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真・恋姫†無双~北刀伝~  作者: NOマル
第二章~新たな出会い~
41/90

~群雄、黄巾の乱を鎮めんとするのこと~【合戦の場】

つ……疲れた……!!

今回は戦闘描写ばっかりな回になりました。

台詞とかも意味不明な感じに聞こえるかもしれません……。


それでは、どうぞ!



―――時は少し遡る。

一刀が率いる軍と対面する少し前、天幕の前で左慈は懐から紫色の珠を取り出す。葛玄から譲り受けた謎の珠。左慈が少し眺めていると、横から蟇蛾が話しかけてきた。


「何々?モウ早使ウノカ?」

「……どの戦でも、大将を討ち取られれば軍の士気は狂う。奴等は数万相手に出し惜しみせず全ての兵力をぶつけてくるだろう。陣地が手薄になった所を“コレ”で叩く」

「ナァ~ルッホド♪」


蟇蛾が感心していると、左慈は珠を握りしめている手に力を込める。氣を流し込むと、珠は点滅する様に発光し始めた。まるで心臓の鼓動の様に早くなっていく点滅。そして左慈は、それを地面に叩きつけた。


バキィッ!と硝子が割れる音。珠に封じられていた“ソレ”は、地中へと潜っていった。


「ソンジャ、ヨロシクナァ~【大蛇(おろち)】」

「下準備はこれでいい。俺達も行くぞ!」

「イェッサ~~!!」

「グルォォォッ!!」


号令に雄叫びで返事をする闇の軍勢。

こうして、戦地へと向かっていくのであった。















それぞれの戦が繰り広げられている最中、曹操は軍師達と天幕にて待機していた。


「物見に出した典韋は?まだ戻って来ないの?」

「はい。少し落ち着かれては……?華琳様らしくありません」

「……そうね」


荀イクから茶を渡され、それを飲んで心を落ち着かせる曹操。


「…………」


ピクリと眉を動かす曹操。口元に運んだ茶碗を傍らにある机上に置いた。唐突に立ち上がると、そのまま前へと歩み始めた。


「華琳様?どちらに―――」

「桂花、今すぐこの場から離れなさい」

「えっ?」

「いいわね?」


有無を言わせず命令を下し、曹操は天幕の出口へと向かう。






「雲が出てきたのです……」

「はい。皆さん、どうかご無事で……」


朱里と程イクの二人は外に出ていた。

暗雲立ち込める大空に、祈りを捧げる朱里。

すると、天幕から曹操が出てきた。しかも、手には愛用の得物である鎌“絶”が握られている。


「そ、曹操さん……?」

「二人共、ここから少し離れてなさい」

「えっ?」

「じゃなきゃ―――死ぬわよ?」


言葉を発した瞬間、軍師二人の後ろ―曹操からすれば前―から“ソレ”が出現した。地面から出た途端、二人に襲いかかろうとするも、そうはさせまいと曹孟徳の一振りで防がれた。


「はわわっ!」

「これは……」

「へぇ、これも太平要術の力なのかしら?」


朱里は怯え、程イクは微かに驚きの表情を見せ、曹操はじっと観察する等、三者それぞれ違う反応を見せる。


首元から尻尾にかけて白色の蛇腹模様があり、背中は正反対の黒い表面で、無数の棘が毛の様に生えている。全長10メートルはあり、細長く、四肢のない体。

赤眼で三人を睨みつける巨大な蛇は、開口して鋭利な牙を見せつける。涎で糸を引いており、荒い鼻息も相まって、獰猛な印象を植え付ける。


「二人共、下がってなさい。ここにいられたら足手まといよ」

「えっ、でも……」

「……了解しました。曹操様、御武運を」

「あ、程イクさん!」


曹操の意思を汲み、程イクは邪魔になるまいと、朱里の手を引いてその場から立ち去っていった。

横目で確認した後、大鎌を軽々と振り回し、相手に突き立てる。


「我は曹孟徳。覇の道に立ちはだかるのならば、例え魑魅魍魎とて容赦しない!!」


ギシャアアアアッ!!!


甲高い咆哮を放ち、大蛇は口を上下に開き、曹操に突進していく。


「ふっ!」


跳躍する事で難なくかわす。しかし、空中にいる所を狙ったのか、大蛇はすぐに方向を定め、牙を突き立てる。曹操は慌てる事なく体を捻り、大蛇は空気に噛みついた。

曹操は鎌を両手で持つと、宙で回転しながら刃を突き刺した。


(っ!硬い……!)


予想以上の強度を誇っているらしく、切っ先が数ミリも入らなかった。今度は尻尾が襲いかかる。鞭の様なしなやかさ、動きが俊敏で、曹孟徳本人に浴びせられる。


「ぐっ……!」


咄嗟に鎌を盾に使う事で激突を和らげたが、それでも衝撃は凄まじかった。吹き飛ばされた曹操は、天幕に叩きつけられた。支柱が崩れ、天幕用の布に包まれる。


「華琳様!!」


悲痛な表情で愛する主の名を呼ぶ荀イク。その声に気づき、大蛇は顔を彼女の方に向ける。命令通りに離れようした時に、曹操が吹き飛ばされる瞬間を目撃した。足を止めてしまい、大声を出してしまった為、敵に気づかれてしまった。


「あっ……!」


両手で口を押さえるも、相手はすぐ側まで来ていた。獲物に狙いを定め、荀イクに牙を向く。

迫り来る恐怖に、目を瞑る。




―――何かが砕ける音が、鼓膜に響いた。ゆっくりと目を開くと、そこには愛する主人がいた。


「華琳様っ!」


先ほど攻撃を受けたのが嘘の様に、その後ろ姿は堂々としていた。対する大蛇は、激しく後退し、よろめいていた。

よく見ると、自慢する様に見せつけていた鋭利な牙が一本折られていた。


「桂花、離れなさいって言わなかったかしら?」

「も、申し訳ありません!」

「……まあ、無事でよかったわ。とにかくこの場から即去りなさい」

「はい!お気をつけて!」


荀イクは曹操に一礼すると、回れ右をして走っていった。

この場には自分と相手しかいない事を再確認すると、曹操は鎌を構え直す。


「私としたことが、少し油断したわ……。だが、それもこれまで」


一瞬瞼を閉じると、すぐに見開く。覇気が込められた眼光は鋭く、凍てつく様な冷たい眼差しだった。


「私の可愛い部下に手を出そうとしたんだもの。ちょっと“本気”を出させてもらうわ……!」


口角が妖しく上がる。

途端、曹操の姿が消えた。

大蛇はキョロキョロと見回す。


「こっちよ」


見上げた瞬間、斬撃が大蛇を襲った。曹操の絶は二本目の牙を折り、更には下唇付近に傷を負わせた。

華麗に着地すると、すぐに体勢を立て直して得物を突き立てる。


「要するに、体の下部分を攻撃すればいい訳ね」


勝機が見えたのか、更に笑みを濃くする曹操。本能的に理解したのか、大蛇は追撃を開始する。


「―――馬鹿が……」


もうこの時点で、勝敗は決まっていたのかもしれない。

覇王曹操は、蝶の如く華麗に舞い、まるで演舞を披露しているかの様に、その武を相手に見せつけた。


















ついに二つの大軍による戦が開戦した。

一万はいる白装束の集団―白夜(びゃくや)軍―は急な坂になっている渓谷を駆け降りていく。対して数千の軍勢―流星軍―は、一刀を筆頭に突撃を緩めない。



このまま正面衝突するかと思いきや、


「全軍、展開!」


一刀は刀を縦に振ってそう叫んだ。その号令を合図に、六列縦隊になっていた流星軍の両端がそれぞれ左右に別れていく。左の二列先頭が昴。右が瑠華で、真ん中の一刀率いる列は、そのまま進んでいく。


