第7話 食事とその他
ジプチに案内され私は食堂に向かった。真ん中に木のテーブルがあり、7〜8人程度は掛けられるようだ。とはいえこの建物には普段からデリックとジプチ以外は、誰もいないらしい。だからか2つの席のみが使いこんだ感じになっていて、なんだか少しもったいない。
私がジプチの隣に座ると
「まいどー食事配達サービスのシマダでーす」
と可愛い声がして、白黒のしまの猫が入ってきた。オレンジのエプロンがよく似合っている。
ラーメンの出前などでよくある岡持ちを開きスープ、パスタのようなもの、サラダ、そしてステーキと生肉を取り出した。
人間二人にはステーキ、ジプチには生肉が前に置かれた。やっぱり猫だから生肉が好きなんだな、いやこっちがこの世界では普通で、きっとデリックが気をきかせて私の分もステーキになったのだろう、と考えた。
食卓には他にナイフとフォークも並んでおり、少しホッとした。最悪の場合素手だと思ったから。
準備が終わるとシマダさんは可愛らしく小首をかしげて
「あら? 新しくきた人間さんにはお髭がないのね? 不便しない?」
と意外なことを突っ込んできた。
「人間の女性と子供にはあんまり生えないんですよ。私は産まれてこのかた生えたことがないから……たぶん大丈夫です」
私はあいまいな表現になったが、そう答え、シマダさんは納得したようだった。
彼女は「食器は後で取りにくるね」と言って忙しそうに出ていった。ジプチはシマダさんを見送りながら、少しデレッとしていた。ああ、モテそうだよね彼女。細かいところにも気づくし気立てもきっといい。
料理の味はなかなか美味しかった。
パスタのようなものが見た目とは違いカリカリなのに、ビックリした。カリカリーナと言うらしい。あまりにそのままの名前なので少し笑ってしまった。
硬かったけれど鰹のようなコンビーフのような独特の風味がとても面白かった。
「明日は私のもといた世界に行って和美の装備を買って来ようと思う。魔術のことは、とりあえずしばらくジプチに頼むからよろしくな」
一息ついたところでデリックが予定を話した。食後にサイズその他を測るらしい。
そういうことは早く言ってほしかった。女子だし、一応サイズは気にする。とはいえ、食後に着れなかったら困るのだけれど。
「和美さんはもう明日にも実際に魔術を使ってみてもよさそうです」
「なるほど、しかし実技をするなら、しっかり魔力の感覚を感じてからの方が良いかも知れん。暴発したら怖いしね。どれだけの力があるか分からないし」
食後、体のサイズ測定をデリックにしてもらった。男の人に測られるのは少々恥ずかしかったが、猫又族ではどこを測ればいいか、わからないので仕方がなかった。
この後はひとまず明日の朝まで自由の身らしい。
洗面所を借りて歯磨きした後に、これから数日はお世話になるだろう、宿泊のできる部屋に案内してもらった。ジプチが言うには猫又族に合わせたつくりだから、ちょっと使いにくいかもしれませんが、とのこと。
とりあえず私は、寝れれば良いよ、と答えたのだが部屋を見てびっくりした。
ベッドが、布団が……!
「寝る場所が、ない?」
「?」
唖然としている私の傍らでジプチは変な顔をして首をかしげていた。
「え?あ、ああ〜そうですよね。師匠は四角い寝床で寝てましたから、人間には珍しいのかも」
あれが、寝床です!とジプチは部屋の角にある、直径2メートルの、大きな、円い『クッション』を指差した。
認識していたけどあれは座るものだと思い込んでいた。猫又の寝床だもの。寝るとき円くなるもんね。そうだよね。
横になっても何とか足りそうなサイズだったので、今夜は何とか寝れそうだった。
その後もトイレが砂だったり、お風呂がなくてお湯で体を拭いたり、と文化の違いをいやというほど思い知った。
そりゃあ、猫又ばかりなのだから違うのはわかるのだけど。
フォローしてくれる人間のデリックがいなかったら、ジプチが人間に慣れていなかったら、正直かなり辛かったと思う。
もし魔王退治の旅にデリックがついて来ないとしたら、退治以前に私は異世界の文化で生きていけるのだろうか……
デリックはたぶん召喚術の発動に関わっているのだから、私がダメだった時のために残る可能性が高い。
いまのうちにニャングリラ世界の生活に慣れるしかないな。
私はふかふかの円形寝床で、落ち着けなくて眠れなかった。
今後のことを考えてみたけれど、こういう時はいい考えは浮かびにくいものだ。
うーん、と伸びをして考えを打ちきると、疲れていたのかいつの間にか眠りについていた。




