↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双~北刀伝~  作者: NOマル
第二章~新たな出会い~
39/90

~月読と猛、敵陣に忍び込むのこと~

段々と戦闘が多くなる第二章。苦手な描写ですが、頑張って書いていきたいと思っております!

それでは、どうぞ!



突如として開かれた軍議。そこにいる全員が朱里の説明に耳を傾けていた。


「曹操殿から参陣の要請?」

「はい。この度、朝廷の命で“黄巾党”の討伐に赴く事になったので、是非我が義勇軍の手を借りたいと」

「……黄巾党」


予想していた事が起きてしまった。一刀は顔をしかめる。そう、貂蝉というあの自称・都一の踊り子である筋肉達磨が言っていた予言が的中したのだ。


「“コーキントー”って何なんでしょう?」

「きっと翠みたいな人達の集まりなのだ」

「それは“脳筋党”です」

「おい!」


朱里がサラッと言うと、翠は少し声を荒げる。


そして、その黄巾党によって行われた……一つの乱。


それが“黄巾の乱”である。


―黄巾の乱―

史実の三国志でも有名になっている史実の出来事の一つ。

中国後漢末期、首謀格である張角を筆頭に引き起こされた。霊帝の命により、何進大将軍は勿論、曹操と孫堅、そして劉備等の各地から集まった群雄達の活躍によって事態は収拾された。

黄巾の乱以後、軍閥的な勢力が多数出現し、 これらによる群雄割拠の様相を呈する切っ掛けとなった出来事でもある。



この外史では、張三姉妹の熱心な追っかけの人達の事を示すらしいが、張三姉妹を支持している事を表すために体に黄色の布を着けている事から似た様なものだ。


「ど、どうして、そんな人達を討伐するんですか?何か悪い事でもしたんですか?」

「はい……。元々は騒がしいだけの大して害のない人達の集まりだったんですが、ある日、突然暴徒と化して役人と騒ぎを起こし、それからはまるで(いなご)の様に近くの役所を襲ってはそこの蔵を拓き、食料を食べ尽くすと、また次の役所を襲うという事の繰り返しで……」

「なんでそんな事を……?」

「はっきりとは分かりませんが、噂では張三姉妹が中心になって先導しているとか……」


そして、その黄巾党の裏に、謎の白い一団が潜んでいるという情報も掴んでいる。その一団の事を聞き、反応する一刀、瑠華、昴の三人。それぞれ視線を合わせ、小声で囁き合う。