「なにっ!?」

「アイツラ、挟ミ撃チニスルツモリカアッ!」


上から見下ろしている左慈と蟇蛾。


「全員、必ず二人一組で確実に攻めるんだ!一人で戦おうとせず、互いに補い合え!!」


後方の兵達にそう叫ぶと、一刀は刀を大きく振りかぶり、白夜軍めがけて振り下ろした。


「“流星迅”!」


振り終えた刀から放たれる三日月形の斬撃。更に数回振る事で、斬撃を増やす。

敵軍の矢の雨を叩き落としたのも、これなのだろう。

その斬撃は先制攻撃の役割を果たしており、白装束の軍団を次々に切り裂いていく。急な斜面だった事もあり、白夜軍はバランスを崩してゴロゴロと転げ落ちていく。それを逃さず、流星軍は攻撃を開始していく。


「今だあっ!!」

《おおおおおおおおっ!!!》


ドミノ倒しの様に続いて倒れてくる白装束。上から眺めていても、どんどん殲滅されていくのが目に見える。


「むんっ!」

「はぁっ!」

「ぐあっ!」


白装束の兵は槍を突きだしてきたが、それを横にずらし、首筋を切り裂く。後ろからも剣を降り下ろすが、刀を後ろに回してそれを防ぎ、前に受け流して背中を切りつける。

今度は剣で突いてくる、切りつけようとするが、一刀は全く動じない。

突いてくる腕を脇で捕らえ、切りつけようとする腕を片手で止める。体を捻って脇に挟んだ相手の骨をへし折る。次は相手の両腕を切り裂き、腹部を一閃。

白装束の兵士に回りを囲まれながらも、それを冷静に対処していく一刀。

そんな一刀の活躍もあり、味方の兵士達の士気も上がり、戦況はこちらの物になりつつある。


「ニャロウ……!コウナッタラ、弓矢兵用意シロ!」


蟇蛾は弓矢兵に命令する。

しかし、その弓矢兵は突如左右から飛来してきた矢によって倒されていく。


「そうはさせないよ」

「我等がいる限り、弓矢は射たせん!」

「ンナッ!?」


左右に別れていた二列の軍。勿論、挟み撃ちする事もそうだが、相手の遠距離攻撃を妨害する役目も受け持っていた。

まさかの攻防により、段々と討ち取られていく白装束の兵達。


「コンノッ!」

「はあっ!」


舌を突出させる蟇蛾。瑠華も紐で繋がれている短剣を投げつける。


「そうはさせない!!」

「クゥォンノ餓鬼ガアアアア!!」


単眼を大きく見開いて怒りを露にする蟇蛾。完全に狙いを定めた蟇蛾は、瑠華に襲いかかる。


(こいつだけでもこの場から引き離せば……!)


瑠華は蟇蛾を誘導するかの様に、背を向けて走り出す。


「逃ゲンナゴラアッ!」

「だったら捕まえてみろよ!!」

「テンメェ……ブッ殺ス!!」


文字通り血眼になって、瑠華を追跡する蟇蛾。




「グァオオオオッ!!」

「でぇええええい!!」


突進してくる鉄拐を大太刀で食い止める昴。二人の体格差はかなりあり、昴も巨体の鉄拐を受け止めているのがやっとの様子。全身の力を持って押し退けると、蟇蛾を戦地から遠ざけようとする瑠華の姿を目にする。


「瑠華の奴……。よしっ!こっちだ!!」

「グルルッ!待ァテェエエエエ!!」


自分も同じ作戦で行こうと、昴も鉄拐を挑発し、遠くへと誘う。単調な鉄拐は簡単に乗り、昴の後を四足歩行で追いかけていった。








白装束が討ち取られていく最中、左慈がついに動き始めた。


《ぐああああっ!!》

「っ!みんな!!」


味方が数人吹き飛ばされ、一刀の足元にまで転げる。


「しっかりしろ!おい!!」

「うぅ……!」


一人で堂々と歩いてくる左慈。歩みは緩めず、地面をしっかりと踏みしめていた。


「この野郎!!」

「雑魚が……」

「ぐほぁっ!!」


数人がかりで取り囲む兵士達。しかし、左慈はものともしなかった。

まず目の前にいる相手の顔面に肘鉄。すぐに裏拳で頬を叩き、正拳突きで腹部を貫く。更には得意技である足技で完膚なきまでに捩じ伏せていく。


「ふんっ……屑が群がっても、所詮はこの程度か」

「貴様っ……!」


一瞬にして数人の相手を叩きのめした左慈。仲間を傷つけられ、屑呼ばわりした男を睨み付ける一刀。

剣戟が飛び交う戦地で、じっとお互いを見つめ合う一刀と左慈。


「…………」

「…………」


一刀は流星丸に手を添え、腰を低く構える。左慈も居合いの様に、体勢を低くする。


携えている刀は光り輝き、突きだしている拳には紫色の氣が流れている。


まるで、この二人だけが別の空間にいるかの様に、周りの全てを寄せ付けなかった。


「今度こそ貴様を……殺す!」

「俺達は生きて帰るんだ……だからこそ今は―――」


―――お前を……倒す!!


刹那、二人は同時に飛び出した。

ぶつかり合う刀と拳。

光と闇の氣同士が火花を散らして競り合っている。


「ぐっ……ぁぁぁあああああ!!」

「ぬっ……ぉぉぉおおおおお!!」


腕も気迫も互いに互角。

弾き合うと、一旦距離を離す。

流星丸の斬撃と闇の氣による打撃。

またも激突する二つの力。


「北郷おおおおおおおお!!」

「左慈いいいいいいいい!!」


二人の闘いは更に激しさを増していった。
















一刀のいる場所からやや遠くへと離れ、蟇蛾を誘い込む事に成功した瑠華。

追いかけている最中、蟇蛾の口元に一筋の線が入る。糸を引きながら、口の様に上下に分かれた。


「食ライナア!!」

「くっ!」


口から突出させた舌が、蛇の様に唸っている。瑠華は撃剣でそれを防ぎ、逃走の足を止める。


(これ位離れれば、邪魔をする事は出来ない)

「ナンダァ?観念シタノカァイ?」

「勝手に言ってろ……。僕がお前を倒す!」


逆手に持ち変えて、蟇蛾と向かい合う瑠華。金色の瞳は鋭く相手を睨む。


「……ムカツクナァ、ソノ目」

「…………」

「ホンット……ムカツクゼェ!!」


地面を強く蹴り、爆発的な瞬発力で一気に距離を縮める蟇蛾。水掻きが付いた両手を大きく伸ばし、瑠華に突き立てる。


「死ネェ!」

「―――遅いよ」

「グガッ!?」


当たると思ったその攻撃は空を切り、同時に後ろで囁く声。驚く間もなく、蟇蛾は背面に衝撃を与えられた。

瑠華は体を伏せる事によってかわし、すぐ後ろに回り込んで、背中を切りつけた。


「コンノ……ォォォオオオ!!」

「っ!!」

「ゲボァッ!!」


体勢を立て直して、飛び蹴りを繰り出すも、屈む事でかわした瑠華。もう一度得物を握り直すと、すれ違い様に四閃し、相手の両腕、両脚を切り落とした。

ボトリッ!と生々しい音を出しながら、荒野の地面に落ちる蟇蛾。


「ギャアアアアアアアアアア―――ナンテネ」

「…っ……!」


悲鳴をあげるも、すぐにふざけた様子を見せる蟇蛾。その余裕を見せつけるかの様に、地面に落ちていた四肢が磁石みたいに蟇蛾の切断面にくっついていく。

持ち前の“再生能力”何もなかったかの様に、すっと立ち上がる蟇蛾。


「……中々しぶといね」

「ケケケ、コレガオイラノ取リ柄ナンデナ♪」


悪態をつきながら、撃剣を構え直す瑠華。



ドゴオオオオン!!



