だ。

 クッキーをあっという間に食べつくすのも品がない。


 やむなく、片手でアリサの頭をなでなでする。

 ひくひくと鼻をぴくつかせるけれど、嫌ではないようだ。


「ところで、彼方様……」


「は、はいっ!」


「空の旅はいささか長く続きます……良ければ、地球の話を聞かせて貰えませんか?」


 王様はしっかりと私の顔を見ながら、問いかける。


 助かった、身体が軽くなったようだ。

 このままずっと沈黙するくらいなら、寝るしかないと思ったのだ。


「え、ええ……もちろんいいですよっ」


「感謝します、彼方様。では、そうですね……彼方様の国のことはどうでしょう?」


「国、ですか……?」


「性分でしょうか、見知らぬ国に興味があるのです。神祖様も行かれたのでしょう? ぜひ、お聞かせください」


 それは生粋の王様らしい理由だった。

 私なら、きっと料理について根掘り葉掘り聞くだろう。


 でも、国といっても話題は幅は広い。

 日本の地理か、日本人か、今の生活風景か。

 どれが一番聞きたいことなんだろう。


「そ、そうですね……え、えーと何から話しましょうか……」


「日本という国の建国から……では、どうですか?」


 真剣な眼だ。射抜かれそうなくらいに、見つめられる。

 教科書通りにしか話せない話題だけど、汗が出そうだ。


 私はそこで、王様の意図を読み取った。

 王様は――私を通して、日本を秤にかけている。


 直球に、真面目に、知ろうとしている。


 思えば、巴姉さんが言っていた。

 天山の国王と謁見してしまうとは、と。


 つまり巴姉さんのようなお役人も、王様とはおいそれと会えないのだ。


 もしかしたら、王様と最長の時間を過ごす地球人になるかもだ。


 いまさらながら生唾を、ごくりと飲んでしまう。

 アリサを撫でていない手すきの指を、曲げ伸ばしせずにはいられない。


 でも私は、私の知ることを話すだけだ。

 馬車の天井に目線を移し、思い出しながら声を出す。


「まず、私の国は島国で……大陸から人が渡ってきたんです。はじめに石器時代があって、それが大体十万年くらい前で――」


 長い話になるだろう。でも、今回も含め素敵な時間を過ごしてきたんだ。


 これくらい、安いものだった。

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