「昴は、奴等の事をどれくらい知ってるんだ?」

「はい。ほとんどは師匠から聞いた話で、何か良からぬ事を企んでいるとか」

「師匠って、奴等と関係がある人なの?」

「さぁ、そこまでは分からない……。でも、殿の事は御存知でしたけど」

「えっ、そうなの?」


そして昴からその師匠の特徴やらを聞く一刀。


「………………ごめん、全く記憶にない」


記憶に残りそうな見た目なので、記憶に残らない訳がない。だが、一刀がこう言っている為、本当に知らないのだろう。

すると、鈴々が朱里の言葉に反論する。


「そんなの信じられないのだ!あんな楽しい歌を歌うお姉ちゃん達が悪い事する筈ないのだ!」

「私も信じたくはないのですが、現にこうして討伐の命が下ったという事は、恐らく……」


しばし沈黙する一同。そして一人の青年が、その静寂を破った。


「皆……とりあえず、深く考えるのはやめないか?」

「一刀……」

「こんな所でじっとしてても何も始まらないだろ?それに、もし何かあっても、俺達が全力で食い止めればいい」

「そうですよ!本当に悪い事をしているのなら、そのままにしておく訳にもいきません。それで、悪い事をしてなかったら……」

《…………》

「その時はその時で、また考えましょ?」


劉備の言葉を聞いて、呆気にとられる一同。しかし、一刀は一人微笑を浮かべていた。


「ふっ、そうだな。一刀と劉備殿の言う通りだ。ここで考えていてもしょうがない」

「それじゃあ……」

「うむ」

「よしっ……みんな、出陣だ!」









そして出陣の日。その白い一団については黄巾党よりも得体の知れない存在と認識された。そこで、少しでも知識のある者がいた方がいいと、昴も出陣する事となった。


「それじゃあ、壱与の事を頼む」

「はい。気をつけて下さいね」

兄様(あにさま)……いってらっしゃい」

「ああ、行ってきます」


壱与の事を胡花に頼み、昴は微笑みながら、妹の頭を撫でる。


「え~、何でたんぽぽは行っちゃ駄目なの~?」

「当たり前だ。お前はまだ修行中の身なんだから、あたしらと村で留守番だ」

「ちぇ~……」


一緒についていけない事を残念がり、そっぽを向く馬岱。


「それじゃあ翠、紫苑、縁。留守を頼んだよ」

「おう、任せとけ」

「分かりましたわ」

「皆さんも、お気をつけて」


仲間に見送られながら、村の兵数千人を連れて、一刀達は出陣していった。












曹操軍のいる軍地まで辿り着いた一行。曹操の横には愛紗がいて、後ろには一刀と劉備、そして鈴々と朱里がいる。

因みにあの二人はどこなのかと言うと、それは後で語るのでご安心を。


「いやぁ……曹操殿自らお出迎えとは、痛み入る」

「こちらから頼んで来てもらった以上、相応の礼を尽くすのは当然だわ。それに、私とあなたの仲じゃない。水臭い事は言いっこなしよ」

「は、はぁ……」


愛紗は少し苦笑いを浮かべる。


「けど驚いたわ。私が新しく召し抱えた楽進達が、あなたと知り合いだったなんて」

「楽進殿達とは、旅の途中に立ち寄った村で知り合って。そういえば、程イク殿と郭嘉殿は?」

「程イクは軍師。郭嘉は親衛隊員として、よく仕えてくれているわ」

(あれ?郭嘉も軍師希望じゃなかったっけ?)


後方で聞いていた一刀は、ふとそんな事を思っていた。


「所で、義勇軍は相変わらず大将旗として“劉”の旗を掲げていた様だけど?」

「いや、前に話したと思うが、劉備は劉備でも、あの男は偽物で本物は―――」

「ええ、その事は承知しているけど、今の義勇軍は実質あなたが率いているのでしょう?なら、あなたの旗を掲げるべきじゃなくて?」

「う~ん、まあ、話せば長くなるのだが……」


愛紗はどう言えばいいかと考えた後、曹操に説明した。


「私は劉備殿と姉妹の契りを結び、義理の妹となったのだ」

「ああ、なるほど……。それで義理の姉を立ててやむ無く、という訳ね」

「別にやむ無くという訳では……」

「後、そうしとくと、前に作った旗がそのまま使えてお得なのだ」

「こ、こら!余計な事は言わんでいい!」


愛紗は慌てて鈴々の口を塞ぐ。


ようやく天幕に着いた一行。そこには曹操の家臣である夏侯姉妹の他、先客がいた。大きい欠伸をする袁術と、その側に付き添う秘書兼世話係の張勲。


「遅いぞ。いつまで待たせる気じゃ?」

「え、袁術殿……?」

「ん?おお、お主はいつぞやの」

「え、袁術殿も此度の討伐に?」

「うむ、朝廷の命でやむ無く出陣してきたが、賊退治等は妾の性に合わぬ故。お主ら、妾の分まで頑張ってたも」

(おいおい、マジかよ……)

「どう?私があなたに援軍を頼む気になったのが分かるでしょ?」


一刀と愛紗はただ苦笑するしかなかった。








その天幕に予定の全員が集まり、軍議が開始された。


「桂花、現状の説明を」

「はっ」


軍師である荀イクは曹操に現状報告を行う。

説明によれば、現在黄巾党は広い平地に集結している。首謀者である張三姉妹がいる天幕を中心にして、それを取り巻く様に陣を張っている。


「そして、その数はおよそ数万」

「およそ?もっとはっきりした数は分からないの?」

「申し訳ありません。張三姉妹は野外に立派な舞台を設置し、士気を高める為か、時折そこで歌を歌っているのですが、それを聞き付けた者達が、続々と黄巾党に身を投じ、そのため正確な数が掴めないのです」

「……例え烏合の衆とはいえ、それだけの数の相手をするとなると、ちょっと厄介ね」


流石の曹操も頭を悩ませる難題の様だ。


「……一刀よ。“二人”は大丈夫だろうか?」

「うん、俺も心配だ……。でも、今はとにかく、無事である事を祈るしかない」


心配そうに声をかける愛紗に対して、安心させる様に笑いかける一刀。しかし、どこか無理をしている風にも見える。


〈失礼します!〉


天幕に一人の少女が入ってきた。しかもその少女は、一刀達もよく知る人物であった。


「典韋?」

「あっ!北郷さん、関羽さん!」


典韋も気づいた様で喜びの声を上げるが、すぐに気持ちを切り替え、曹操に耳打ちをした。


「曹操様、実は……」

「………なに?華陀が会いたいと訪ねて来た?」

(……華陀が?)