〈ぐおぁっ!〉


「っ!?」


後ろを振り向くと、見知った顔がそこにあった。

昴は太刀を杖代わりにして立ち上がり、自らを吹き飛ばした相手を睨み付ける。


「相変わらず硬ぇな……コイツは」

「ギシシシ……!」


全身黒色の棘だらけの怪獣、鉄拐。棘の硬度はとてつもなく、普通の鉄板なら容易く貫き、ある程度の爆薬攻撃にも耐えられる程の体を持っている。

重々しく昴に近づいてくる鉄拐。異常に発達した両腕を使い、ゴリラの様に歩行している。


「オマエノ攻撃……全然効カナイ……」

「ほざけっ!」


太刀を構えて、再度突撃する昴。大きく振りかぶり、脳天めがけて降り下ろす。

だが、鈍い金属音が鳴るだけで、毛の様に生えている棘に阻まれてしまう。


「ぐっ…くっ……!」

「オマエ……弱イナ……!」

「うわぁっ!?」


がら空きになった脇腹に拳を繰り出す鉄拐。太刀の柄で防ごうとするも、凄まじいパワーの前には敵わず、近くの岩に叩きつけられる昴。背中からぶつかり、岩には亀裂が走った。


「ぐはぁっ……!」

「昴!」

「オットォ!余所見シテチャ駄目ナンジャネェノ!?」


目を離した隙に、蟇蛾が瑠華の脇腹に蹴りを入れた。自分も吹き飛ばされ、地面を数回転ぶ瑠華。


「くっそぉ……!」

「ギィシャアアア!!」

「うおっ!?」


鉄拐は大きく開口し、鋭い牙で噛み砕こうとする。昴は咄嗟に太刀の刃で対処するも、気を抜いたら今にも噛みつこうとする勢いに圧され、全身に嫌な汗をかく。


「オラオラ、ドウシタドウシタァ!?」

「ふっ!くっ!はあっ!」


両手脚をゴムの様に伸ばし、伸縮自在の舌をも使った、トリッキーな動きで攻撃する蟇蛾。相手のトリッキーな動きに翻弄され、瑠華も撃剣で防ぐばかり。


「グガガ……ガガ、ガ……!」

「こ……のぉ……!」


ガジガジと太刀に噛みつく鉄拐。全身の力をもってしても、昴は押し返すのが出来ずにいた。


(まずいな……援護に回りたいけど、この状況じゃ―――)

「モラッタァ!!」

「しまっ―――」


横目で昴の安否を確認する瑠華。その隙をついて、蟇蛾の舌は瑠華の腹部へと放たれる。


もう少しで貫く――――――






――――が、一本の矢によって阻まれた。

反応して、瑠華から距離を置く。瑠華もつられる様に、蟇蛾と共に矢が放たれた方向へと視線を向けた。

そこには、弓矢を構えた水色の髪をした女性がいた。


「か、夏候淵さん!?」

「月読、だったか。どうやら間に合った様だな」


弓を少し下げ、フッと微笑を浮かべる。


「どうしてここに?」

「先日、関羽殿から頼まれてな。伝令を送っていたのだが、何やら異変の知らせを聞き、ここに駆けつけた」


黄巾党の動向を調べる為に愛紗と共に行動した際、彼女から頼まれていたのだ。そして二人が率いている黒騎兵達は、白夜軍と戦闘を繰り広げている流星軍の援軍に向かっている。


「それに、私だけではないぞ?」

「えっ?」

〈でぇりゃああああああ!!〉


鉄拐の牙を必死に食い止めていた昴。突然、横から大剣を持った女性が現れ、鉄拐をその大剣で薙ぎ払った。切断まではいかないが、3メートルはある巨体を吹き飛ばすのは容易ではない。


「グゥウウッ!!」

「はぁ…はぁ…はぁ……!」

「小僧、何を手間取っているのだ!」

「か、かたじけない……夏候惇殿……」


大剣を両手で構える夏候元譲。昴は礼を述べると、太刀を使って立ち上がる。


「ケッ……邪魔ガ入リガッタナ」

「グゥ……グルォォオ!!」


鉄拐は四足で夏候惇に突進していく。走る度に地面が陥没し、ひびも入っている。


「なめるなぁ!!」


夏候惇は大剣でそれを食い止めた。少し地面を擦ったが、それでも獰猛な怪物の動きを止めていた。


「せぇぇぇぇいぃっ!!」

「ゴガァ!!」


横に流すと、鉄拐の喉仏部分に大剣を振り上げた。ドスッ!と思ったより深く入ったらしく、鉄拐は呻いて後退る。


「テ、鉄拐!」

「ふっ!」

「ウォットォ!?」


余所見をしていた蟇蛾に数本の矢が撃ち込まれた。体を捻る事でかわし、矢は空を切る。


「チョッ、イキナリ過ギンダロォ!?」

「戦いの最中に目を反らす奴が悪い」

「アアモウッ!メンドクセェナァ!!」

(あやかし)と一戦交えるのは初だが、敗ける訳にはいかん」


蟇蛾は舌を何度も飛ばしてくるが、夏候淵は弓矢を構えたまま、それをかわしていく。同時に三本の矢を放つ。

一本目をかわし、二本目ははたき落とす。三本目は目前に迫った所で、片手で受け止めた。飛んでいるものを掴むのは容易ではない。だが蟇蛾の場合は、動体視力が非常に優れており、大きな螺旋状の単眼は伊達ではない。


「ヒィ~、危ネェ危ネェ。三本モ飛バスナンテ中々―――」


瞬間、蟇蛾の右肩に一本の矢が突き刺さった。


「ンナッ!?」

「“三本”ではない。正確には“四本”だ」

「イ、イツノ間ニ……!?」


夏候淵は三本の矢とは別に、もう一本の矢を上空に飛ばしていたのだ。その矢はグラフの弧を描く様に、蟇蛾の肩へと落ちていったのだ。

冷静沈着な彼女らしく、そこまで計算されていたのだろうか。


(す、すごい……これが夏候惇さんと夏候淵さん……!)


瑠華は後方でその戦いを見ていた。二人は曹操の側近で、一軍を率いる将軍。その名に恥じない武を見せつけていた。


「ク、クソォ……!」

「グル、ゥゥ……!」


一旦合流する蟇蛾と鉄拐。

瑠華と昴、夏候姉妹も四人全員で集まる。


「さて二人共、まだ動けるな?」

「「はいっ!」」

「うむ、よくぞ言った!」


四人は揃って武器を構える。


「さあかかってこい!この夏候元譲が戦場の屍に変えてくれる!!」

「姉者、油断はするなよ?」

「瑠華、俺達も負けてられないな?」

「うん。行こう!」


士気も高まり、四人の瞳は強い意志が込もっていた。


蟇蛾の方は猫背のまま、両手をブラン、とぶら下げて、脱力感を出していた。降伏するか?と思いきや、体が小刻みに震え始めた。


「―――ケ、ケッケ、ケケケケケケケケケ……!!」

「何が可笑しい!?」


突如として狂った様に笑い出す蟇蛾。

得体の知れない不気味な感覚を覚えながら、四人は更に身構える。


「イヤァ、ナニ。コウユウ場合……“切札(きりふだ)”ッテモンヲ使ウノガ筋カト思ッテサァ?」

「……オマエラ……殺スッ!!」

「鉄拐!!」

「オウ、蟇蛾!!」


互いの名を呼び合う二人。鉄拐は空を見上げ、口を大きく開いた。今度は蟇蛾が高く跳躍し、鉄拐の真上まで来る。体を細め、直立した状態で、鉄拐の口の中へと“呑まれて”いった。


《っ!!?》


意味不明な行動に動揺を隠せない四人。

蟇蛾を呑み込んだ鉄拐は口を閉じ、ギギギ、と機械仕掛けの人形の様に、顔を四人に向けた。


《…………》

「―――サァ“第二ラウンド”ト行コウジャネェカ……」

「グルルゥオオオオオオオオッ!!!」


口を開けば、喉の奥に見えてくる大きな螺旋状の単眼。蟇蛾は鉄拐という着ぐるみを着ている様な状態になっている。


「が、合体した……?」

「何で来ようが同じ事だ!!」

「夏候惇さん!」

「待て姉者!早まるなっ!!」

「でぇぇぇい!!」


先陣を切る夏候惇。得物である“七星牙狼”を振り上げ、一気に降り下ろす。


しかし―――


「き、消えた!?」

「夏候惇殿!後ろ!!」

「何―――」


姿を消した鉄拐。昴に指摘され、後ろを振り向いた瞬間、大きな手による平手打ちを食らってしまった。そのまま地面の上を何度もバウンドする夏候惇。


「ぐああああっ!!」

「夏候惇殿!」

「ギシシッ!」

「なっ!?」


10メートルもあった距離を一瞬で詰めた鉄拐。蟇蛾と合体する事によって、見た目の巨体から思わせない俊敏さを身に付けた鉄拐。先程闘った事もあり、衝撃で体が追い付かなかった昴。


「でやあっ!!」

「オット……」

「ぬっ……くっ!」

「二人目……」

「ぐはっ!!?」


太刀による袈裟切りをものともせず、上から叩く様に右手を降り下ろす。力と速さを兼ね備えたその一撃に耐えきれず、昴は地面に伏せてしまう。


「昴っ!!」

「姉者!!」


今度は瑠華と夏候淵に狙いを定める鉄拐と蟇蛾。すると、体を縮ませ、蹲りながらダンゴムシの様に丸くなる。


「サァ……地獄車ノ時間ダゼェェェ!!」


急発進する車、或いはバイクの車輪の様に高速回転を行う。回転ローラーと化した二匹は、回りながら二人に急接近していく。

通った後には、強い摩擦の後として、地面が激しくひび割れていた。


「くっ!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」


短剣を飛ばしたり、数本の矢を放つが、回転するローラーには敵わず、いとも簡単に弾かれてしまう。すぐそこまで迫ってきた事を目にし、二人は左右に飛び退く。


「逃ガスカヨォッ!!」

「ぐあっ!!」

「夏候淵さん!」

「モウ一丁!!」

「うわああああっ!!」


そのまま通り過ぎるかと思いきや、急停止した後、ターンで方向転換して夏候淵にアタックした。またもターンを繰り返し、瑠華も予期せぬ攻撃に対処できず、ローラーの餌食となる。

吹き飛ばされ、地面の上をゴロゴロと転がる瑠華。


「くっ……くそっ……!」

「ケケケ……サッキマデノ威勢ハドウシタァ?」


鉄拐の口が開き、蟇蛾の単眼が見える。蟇蛾は地面に倒れている四人を見る也、下品な笑いを出す。


「ぅっ……蟇、蛾ぁ……!」

「オウ、ボウヤッタラマタソンナ目デ睨ンジャッテ~」

「はぁ……はぁ……」

「ダ~カ~ラ~~…………ソノ目ガムカツクンダヨォォォッ!!」


また殺人ローラーに変形する鉄拐。高速回転しながら瑠華に突撃した。

瑠華の体もボロボロの状態で、よける為の体力も削がれていた。



――――――――ッ!!!




瑠華はそのまま跳ねられ、体が宙を舞う。そして背中から地面に落ちていった。


「……ぁぁ…ぅ………」


呻きながら、少年は静かにその瞼を閉じてしまった。


「る、瑠華……!」

「き、貴様……!」

「おのれぇ……!」


昴と夏候姉妹はゆらゆらと体を起こした。


「ア~ララ。マダ立ッテラレンノカ……。ソンジャア“出血大サービス”デ殺ッテヤルヨォ……!!」


その目は完全に殺意が込められていた。

さっきよりも回転数が増し、速度も倍となった。


「ぐあっ!!」

「がはっ!!」

「うあっ!!」


武器で防いだり、かわそうとしても、すぐに転換して激突してしまう。

蟇蛾と鉄拐による高速ローラー地獄に成す術なく、四人はその命を徐々に削られていった―――















刀と拳が交差し合う戦闘。

一刀は横薙ぎに振るが、左慈は闇の氣を纏った腕で防ぐ。鉤爪の様に使い、斜めから降り下ろすが、一刀も得物を振り上げて刃をぶつける。


「うらああっ!!」

「はああっ!!」


今度は体を捻り、左慈は回転蹴りを浴びせる。一刀は上半身を動かし、体を反らしてかわしていく。


「くっ!黄巾の乱を引き起こして、お前達の目的はなんだ!?」

「貴様が知る必要等ない!」


鎌の様な蹴りを刀で防ぐ一刀。衝撃を殺せず、左慈との距離が数メートル開く。


「はぁ…はぁ……っ…!」

「…………」

「あの娘達は……張三姉妹は、歌を歌っていた時……とっても、楽しそうだった」

「……はあ?」


刀を支えにしながら、一刀は左慈に言葉をぶつける。対して左慈は怪訝そうに睨んでいる。


「あんなに楽しんで歌っているあの娘達が……悪人とは思えない。あの三人は……自分達の舞台を観に来てくれている人達の為に……歌を歌って……心を癒していた」

「…………」

「彼女達だって、きっとこんな事は望んでなんかいない……。歌を歌う事が………夢なんだ」

「―――ふん、下らんな」


一刀の口から零れ落ちる言葉。それを軽くあしらう左慈。


「所詮は太平要術の力に溺れた、愚かな者達。あの書物に頼らなければ叶いもしない夢を抱いて、結局はこの始末だ」

「……夢を抱いて……何が悪い……!」

「太平要術に手を伸ばし、他者の連中を巻き込み、挙げ句の果てに戦乱を引き起こした。それもこれも奴等が下らない夢物語を語った結果だ」

「……貴様っ……!」

「史実の様に、駆けつけた漢軍共に殲滅されて全てが終わる……。愚者にはお似合いの結末だな」

「黙れぇっ!!」


その場から駆け出し、刀を突き出す一刀。すると左慈は両手を交差し、それを容易く防いでみせた。切っ先がぶつかり、火花や電撃が迸る。


「馬鹿め……甘いわぁ!」

「っ!?」


左慈の両手が半月形の刃に変形した。刀を上に弾くと、両手を内側から外側へと払う。


「ぐっ!?」


一刀は後ろに下がったが、胸元と腹部に二筋の傷がつけられた。左慈は追撃と言わんばかりに、二つの刃で縦横無尽に斬りかかる。


「くっ、だあっ!!」

「ふん、らああっ!!」


一刀も流星丸で左慈の斬撃と打ち合う。唐竹、横薙ぎ、袈裟斬りと刀を振るう一刀。手刀、回し蹴り、飛び蹴りと紫の氣を纏った両腕両脚で格闘する左慈。

二人の武がぶつかり合う度に生じる余波。それは鋭い斬撃へと変わり、近くにある岩や地面等を切り裂いていく。


「はあっ!」

「なにっ!?」


その場から反転して、空中に身を投げる左慈。見上げる一刀は、刀を構え直す。


「“斬波ざんぱ”!!」


脚を薙ぐと同時に、黒い斬撃を空から繰り出す左慈。その斬撃は雨の様に、一刀目掛けて降り注がれた。


「ぐああああああっ!!」


一刀の近くにある岩を切り刻み、地面を傷つけてひびを入れていく。斬撃が到達する度に土煙が起こっている。闇の猛攻を受け続ける一刀。その姿は、煙に紛れて見えなくなっていった。