―――義勇軍が曹操軍と合流する少し前……。


「…………ん?」

「どうした?一刀」


馬に誇る一刀はある事に気がつき、周りをキョロキョロと見渡す。それに気づいた愛紗は一刀に声をかける。


「いや……瑠華が見当たらないんだけど」

《えっ?》


一刀と同様に瑠華を探す武将達。しかし、どこにも少年の姿は見当たらなかった。


「あいつ、一体どこに……」


頭をかきながらポケットに手を入れる一刀。すると、少しの違和感を感じる。中にはクシャクシャになっている一枚の紙があった。


「なんだこれ?」


両手を使い、紙を広げていく。そこには、


“偵察に行ってきます。瑠華”


と書かれてあった。


《…………えええっ!!?》

「はぁ……」


劉備や愛紗達が驚いている中、一刀は一人、やれやれとため息を吐いていた。


「る、瑠華君、まさか敵陣に!?」

「それも一人なんて、危なすぎますよ~!!」

「にゃ~、だから瑠華はいなかったのか~」

「あの馬鹿者め……!」


朱里と劉備は二人して慌てふためいている。ぽけ~っと答えている鈴々に対し、愛紗は眉に皺を寄せ、怒りでふるふると震えていた。


「……昴、瑠華の居場所を探れるか?」

「はい、やってみます」


普段の彼からは考えられない行動に全員が騒いでいる中、一刀一人は冷静に昴に頼み込む。昴も静かに返し、その瞳を閉じた。


「――――――――」


全身の神経を研ぎ澄まし、居場所を突き止める。耳には彼女達の声は勿論の事、聞き取りにくい雑音も入ってくる。






すると、脳内に電撃が走った様な感覚に襲われた。


感じた事のある、瑠華の氣だ。


「―――見つけました!」

「本当か!?」

「はい、距離的にもそう遠くはありません」

「よし、ではすぐに―――」

「待って下さい。ここは俺に任せてもらえませんか?」


瑠華の元に向かおうとする愛紗を手で制する昴。


「参陣を呼び掛けた曹操殿を待たせるのもよくありません。皆さんは先にお行き下さい」

「し、しかし……」

「愛紗、ここは昴に任せてみないか?」

「か、一刀」

「それに、瑠華だって十分強いんだ。そう簡単にはやられはしないよ」


とは言うものの、一刀の手は少し震えていた。その姿に気付き、やむなく承諾する愛紗。


「……分かった」

「うん。じゃあ昴」

「はっ!」

「あの、猛さん。瑠華君の事、よろしくお願いします!」

「心得た。では!」


動揺しながらも、朱里は昴に瑠華の事を助けて欲しいと頼んだ。昴は一刀と朱里の事を引き受け、瑠華の元へと駆けつけるのであった。













―――というわけで……


「……ここか」


瑠華は一人、敵陣のすぐ近くにいた。

丁度いいサイズの岩の陰に身を潜める。視線の先には黄色を目印とした法被やら頭巾やらを身につけている集団。数多に位置する黄巾党の天幕。人数はざっと数えても数万は遥かに越えている。