合計で六つ。蛇という名の生き物だったモノが、頭、四つの体、尻尾という風に解体されていた。切り口からは黒い煙が少しずつ排出されている。

頭はというと、口内から脳天にかけて、大鎌の刃が貫いていた。目には生気が宿されてなく、完全に屍と化していた。


「ふぅ……まさか蛇如きにここまでやられるとはね」


蛇如きとは言え、全長が10メートルもある大蛇。普通の蛇とは格が違い過ぎる。

この蛇を八つ裂きにした張本人であり、その大鎌の使い手である少女。曹操は、やれやれと言わんばかりに、一息入れる。服装の所々が乱れており、肌も少しだけ傷ついていた。

蛇の頭を足蹴にし、刃を抜こうとする。肉に深く入った為、中々抜けない。力任せに引き抜くと、抜いた瞬間に血飛沫とも言える、黒煙が飛び散った。

曹操は、刃にこびり付いた蛇の脂を忌々しげに眺めながら、払う様に鎌で空気を切る。


「それにしても、陣地の衛兵達をかなりやられてしまったわね……」


この本陣には、数十人の近衛兵達が備えていたのだが、それらの過半数をこの大蛇が壊滅させてしまったのだ。


「軽薄になった本陣に送り込む手立てか。舐めた真似してくれるじゃない……!」


口元は笑んでいるが、瞳には憤りの炎ご燃えていた。覇王の怒りにどうやら火がついてしまったらしい。


「急いで隊を組み直さないと……それに」


曹操は後ろを振り向いた。

自分の側近である夏候姉妹の二人が、視線の先の方向にいる。そして何故か、上空の雲が黒く染まり、青空を埋め尽くしていた。














―――黄巾党の本陣がある渓谷。ここでは、曹操軍のアイドル三人対張三姉妹による歌の対決。“黄白歌合戦”が行われていた。

袁術・張勲・郭嘉の三人は、美しい歌唱力と、息の合った振り付けで観客達を魅了していく。

対して張三姉妹も流石は人気アイドル。明るく、可愛らしい曲でハートを掴んでいく。

どちらも互いに譲らず、ほぼ互角の勝負が繰り広げられていた。


「さいっこ~~~~!!」

「てんほ~~♪」

「ちいちゃ~~ん♪」

「れんた~~ん♪」


会場のボルテージも最高潮にまで達していた。


「押されてますね……」

「えぇい!こうなったら妾の十八番(おはこ)で勝負じゃ!」


こちらも負けまいと、次の曲が流れてくる。しかし、イントロの最中に伴奏が途切れてしまった。これはつまり、


「しまった……時間切れだ……!」

《っ!?》


舞台場となっている大型車の中で、華陀は壁に拳をぶつけ、悔しく顔を歪める。

恐れていた事態が起こってしまったのだ。


「どうやら妖力が切れたみたいね。どこの妖術使いに頼んだのか知らないけど、よくもった方かしら?」


しかし、こっちは、大平要術がある限りいくらでも妖力が湧いてくる。張宝は余裕の笑みを浮かべて、向こうの動揺を眺めていた。


〈うぐああああっ!!!〉

《っ!?》


黄巾党の兵達がいる真っ只中に、一人の青年が吹き飛ばされてきた。着地した時に生じた砂煙が晴れて、その顔がはっきりと見えた。


「一刀!?」

「お兄ちゃん!」

「北郷さん!?」

(あの人は……!)


愛紗、鈴々、劉備の三人は、青年の名を呼ぶ。向こうにいる張角も、一刀の存在に気づいた。まさかこんな所で再会するとは思わなかった。しかも最悪な状況でだ。


「くっ、そぉ……」

「どうやらここまでの様だな?」


戸惑いが伝染している黄巾党の兵達の間を通り、膝をついている一刀の前まで歩み寄る左慈。

互いに攻撃を受け合い、傷だらけになっているのだが、左慈の方がまだ有利な様だ。


「お前らしい策だったが、太平要術の前では全くの無意味だ。夢なんざ甘い戯れ言をほざいている弱者は、強者によって夢ごと潰される」


人が心に抱いている夢や希望。それら全てを否定する左慈。結局は叶いもしない幻想。


「強者だけが生きられる……力こそが全てだ!!」


左慈が口にするその言葉は、静まり返ったその場に響いた。誰もが反論も出来ず、ただ傍観するしかなかった。



しかし、一刀は決して折れなかった。


「……違う」

「なに?」

「夢は……希望は……その人の力の源となる!」


よろめきながら、立ち上がる一刀。その揺るぎなき眼光は、左慈から目を離さなかった。


「夢を叶えるのは簡単じゃない。様々な困難が待ち受けて、心が折れる事だってある……途中で投げ出してしまう時だってある」

「…………」

「でも……自分が本当にやりたい事だったら、絶対に叶えたいと心の底で願うなら、限界の限りを尽くすべきなんだ!失敗しても、何度も何度も挑戦すればいい!その為に費やした努力は決して無駄なんかにはならない!!」


―――信じ続ければ、夢はきっと叶う!!


一刀は痛む体に鞭を打ち、体に力を入れて状態を支える。

夢を叶えた人達だって、中には決して一人だけの力で遂げたという人だけじゃない。自分を支えてくれる家族や、仲間の助けがあってこその結果という事もある。


「張三姉妹!!」

「っ!?」


今度は首謀者である三姉妹に体を向ける一刀。


「君達は、本当にこれでいいのか!?初めて君達の歌を聞いた時、君達は心の底から歌が大好きなんだって伝わってきた」

「…………」

「でも、今の君達は道を踏み外してしまっている!歌を楽しみにしている人達を操り、戦争の道具にしてしまっている!」

「………っ…!」



「君達は……君達は“何の為”に歌を歌っているんだ!!」



喉の奥から吐き出された一刀の言葉は、張角の心に深く突き刺さった。


「…私……私達は……」


戸惑いを隠せない張角。


思えば、そもそも自分達は何の為に歌を歌ってきたのだろう……?


心が天秤の様に、揺らぎ始めた。


「言いたい事はそれだけか?なら、とっとと死ね……!」


左慈は横目で張三姉妹の方を向いた。それに気づいた張宝は、マイクを口元にやる。


「今が好機……!」

「えっ……?」


驚く張角を他所に、張宝はマイクに氣を流し込んで、大きく叫んだ。



〔皆!あいつらをやっつけてっ!!〕



太平要術の力によって、兵士達に集団催眠の術がかけられた。


「あいつら……!」

「やっつける……!」


目には狂気が宿り、劉備達の方向へと向かっていく。


「まずい……!」


一刀は助太刀に向かおうと足を動かす。



しかし、その足を両手で掴まれた。


「なにっ!?」

「あいつら……!」

「やっつける……!」

「しまった!」


今度は両腕を拘束され、四人の兵に動きを封じられた。その四人も、まるでゾンビの動きだった。常人とは思えない力で捕らわれ、一刀は身動きが取れなかった。


「一刀!いかん……鈴々、行くぞっ!!」

「合点なのだ!」


一刀の危機を救うべく、得物を携えた愛紗と鈴々は大型車から出てくる。


「あかん、撤退や!!劉備はん!早う!」


大型車に駆け込む楽進と于禁。李典は劉備に戻る様、運転席から声をかける。

劉備は戻る途中、谷の方に顔を向ける。


「やめろ!皆もうやめるんだ!」

「ははは……。見ろ!これが現実だ!強大な力の前には、何一つ変えられん!!」


身動きが封じられている一刀を、左慈は嘲笑う。


「俺は絶対に諦めない……最後の最後まで信じ続けてみせる!!」


強い意志のこもった瞳。信念を貫いていく言葉。

その精神は、劉備の心にも届いていた。


(……北郷さん…………)