こんな大軍に攻められたら人たまりもないだろう。


「これが黄巾党……確かに、凄い」


瑠華もその数に圧倒されていた。

そのまま“黄色い集団”の動向を窺っていると、その中に“白い集団”が混じっていた。


「あれか……」


白装束を纏い、槍を手に持つ数人の兵らしき人物達は、黄巾党の兵達の間を通り過ぎていく。

見つけるや否や、瑠華はその後を追っていった。













何故か、頭の中に残っている映像がある。


空は雲によって埋め尽くされ、無数の雨が地面に降り注いでいる。


亡くなった姉の面影を持つ少女。その少女を抱き締めて何かから守ろうとする、兄として慕っている青年。


そして、その二人に凶器を振り下ろそうとする賊らしき男。



見に覚えのないこの光景が少年の脳裏に焼き付いた。しかも、これから後の事が全くといっていい程、覚えていないのだ。思い出そうとしても、どうもうまくいかない。

気がついた時には布団の上に寝かされていた。

仲間から聞くと、自分が道端で倒れていたのを見つけたそうだ。

それから自分は、この村で何かなかったか?と尋ねた。仲間達は、何もなかったと答えた。


そう言われたものの、少年こと瑠華はどこか引っ掛かりを感じていた。


それと同時に、もう何も失いたくないという少しの恐れを抱く様になった。若干、神経質になっているのかも知れない。


だからこそ、この戦も皆で無事に生きて帰ろう。その為にも、まず敵の手の内を知って、最低限安全に行える様にと、瑠華は一人敵陣に辿り着いたのであった。




白装束の兵達は、一つの天幕に入っていった。他の黄巾党の天幕に比べてみると、やや大きめに見える。

きっと大将のいる天幕に違いない、と瑠華は限界まで天幕に近づいた。そして片方の耳を近づけ、中の音を拾う。


〈―――ツウワケデ、オイラ達モ協力スッカラ、ヨロシクネン♪〉

〈は、はぁ……?〉


中では、今回の反乱の首謀者である張三姉妹の他に、もう一組いた。三人の前にいる一人の男。黒いマントを羽織っており、美形ながらも野獣並の覇気を纏っている。彼の後ろに控える謎の二人組。どちらとも黒いローブで体を隠す様に見に纏っている。一人は小柄な体格で、もう一人は図体がとにかく大きかった。


「とりあえず、あんた達はあたし達の味方……って考えでいいんだよね?」

「俺達はあくまで太平要術の力が必要なだけだ。別にお前達の味方という訳ではない」

「オイオイ左慈、ソウユウナッテ~。大丈夫、君達ノ事ハシッカリト手伝ウカラ、安心シテテネ」

「……まあ、今の所は信じてみましょう」


等の会話から、白の集団は黄巾党のサポートを引き受ける様だ。更に軍議を話している最中で、不本意ながら色々と盗聴する事に成功した。



今、曹操軍と黄巾党の陣地は向かい合っている様な状態にある。その距離は約一キロと離れているが、今位置する場所は何もない平地が多い荒野。地の利はあまり期待出来ないだろう。

そこで、白の集団は黄巾党陣地の横。曹操軍から見て、左斜めの位置に待機する。ここから両者の戦いの様子見を行い、相手は黄巾党だけと思わせて、窮地に陥る前に奇襲をかける、という作戦を考えた。


「……こんな作戦でうまくいくの?」

「マア向コウ二モ軍師ガイルカラ、何ラ対処ハシテクル。ダ~ケ~ド~~♪」

「俺達は“コレ”を使う」


左慈が懐から取り出したのは、掌に収まるサイズの丸い宝玉。不気味な紫に染まっており、何やら蠢いている様にも見える。これは葛玄から餞別として渡された物である。

気味の悪いソレを見た三姉妹は少し顔をひきつらせる。


「な、なにこれ?」

「……生き、物?」

「ピンポーン♪コレガアレバ、百人力(ひゃくにんりき)ナラヌ千人力(せんにんりき)ッテネ。コレ(ひと)ツデ、ザット一万ハ蹴散ラセラレルヨ」

「い、一万!?……た、確かに、凄い妖力を感じるけど」

「オッ、流石ハ妖術使イ♪分カルネ~」

「とにかくコレさえあれば、どんな不利な戦況に陥っても、雑魚共相手なら容易い事」


ポン、と軽く上に投げながら話す左慈。宝玉をキャッチした瞬間、少しだけ眉を動かした。


「…………」


宝玉を懐に戻すと、一呼吸つく。


「…………そういえば、太平要術はそこに置いているんだな?」

「え、ええ。ホントは控え室に置いて置くんだけど、軍議には必要かなって……」

「……まあいい。とりあえず俺達からは以上だ。お前達は前と同じ様に歌を歌っていればいい」

「ソ~ソ♪」


太平要術がここにある事を確認する左慈。声がどこかわざとらしいのは気のせいなのだろうか?