信じていれば、夢はきっと叶う。


すると、劉備は意を決した表情を浮かべる。大型車には戻らず、愛紗と鈴々の間を通り、崖の縁まで近づいていく。



―――――――――



少女……劉備は歌った。胸の前で両手を組み、瞳を閉じて歌った。


(劉備……)


彼女の行動に、目を大きく開く一刀。少しの微笑を浮かべると、一呼吸する。

そして、空に向かって一刀も歌った。

劉備と一刀の行動を見て、愛紗と鈴々は顔を見合わせる。微笑むと、劉備の近くに寄り、二人も歌い始めた。

それから楽進や李典、于禁は勿論、袁術・張勲・郭嘉の三人も、その大合唱に加わった。


伴奏もない、何の振り付けもない歌。

しかし、七人はとても楽しそうに歌っていた。笑顔を浮かべ、その歌声は大空に響き渡った。











「―――ケッケッケ……全滅、カ」


開かれた大口から外の様子を観察する蟇蛾。瑠華・昴・夏侯姉妹の四人共、地面に横たわっていた。服や肌が傷つき、見て分かる程ボロボロの状態だ。

気を失っているのか、指一つ動かない。


「サァ~テット……左慈ト合流スッカ―――」


と、考えていた矢先、耳に音楽が流れ込んできた。


「ン?ナンダナンダァ?」


〈――――――〉


微かに動いた指先。その音楽が目覚ましになった様に、四人は重くなった瞼をゆっくりと開けた。


「…………これ、良い歌だね……」

「……なんでも、南陽地方に古くから伝わる歌だとか…… 」

「なるほど……これは……」

「実に……良い音色だ……」


最悪の状況にも関わらず、四人の表情は微笑んでいた。仰向けになると、見えるのは雲一つない、正に蒼天の名に相応しい景色だった。


「ケッ!ナァニガ歌ダ!トットト皆殺シニシテ―――」


――――ッ!!



背筋に何かを感じ取った蟇蛾と鉄拐。ゆっくりと振り返ると、そこには四人の戦士が佇んでいた。


「オ、オマエラ……何デ、アレダケ痛メツケテオイタノニ……!?」

「僕達を……なめるな……!」

「負ける……訳にはいかない……!」

「我等……曹孟徳様に仕える家臣なり……」

「あの御方の覇道を成し遂げるその日まで……決して死なん……!」


その瞳には、一切の恐れはなかった。

逆に決心がついた様に、その眼差しは強くなっていた。


「―――ウッゼェ……オマエラ纏メテ血祭リニシテヤラアアアアッ!!!」

「グゥオオオオオオオオオオ!!!」


蒼天に向けて、地響きする程の咆哮を放つ二匹の魔物。吠え終わると、四人に螺旋状の眼、獰猛な牙を見せつける。

対応する様に、武器を構え始める四人。


「昴……夏侯惇さん……夏侯淵さん……」

「ん?」

「なんだ?」

「どうかしたか?」


名を呼ぶと、瑠華は三人と向き合う。




「僕に―――命を預けてくれませんか?」




瑠華は三人に“ある作戦”を伝えた。


そうしている内に、蟇蛾は鉄拐と共に丸くなり、その場で高速回転し始めた。


「死ネヤァァァァ!!」


四人目掛けて突撃する蟇蛾と鉄拐。タイヤ、または丸鋸の様に地面を削りながら向かってくる。


「瑠華……頼んだぞ!」

「少々危険が伴うが、今更どうこう言えないな」

「とにかく、作戦通りに行くとしよう」

「うん…………散開!!」


瑠華が号令をかけると、瑠華を含めた四人は、その場から四方に散っていく。そのせいで、蟇蛾は何もない所を通りすぎてしまう。


「ナッ!ヨケヤガッナ!?ダガ―――」


すぐに方向転換を行い、四人の様子を窺う。



――――ッ―――



「ソコカァ!」


岩が削れる音が鳴り、そこに目掛けて突撃する。しかし、手応えが全くと言っていい程なかった。



――――カンッ――



「ヤッパソコカァ!」


またも違う所から音が聞こえ、その音源に向かう。



――――カン!


「ソ、ソッチカ―――」


―――キンッ!―


「コッ、コッチカ……?」


――――ドゴッ!――


「ンナナッ!?」



バキッ!


カキンッ!


ザッ!



至る所々から擬音が鳴り始め、蟇蛾の脳内は混乱に包まれていた。


蟇蛾が鉄拐と共に繰り出しているこの地獄車は、パワー・スピードを兼ね備えた強力な攻撃だ。しかし、一つだけ欠点があるのだ。


体が回転している為、対象を含めた外の光景が全く見えなくなるという所。つまりは何も見えなくなってしまうのだ。


視力の良い蟇蛾は鉄拐の体の中におり、俊敏さ等で鉄拐の動きをサポートしている。しかし、回る時は鉄拐が口を閉じている。対して鉄拐は、蟇蛾とは違って目が見えないのだ。並みならぬ嗅覚と聴覚によって、退化した視力を補っている。

つまり、回転している時は、その聴覚で音を拾う事により、相手の位置を把握しているのだ。


しかし、その能力は一度戦った瑠華と昴によって、既に見破られている。昴の情報を元に、瑠華が考えた策。


まずは四方に分かれて、ある程度距離を置くと、その場から一切動かない。その状態から、遠・中距離担当の瑠華が短剣を飛ばし、夏侯淵が弓矢で岩や地面に撃ち込む。こうして無造作に音を鳴らす事によって、相手の動きを混乱させたのであった。


どこに行けばいいかも分からず、蟇蛾と鉄拐はその場に止まってしまっていた。


「グッ……グルル……!」

「クッソォ!アイツラドコニ行キヤガッタァ!?」


業を煮やした蟇蛾が、鉄拐の口を強引に開き、外の様子を確かめに、その単眼を晒した。


今が好機―――


「待っていたぁ!!」


いつの間にか夏侯惇がすぐに側まで来ており、得物の大剣を振り上げていた。


「でぇぇぇぇいぃ!!」


ガキンッ!と鈍い金属音を出しながら、大剣を鉄拐の脳天目掛けて降り下ろした。脳内に響き渡り、そのまま地面に叩きつけられる。すかさず、夏侯惇は鉄拐の下顎を踏みつけ、大剣を上顎にひっかけた。


「ぬぅおおおお!!」


岩をも砕く鉄拐の驚異的な顎の力を凌駕する怪力で、夏侯惇は鉄拐の口を無理やり上下に開かせた。


「アゴッガガガッ!?」

「テッ、鉄拐!?」


夏侯惇はその場からすぐに離れていく。顎を強引に外され、アグアグと口を動かす鉄拐。


「―――夏侯妙才の弓を受けよ!」


合計三本の矢を引いていた夏侯淵。その指から放たれた矢は空を切り、鉄拐の口中に生えている無数の牙の隙間に突き刺さっていった。


「ヒョエエッ!?」

「アガァッ!?」


上下の歯茎に突き刺さり、鉄拐は痛さでのたうち回る。

すると、急に動きが封じられた。気がつけば、両手が後ろに回されていた。

両手には、短剣がついた紐がぐるぐると巻き付いており、釘として直刃の剣が地面に突き刺さっていた。撃剣によって両手の自由を奪われた二体。鉄拐は紐を外そうとするも、固く結ばれており、中々取り外せずにいた。