三姉妹が相変わらず怪訝に見ている中、小柄な方の黒ローブが左慈に近づいてくる。


「所デ…………ドウスル?“アレ”……」

「俺が“片付けて”おく……。軍議は以上だ。お前らは下がれ。俺達ももう行くぞ」

「アイヨー」

「グルルッ」


小声で話しかけた後、左慈は仕切る様に声をかける。まだ唖然とする三姉妹を尻目に、左慈は黒ローブの二人組と、白装束の兵達と共に、その場を去る。


「何よアイツ。いきなり出てきて偉そうに」

「でも敵が多い以上、そうも言ってられないわ」

「それはそうだけど……」

「私達も控え室に行きましょ?ちい姉さん、天和姉さんも」

「う、うん……」


左慈の見下した様な態度に御立腹の張宝。そんな姉を宥めながら、張梁は張角の手を引いて、三人共天幕から出ていった。



……………………。



誰もいなくなった天幕。それを見計らった様に、一人の少年が潜入した。


「―――誰もいないっと……」


左右をもう一度確認し、中に入る。黄色い天井。軍議として使っていたのか、大きめの台が置いてあった。その上には地図と兵に見立てた小さい駒があった。


「……ん?あれって」


すると、ある物が目に止まった。もう一つの台の端に置いてある一冊の本。黒ずんだ紫色の表紙。北斗七星の模様の上には“太平要術”と書かれていた。


「これが、さっき言ってた太平要術。これさえなければ……!」


話からして、これは今回の事について何か強い関連があるのではないか?

そう考えた瑠華はその書物に手を伸ばす――――





が、横から伸びたもう一つの手が、自分の手首を強く握り締めた。


「っ!?」

「やはり、な……」


掴まれた瞬間、上にあげられた。握力が予想よりも強く、苦悶に表情を歪める瑠華。目を細めてこちらを見下ろす男。


「とんだ鼠が紛れ込んできた様だな」

「くっ……!」


瑠華はすぐに男の手を払い、腰の撃剣に手を伸ばすが、今度は首を掴まれ、壁に叩きつけられる。


「がはっ!!」

「無駄な抵抗だ…………死ね」

「っ!!」
















「……はぁ」


妹二人と離れた張角は、一人ため息をついていた。成り行きとはいえ、まさかこんな大事(おおごと)になるとは思ってもみなかった。自分は長女だというのに、妹二人に任せっきりで、姉らしい所は一つもしていない。そんな自分を情けなく思い、今だって流される様に黄巾党の首謀者となっている。


「私達がしたかったのは、こんなのじゃなくて……」


ただ大好きな歌を歌えられればそれでよかった。なのに何でこんな事になってしまったのだろう。

これからどうなっていくやら、と考えていると、ふとある人物の顔が浮かび上がった。


「あの人、今頃どうしてるかな……?」


とある街での舞台の最中に見かけた一人の青年。ちょっとした観客のトラブルを真っ先に駆けつけて解決したり、勇気のある人だな、と思った。

そして、あの笑顔である。見ているこちらが安心する様な表情だった。それと同時に、胸の高鳴りが少し早くなった事にも気づいた。


「……また、会えたらいいのにな」


頬が微かに赤く染まっていた。ハッと我に帰り、首を左右に振って考えを整える。


「と、とにかく、今は目の前の事に集中しないとね!うん!」


そう自分に言い聞かせ、早歩きで前に進む。しばらく歩いていると、耳に変わった音が聞こえてきた。


「ん?何だろう……」


その音がしている場所に向かっていく。近づくにつれて、段々と音が大きくなっていく。よく聞くと、“何かを殴打”する様な重く鈍い音だった。一緒に苦悶の声も聞こえてくる。


「えっ……な、なんなの……!?」


嫌な予感と共に、額から汗が滴る。張角は急いで音源の元へとたどり着いた。

そして、その光景が彼女の目に飛び込んできた。


「っ!?」

「ぐっ!がはっ、うぐっ!!」


実に痛々しい光景であった。思わず両手で口元を覆ってしまう張角。

先程、軍議で喋っていた左慈という男。左慈の目の前には随分と背の小さな男の子がいた。そして左慈は容赦なく、一方的に少年をいたぶっていた。

少年は腹に蹴りを食らい、後ろに置いてある木箱に叩きつけられる。少年の左目は腫れており、口や頭からも血が流れていた。そんな少年を見下す様に見下ろす左慈。


「っぐ!……はぁ……はぁ……」

「……おい、反撃の一つはしてきたらどうだ?」

「っ!」

「おっと!」


少年、瑠華は経験から、この男には戦闘では敵わないと理解している。だから隙を見て左慈の横を過ぎて逃走しようとする瑠華であったが、すぐに捕まってしまった。左慈は黒マントを利用し、瑠華の首に巻き付ける。


「がっ……あっ……ぁぁ……かはっ!!」

「苦しいか?ん?」

「は……離、せぇ……!」


呼吸が出来ずにジタバタと暴れる瑠華。何とか抜け出そうとするも、マントで顔を包まれる。そのまま首を脇でホールドされ、横腹を殴られる。左慈は数発打ち付け、腹に膝蹴りを入れると、瑠華を持ち上げて、思い切り地面に叩きつけた。


「があっ!……ぁ…………」

「ふん、餓鬼が……」


呼吸はかすれ、目の焦点も合っていない。仰向けに倒れる瑠華を見て、左慈は拳を作る。


「死ね……!」

「ま、待って!」


振り向くと、張角がそこにいた。表情には焦燥の色が見える。左慈は苛立ちも含めた睨みを見せる。


「何だ……?」

「いや、その……何をして……」

「決まっている。殺すんだよ」

「殺……!?ど、どうして!こんな小さい男の子を―――」

「こいつは敵軍の斥候だ。生きては帰さん」

「で、でも、こんなのはあんまりだよ!」

「お前はただ俺達の言う通りにしていればいいんだ!失せろ……」


瑠華を足蹴にして、張角にそう言いつける左慈。鬼の様な気迫に圧される張角。怯えながら、瑠華の方に視線を向ける。痛みで顔を歪ませる様子を見て、彼女の良心が痛む。


「終わりだ……!」

「っ!!」

「―――……だ、だめぇ!!」


左慈が止めをさそうとして、瑠華は目をギュッと瞑る。瞬間、張角が左慈に飛び付き、振り下ろそうとしている腕を押さえる。


「なっ!?き、貴様!!」

「こんなの、絶対に駄目!!」

「離せ!!この……!」

「に、逃げて!早くっ!!」


突然の出来事に茫然とする瑠華。張角の必死な様を見せられ、我に帰ると、体を翻して逃走を試みる。


「邪魔を……するなぁ!!」

「きゃあっ!!」


腕を振りほどいた左慈。張角は地面に叩きつけられる。追撃と言わんばかりに倒れている彼女の腹に蹴りを入れた。


「かはっ…ぅ……ぃ…っ……!」

「あっ……!」


吐き気が起きる程の衝撃を覚え、腹を押さえて踞る張角。自分を逃がそうとしてくれた彼女が心配になり、顔を振り向く瑠華。


「逃がさん!」

「っ!」


直ぐ様、左慈に追い付かれる瑠華。左慈は瑠華の顔面目掛けて拳を突きつける。

しかし、その間に誰かが入る事によって、瑠華は追撃を免れた。


「……危うい所だった」

「す、昴!」


昴は左慈の拳を掴み、それを払いのけると、左から蹴りを繰り出す。左慈は腕を使って防ぎ、手刀で昴の顔めがけて貫く。顔をずらす事で回避し、一旦距離を置く昴。


「す、昴……僕……」

「……話は後で聞く。今はここから脱する事が先決だ」


後ろにいる瑠華にそう答える昴。それでも、目前にいる相手から目を離さずにいた。先程の組み合いでも、かなりの実力者だという事が分かる。


「助けにきたのやもしれんが、俺からすればわざわざ死にに来た様なものに過ぎん」

(何とかして、ここから逃げ出さないと……)


ジリジリと摺り足で間を詰めていく両者。刹那、先に動いたのは昴であった。


「でぇやああっ!!」

「ふっ!!」


正拳突きを繰り出すも、受け止められる。しかし、受け止めた相手の腕を横から殴りつける。今度は足払いを行い、右足を狙う。左慈は少し跳ぶ事で回避し、宙に浮いた瞬間、体を捻って後ろ蹴りを繰り出した。昴も体を反らし、避け終えると、顎めがけて振り上げる。それを肘鉄によって防ぐ左慈。