「ウ、ウゥ……!」

「オ、オイ!早ク抜ケ出セヨ!」

〈はぁぁぁぁああああ……!!〉

「「ッ!!?」」


少し離れた正面の位置に、昴はいた。両手にはバチバチと電気を迸らせる氣弾が形成されていた。全ての氣を溜めているのか、彼の上半身位にまで膨れあがっていた。


「はあああっ!!」


両手を前に突き出し、氣弾を放った。空気と摩擦し、地面の表面を削っていく。

そのまま一直線に突き進んでいく氣弾。鉄拐の鼻先まで迫った―――


「サァァァァァセルカァ!!」


両手で鉄拐の牙を掴み、一瞬俯かせると、次は上に動かした。昴が解き放った氣弾は、鉄拐の頭突きによって、上空に軌道を反らされた。

空高くへと舞い上がる氣弾。それを蟇蛾は鉄拐の中から見ていた。


「ケヒャハハハハハハァ!!残念ダッタナァ!コレデオマエラハ、モウオシメェダ!次デゼッテェニブッコロシテ―――」


そこで蟇蛾は言葉を失った。


青空に当たり前の様に浮かぶ太陽。しかし、その円い形が少し欠けていたのだ。月食でも日食でもない。よく見ると、その影は“少年の姿”だった。氣弾はその少年に向かっていく。太陽の光に照らされながら、少年は自分に迫ってくる氣弾に備え、右足を思いっきり引く。



「いっけええええええええええ!!」



右足は黒く染まり、光沢を放つ。闇の力で武装した右足で、その氣弾を蹴り返した。一気に蹴り抜き、氣弾は弾丸の様に真下にいる鉄拐へと向かっていった。


「マ、マズイ!鉄拐、早ク口ヲ閉ジ―――」


そこでようやく、蟇蛾は気づいた。何故鉄拐の牙に矢が撃ち込まれたのか。

鉄拐は閉じようとするも、その突き刺さった矢がつっかい棒となって閉口出来なかったのだ。例え岩をも噛み砕く顎の力をもってしても、力の作用には敵わなかった。矢は深く食い込んでおり、抜くのは無理と判明。

そうしている内に、氣弾はすぐそこまで来ていた。


「チ、チクショオオオオオ!!」


蟇蛾は奇声を放ち、鉄拐の口から飛び出てきた。そして氣弾は、がら空きになった鉄拐の口へと運ばれていった。






――――――ッ!!!





ドカアアアアアアアッ!!!






着弾した瞬間、内部から膨れ上がっていき、やがて大爆発を起こした。内側から破裂し、文字通り、木っ端微塵となった。爆風が起き、土煙が巻き起こる。


「はぁ……はぁ……!」

「やっ、やったか!?」

「っ!?いや、あれは!」


全ての氣を消費し、地面にうつ伏せになる昴。夏侯姉妹も体力をかなり浪費しており、得物を杖代わりにしていた。

煙が晴れてくると、三人は目を見開いた。

先程、鉄拐を見捨てた蟇蛾が、じりじりと瑠華に詰め寄っていた。少なからず爆発に巻き込まれたのか、白い体が泥や傷でボロボロに荒れていた。

瑠華は闇の氣でカバーしたとはいえ、氣弾を生身で蹴り飛ばしたのだ。骨にヒビが入ったらしく、右足が動けずにいた。

ズルズルと引きずりながら、瑠華は後退る。


「大人シク……オイラ達ノユウ通リニシトキャア、ヨカッタンダ……ナァ?“瑠華”チャァン?」

「うっ……くっ……!」

「ウゥガァァァァァ!!」

「瑠華ぁ!!」

「「っ!!」」


血走った目で睨み付けると、蟇蛾は両手を振り上げて瑠華に襲いかかる。昴は名を叫び、夏侯姉妹は苦痛に顔を歪ませる。

迫りくる痛みに備えて、瑠華は瞼をギュッと閉めた。







―――斬―――



「――――ヘッ?」


目の前の景色が―――ずれた。



この世界では、“真名”というものがある。これは自らの真の名。親から与えられた神聖な物で、信頼の証とも言える。

もし、真名をその人の許可なしに無断で口にすると、“首をはねられ”ても、文句は言えない。


死んでしまえば、文句も言葉一つ言えない。


蟇蛾の首はボトリ、と地面に落ち、首のない身体は膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。


そして、その首を切断した“大鎌”は、ブーメランの様に回転しながら旋回し、持ち主の手に収まった。


「「華琳様っ!!」」

「そ、曹操殿……」

「…………」


覇王の姿が、そこにあった。鎌を携え、こちらを眺めているその姿は、威厳があり、王者の風格を漂わせていた。


「春蘭、秋蘭、無事でよかったわ」

「「はっ!」」

「五十猛、月読、よくぞ持ちこたえた」


曹操はそう言うと、まだ地面に座っている瑠華に近づき、手を差し伸べる。


「ほら、早く立ちなさい」

「あっ、えっと……」

「……全く、しょうがないわね」


曹操は少しだけ屈むと、自分の肩を貸し、瑠華を立たせた。


「あ、ありがとうございます。曹操さん」

「別に構わないわ。それに“興味深いモノ”も見られたしね」

「えっ?」


片足で立っている瑠華。怪訝な表情を浮かべる彼に対し、曹操は口を開いた。


「あなた…………“何か”隠してるでしょ?」

「っ!?」


動揺の色を見せる瑠華。曹操は確信し、更に笑みを濃くする。そう、彼女は見ていたのだ。瑠華の秘密を。太陽の光に紛れていた為、夏侯姉妹は気づいていないようだっだが。


「一目見た時から、何となくだけど感じてたわ。あなたの“隠し事”」

「…………」


淡々と呟き始める曹操。黙って聞いている瑠華だったが、空いている左手が―――腰に携えている撃剣に“触れて”いた。


「ふふっ……口封じに消す?」

「っ!そ、そんな事……」

「安心しなさい?今は追及しないでいてあげる。“今は”、ね……」


その言葉に背筋を震わせる瑠華。自分でも、なぜ撃剣に手を添えていたのか、分からずにいた。もしや、本能的に何かを察知したのか?自分の中の闇が……。


だが、改めてはっきりした事がある。


(僕はやっぱり………この人が苦手だ……)


曹操に助けられながら、そう心中で呟く瑠華であった。


















一刀、劉備達は絶えず歌い続ける。


「ふん!無駄よ無駄!悪あがきは―――」


次の瞬間、張宝は目を疑った。


黄巾党の全員が、青色の飴を上に掲げていた。雲は晴れ、青空が澄み渡る。



黄天已に死す、蒼天まさに立つべし



史実の言葉を覆した光景となっていた。


黄巾党の兵達の表情にも笑顔が灯され、一刀を取り押さえていた兵士も飴を掲げ、完全に術中から解き放たれていた。


張宝は動揺を隠せずにいた。


「そ、そんな……どうして……何であんな歌に……!?」

(そう……こんな歌……。みんなが楽しく幸せになれる……こんな歌……)