「くっ!」

「うらぁぁああああ!!」


今度はこちらの番だと言わんばかりに、連続攻撃が開始された。彼の得意技である足技が昴を襲う。自由自在に操り、顔や体めがけて蹴りを繰り出す。昴も上半身を反らしたりする事で攻撃を避けている。まるで鋭利な鎌の様な連撃は大気を容易く切り裂いていく。


「ふっ、くっ、はっ!」

「せいっ!」


昴は何とか隙を見つけ、後ろ向きに転がりながら距離を置く。心臓は耳に響く程高鳴り、肩も上下して息も荒い。


「はっ…はぁ…はぁ……!」

「中々しぶといな」


対して左慈は汗一つかいていなかった。こちらは全力疾走した後の様な倦怠感に見舞われているというのに。これで相手との力量の差が明白となった。


(このまま長引いて仲間を連れられたら、確実に場が不利になる……一か八か、氣弾を撃ち込んで……!)


右手で拳を作り、氣を高める昴。呼応する様に電気の様な物質が昴の右手に集まっていく。それはやがて、一つの球体を作り出した。


「ほぅ……氣を使えるのか。なら―――」


表情を変える左慈。すると、彼もなにやら両手を合わせ始めた。印を組んでいる様にも見える。そして、左慈の両手に不気味な黒みがかった紫色の氣が集合し、左慈の両手に纏わりついていく。


「先手必勝!はぁああああ!!」


昴の方が早かったらしく、氣弾を左慈に向けて撃ち込んだ。バスケットボール位の大きさを持つ氣弾は、空気と摩擦しながら着弾した。こだまする位の爆発音と共に砂煙が舞い上がる。


「はぁ……はぁ、今の内だ。瑠華、退くぞ!」

「……っ!?す、昴!!」


瑠華に促され、後ろを振り向いた―――



途端、地面に叩きつけられた。

そして、左慈は昴の腹部に拳を振り下ろした。その衝撃を物語る様に、昴の下の地面は網目状に亀裂が走っていた。


「ごぶぁっ!!」


顔を鷲掴みにされ、後頭部を地の上にぶつけられたせいで、軽く視界がぶれた。メリメリッ!と深く入り、昴の口から血飛沫が飛び出る。


「手間をとらせやがって……」


左慈の両手は紫色に変化していた。指先は鋭く研ぎ澄まされ、淡い光沢を放っていた。それはまるで悪魔の手の様で、実に禍々しい氣を纏っていた。二の腕まで覆われており、昴の顔を掴んで持ち上げる。


「氣弾の威力はまずまずだった。だが俺には通用しない」

「―――ぐっ……ぅぁ……!!」


さっきの氣弾の評定をしながら顔を握る力を強める左慈。抵抗する力が弱まり、昴の両手はダラン、とぶら下がっているだけとなった。

瑠華は助けに行こうとするも、体の中を激痛が走っていく。左慈の猛攻による怪我で身動きが取れずにいた。

左慈の方は片手で持ち上げたまま、空いた手で手刀の形を作る。


「消えろ」

「す、昴!!」


手刀で喉に突き刺そうとした、その時。


〈でぇぇぇぇぇいぃ!!〉

「むっ!?」


突如、赤毛の青年が乱入してきた。その青年は昴を掴んでいる左慈の腕のどこかを指でついた。


「貴様、一体―――なにッ!?」


ガクンッ!と腕から力が抜け落ち、昴を離してしまう左慈。落ちる昴を青年はキャッチし、すぐに瑠華の元に駆け寄る。


「おい、しっかりしろ!」

「あ、あなたは……?」

「よかった、意識はあるな!話は後だ!今は退くぞ!」

「えっ、あ、あの……」

「うおおおおおおおおおおお!!!」


青年は昴と瑠華を両脇で抱えると、砂煙が出る程の猛ダッシュで逃げていった。


「ま、待て!くそっ……!!」


肘から指先にかけて痺れている様な感覚に襲われる。先程の青年、実は腕にあるいくつかのツボを押していたのだ。いつの間にか足も刺激されて、左慈の腕と片脚は動けずにいた。