三人が幼い頃、一緒に歌った幸せの歌。

今までずっと忘れてしまっていた、あの思い出。


張角は空を見上げ、閉じている瞳から流れ出た一滴の雫が、頬を濡らす。


「こんな歌…………私達の歌でかき消してやるっ!!」


張宝のその瞳には、光が灯っておらず、闇に侵されていた。


〈もう……やめよ?〉


しかし、その一言で動きを止める。


「人を操る為だとか、他の歌をかき消す為とか、そんな歌……」

「なに言ってるの!?ここで止めたら私達の夢が!!」

「違うよ……」


張角は微笑みながら、張宝に語りかける。どこか儚げな、それでも慈愛が込められている笑みだった。


「こんなの……子供の頃、三人で夢見たのとは―――違う」

「っ!?……子供の頃……三人で……」


その時、太平要術の邪気が途切れてしまった。

糸が切れた操り人形の様に、その場で崩れ落ちる張宝。それを受け止める張角と張梁。


「ちいちゃん!?」

「ちい姉さん!!」


気を失っているだけだと知ると、安堵の息をつく張角と張梁。


「馬鹿な!?たかが歌如きに……太平要術が負けた、だと………?」

「只の歌じゃない。皆の祈りが込められた……最高の歌だ!」


一刀は刀を鞘に収め、抜刀の姿勢に入る。左慈も闇の氣を集合させ、禍々しい武装を生成させる。


「認めん……こんな脆弱な力……認めてたまるかぁ!!」

「お前に証明してみせる……本当の“強さ”を……!!」


刀の鞘に光の氣が灯されていく。柄にそっと手を添える一刀。



《――――――――》



正に一触即発の状態。二人からかなり距離を置く黄巾党の兵士達。

一刀の様子を固唾を飲んで見守る愛紗。

劉備も両手を組んで、一生懸命に祈りを捧げている。


「一刀……!」

「北郷さん……!」











――――刹那。


「「うおおおおおおおおっ!!」」


動いたのは、ほぼ同時であった。飛び交う雄叫びに、傍観していた者達は圧倒されていた。

互いに急接近する二人。しかし、左慈の方が一瞬だけ速かった。左慈は右腕に闇の氣を集中させ、鋭利な紫の刃を造り出していた。


「もらったぁ!!」


その刃は、一刀の首めがけて振るわれる。対して一刀は刀を抜いていなかった。後数ミリで、頸動脈に触れる―――


「俺の勝―――」


スッ――――と、一刀の姿が消えた。

左慈の渾身を込めた一撃は、空を切る結果となった。


一刀はギリギリの状態から、一気に屈む事によって、かわす事に成功した。




そして、その刀身がついに引き抜かれた―――










「―――“流星りゅうせい天昇斬てんしょうざん”」


抜刀した瞬間、一気に空へと斬り上げる。光り輝く一筋の軌跡を描き、闇の刃ごと斬り裂いた。


「―――………!!」


悲鳴をあげる間もなく、左慈の体は弧を描く様に宙を舞い、やがて地面へと落ちていった。体には、斜めにつけられた傷が刻まれていた。

背中から落ちたまま、ピクリとも動かない左慈。一刀は劉備達の方を向き、眩しい笑顔を見せながら、親指をグッと立てた。


《やった~~~~♪》


歓喜の声を上げる少女達。愛紗は鈴々に抱き締められ、劉備はホッと安心する様に肩を撫で下ろす。

青年の勝利を少女達全員が祝った。





「……それじゃあ、いいよね?」

「うん」

「……うん」


二人の妹の返事を伺った後、張角はマイクを手にした。


〔皆さん!聞いて下さい!黄巾党は……今日で解散します!〕

《ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?》

〔私達!普通の芸人に戻ります!〕


いきなりの解散宣言。にも関わらず、その表情は清々しいものだった。張角はふと、下にいる一刀と目が合う。

その瞬間、二人は互いに微笑みあった。


「……さてと、奴の事がまだ残ってたな」


遠くで横たわっている宿敵。色々と聞き出さなければならない事もあり、一刀は左慈を拘束しようと近づいていく。

すると、左慈の近くの空間が、奇妙に歪み始めた。


「っ!?」

「おやおや……負けてしまったみたいだね」


黒ローブに、白黒の仮面を付けた男―――葛玄。渦巻いた空間から突如として現れた。その場にいた全員が混乱する中、葛玄は左慈を見下ろした。


「う~ん、やはりまだ調整が必要な様だ。でも今回はよく頑張った方かな?」


そう言うと、葛玄は左慈を片腕で持ち上げ、肩に背負う。


「おい、待て!」


堂々とした逃走を見過ごす訳にはいかない。一刀は急いで駆けつける。


「おっと」

「っ!?」


懐から刃のない柄を取り出す葛玄。すると闇の氣を長い剣の刀身の形に形成させた。そして、迫り来る一刀に横薙ぎにするも、彼は流星丸で受け止める。ほんの数秒遅かったら、確実に首元を切られていただろう。


「うん。いい反応だね」

「くっ……逃がすか、よ……!」

「悪いが、こちらにはやらなければならない事が山積みでね。邪魔はさせんよ……?」


葛玄は片腕だけで剣を持ち、左慈を抱えながら、一刀の攻撃を器用に受け止めていた。刀を横に弾くと、柄の石突きで肩の部分を殴打した。


「がはっ……!」


今度は腹部に蹴りを入れ、更に氣を増幅させた一撃で、一刀に一閃を浴びせる。

巨大な鞭の様な攻撃を喰らい、一刀はかなり後ろの方へと吹き飛ばされた。


「あっ…がっ………!」

「今日はこれだけで許してあげよう。今度会うその時は……覚悟しておきたまえ」


氣を緩めて、只の刃のない柄に戻すと、葛玄の体が、抱えている左慈ごと歪み始めた。一刀は立ち上がろうとするも、左慈との闘いで体は、正に疲労困憊の状態だった。


「我々の計画は順調に進んでいる。時計の針の様に、着々とね」

「ま、待て……!」

「誰も僕達を止める事など出来はしない……絶対にね」


それだけ言い残すと、葛玄は左慈と共に姿を消していった。

歯痒い思いをしながら、一刀は悔恨の思いを込めて、拳を地面に叩きつけた。


あの男が言い残した不吉な言葉。


戦いが終わった後にも関わらず、とても恐ろしく感じるのであった。




報告によると、白装束の集団も、義勇軍と黒騎兵達の活躍により、ほぼ全滅する事に成功した。

そして黄巾党は全員投降。張三姉妹は大平要術の引き渡しを承諾した。





天幕の前で、張三姉妹は太平要術を華陀に見せる。


「しっかり持っていろよ……!」


華陀は黄金の鍼を取りだし、氣を流し込む。すると金色に輝きだし、華陀の目にも太平要術のツボが見えた。


「我が身、我が(はり)と一つなり!一鍼同体!全力全快!病魔覆滅!元気になぁぁれぇぇぇぇぇ!!」

〈ちょっと待った!〉


と、どこからか口を挟まれ、キョトンとする華陀。


「封印するのに、“元気になぁれぇ”はおかしくないですか?」

「それも、そうだな……ん?」


納得している間に、太平要術は突然現れた男の手に渡ってしまっていた。


「あっ、あんたは!!」

「于吉……!」


この人物こそ、張三姉妹に太平要術を渡し、今回の乱の間接的な原因となった存在である。


「覚えていてくれたとは光栄ですね。しかし、せっかく大平要術に大量の妖力を溜め込む機会だったのに、こんな事になってしまうとは……」

「なっ、おい!待てっ!」


風景へと溶け込むかの様に、透け始める于吉。華陀は急いで飛び付くも、于吉の姿はそこにはなかった。


〈それでは皆さん……縁があったらまた会いましょう〉


崩れる事のない余裕の笑いが、その場に木霊するのであった。









いや~、長かった!!

めっちゃ疲れましたわ……。


しかも中途半端に終わらせてしまうという……。長過ぎになるのを防ぐ為に、分ける事にしました。


次回は後処理みたいな感じに書いていきます。

ちょっとはイチャイチャが欲しいかなぁ~と思いましてね(出来るだけ頑張ってみます)。


今回はマジで疲れましたわ……うん。


それと、これから先はリアルの方で忙しくなってくるので、ただでさえ遅い投稿が、更に遅れる可能性が大です。どうか、ご了承下さい。


次回もお楽しみに♪


それでは!


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