「ホイホイ~、ドッタノ左慈?」

「蟇蛾!来るのが遅ぇんだよっ!!」

「チョッ、ソンナ怒ンナヨ~。駆ケツケタダケデモ感謝シテクレナイト……」


黒ローブを身に付けている蟇蛾は、左慈の腕をとり、人差し指で突いていく。

すると痺れがなくなっていき、左慈は手を握ったり開いたりして調子を確かめる。脚も治してもらい、何とか動ける様になった。


「チッ……あの男、何者だ?」

「医学ニ通ジテルノハ間違イナイダロネ。多分“五斗米道”ノ一人(ひとり)トカ……?」

「医者風情がなぜこの戦地に……」

「サァネェ。ニシテモ、鼠ヲ取リ逃ガスナンテ、ラシクナイジャネェカ」

「ああ。そこの女が邪魔さえしなければ、な」


左慈の睨んだ方に顔を向ける蟇蛾。蹴られた腹部を押さえながら尻をついている張角。


「アア、君カァ……」

「…ぁ………うっ!」

「ナァニシテクレチャッテンノ~?」


蟇蛾は腰を下ろし、張角の髪を乱暴に掴み上げる。


「アノサァ、オイラ達ガ“オ前ラ”に危害ヲ加エナイト思ッテルナラ大間違イダゼ?」

「ぅぅ…………」

「ソンナ事ジャア、妹達ガドウナッテモイイノカナ~……」

「や、やめてっ!!」

「ダッタラ……!」


蟇蛾は張角の顔を覗き込む。張角はその人間とも思えない、巨大な単眼に威圧され、言葉を失う。


「ヤル事ハ分カッテルヨネ~?」

「計画通りにやるんだ。いいな………?」


何も言い返す事も出来ず、ガタガタと震えながら、張角は首を縦に振った。


「…………ふん!」

「ジャア、ヨロシクネェン♪」


また乱暴に突き放すと、蟇蛾は左慈と共にその場を後にした。


「ちいちゃん……人和ちゃん……」


一人取り残された張角。その瞳には怯えの色がまだ残っていた。











「よしっ!これでもう大丈夫だ」

「かたじけない」


通りかかった青年に治療を施してもらい、昴と瑠華は礼を述べる。


「ありがとうございます。えぇっと……」

「ああ、俺の名は華陀。旅の医者だ」

「華陀さん。僕は月読です」

「某は五十猛と申す。華陀殿、先程は本当に助かりました」

「気にするな。怪我人を治すのが医者の務めさ」


華陀は笑顔で答えた。そして、昴は華陀に疑問に思っていた事を述べる。


「それにしても、華陀殿は何故あの場所に?」

「ああ、実は俺も黄巾党の動きを探っていたんだ。そしたら君達二人がいた、という訳さ」

「そうでしたか……」

「詳しい事は曹操の陣に着いてから話そうと思ってる。所で君達は?」


華陀に尋ねられ、昴は説明した。その間、瑠華は巻き込んでしまった罪悪感でいっぱいだった。

なぜその様な行動をとったのか、等も瑠華の口から聞かされた。


「……なるほど、仲間を危険に晒したくない思いで、か」

「だが、お前が取った行動はあまりにも勝手すぎる!殿や関羽殿達がどれだけ心配したと思ってるんだ!!」

「……ごめん」


昴に叱咤され、顔を俯かせる瑠華。すると肩に手が置かれた。


「……まあ、なんだ。とりあえず間に合ってよかった」

「昴……」

「殿達にもちゃんと謝るんだぞ?それと、二度とこんな真似はするな」

「うん、分かったよ」


申し訳なく思いながらも、瑠華は昴の友情に感謝する。後ろから見ていた華陀も微笑ましく見守っていた。


「では、華陀殿もついてきて下さい」

「おう、頼んだ」


昴は瑠華を救出する事に成功し、華陀とも出会い、曹操軍の陣地へと向かうのであった。








ちょっと瑠華が無茶をしてしまった、みたいな感じです。仲間の為を思った事でも、行動次第で周りを巻き込んでしまう。そういう風に書いてみました。

後、なんか弱そうに書いていますが、瑠華も結構強いキャラのつもりで書いてます。今回はただ相手が悪かったという訳でして……はい。


文章構成があんまりな僕ですが、これからもよろしくお願いいたします!


それでは!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。