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第23話 野宿の三人

 村を出てから私、ジプチ、エルの三人はまっすぐユウヤギを目指した。

 ある程度の余裕は持っていたけれど、予定が狂い、今日は野宿となってしまいそうだ。


「夜は危険だから、今のうちに寝ておいて、夜寝るのは最低限にしておこう」


 少し道を逸れ川の近くに陣取った。あいかわらずジャンキーな昼食を取りつつエルが言った。

 夜は野生の動物や盗賊が活発になり危険だとか。


「睡眠を細切れにして二人は大丈夫なの?」

「まあ、野宿になった時点でこうなるのは仕方がないのです」

「空も夜には雨が降りそうだし、な」


 遠くに黒雲が見える。そしてこちらは風下だった。

 食事を済ませ、一人を見張りに交代しながら仮眠を取る。川のせせらぎが心地よい。

 地面に敷物をしいて寝転がるなんて中学の遠足以来かなあ。

 懐かしい思いにかられ、帰りたいな、と思いつつ、私はまどろんだ。



 私が順番の最後に見張りをしたあと、午後の行軍はすんなりと進んだ。

 夕方にぽつらぽつらと雨が落ちてきたので、野宿に適した場所を探す。


 大きな木、この下ならば、雨も少しはましであろう。

 エルとジプチは目で合図してうなずいた。私も首を縦に振る。


 野宿ということもあり、食べられそうな野草を摘みながらきたので、スープを作る。

 あまり湿気ていない枝を集めてエルが魔術で火をつける。

 こういう時にも魔術って便利。私も使えればよかったのにな。


 スープは野趣あふれるものが出来上がった。

 三人で食事を取る。


「見張りは1時間半で交代だ。はじめにジプチ、次に私、最後に和美。良いな」

「私が最後なのはやっぱり夜目が利かないからかな?」

「ああ。何かあったら大変だ。幸い今の時期は日が長い。三時を過ぎればだいぶ明るいはずだ」

「三時か……寝るのはしばらく後?」

「ですね」

「私、ちょっとトイレ」

「あまり遠くにいくなよ」

「わかってるって」


 用を足し一息つく。

 物音がして、周囲に何かいるのに気付いた。

 野生動物かな? 私は気付かれないようにそっと野宿している場所に足を向けた。


「ただいま」

「つけられたな」


 エルはそう言って照明弾を放った。

 ぱっと周囲が明るくなる。


 私をつけていたのは犬のような生き物。五、六匹の群れだった。


「あれなに?」

「コヨーテですよう。あれ肉食です。エル兄ぃ何とかしてくださいいい」


 ジプチは大慌てしている。


『雷の矢よ、奴らを脅せ』


 エルが魔術を放つと、コヨーテたちは力量の差を感じたのか逃げていった。


「ああいうのがいるからな、見張りは気を付けろよ」


 フン、とエルは格好つけた。


「ありがとう、エル」

「良くあることだ」


 お礼を言ったら、彼は照れ臭そうにそっぽを向いてしまった。



 しばらくしてジプチは眠くなったのか、船をこぎはじめた。


「カズミ。ひとつ話しておきたいことがある」

「何ですか?エル氏」


 エルの表情に私も身を引き締めた。


「あのなぁ。お前がそんな風にするとおどけているようにしかみえないのだが」

「うるさいなぁ。ツンデレ猫又」

「デレてなどいない。ツンってなんだ? ツンって」


 それはツンケンするのツンだ。そう思ったけれど、口には出さない。

 前はツンドラかと思っていたけど。


「はいはい。でなんなの? めんどくさいなあ」

「『勇者』の扱いについてだ」

「私の扱い? すこしは慣れたよね? ひどく扱うと容赦しない女ですけど?」

「そういうことではなくてな。国としての我々の扱いについてだな」


 国として……。


 出会った当初のエルの態度や侍女達の態度、そして仲間が少ないことから単純に「勇者がやってきたー。わーいわーい嬉しいな」ではないのはわかっているつもりだけれど。

 私を見据えながら、エルはため息混じりに話しだした。


「王族はさておき、王宮の奴らは、女勇者一人ぽっちに何が出来る? と思っているんだ」


 なるほど。実際私はたいした人間ではなかったしな、と思う。


「伝説は?」

「おとぎ話の類だと思っているのだろうな」


 エルはそう言ってジプチを横目に見た。


「ジプチやあのデリック氏が研究しているのだから、私はある程度、真実なのではないかと思ってはいるのだが」


 それならば、最初の時の態度は一体どういうこと? 彼のもとからの性格もあるのだろうけど。


 顔に出ていたのか、エルはコホンと咳払いをした。


「焦っていたのだ」

「え?」

「実質左遷みたいなものだったからな」


 エルの話によると、養子に行ってから、魔術師仲間の妬みがすごかったらしい。

 実力があるから宮廷魔術師になれたのに、キジミケ家の力だ、コネだと言いがかりをつけられたそうだ。

 キジミケ家はキジミケ家でそういった事を処理できて一人前だという方針。


 そんな時期に勇者召喚が決まった。


『旅の供なら若くて優秀なのが、そこにいるじゃあないですか』


 基本的に後衛色の強い魔術師にとって危険を伴う役は少ない。だから嫌がらせに、魔術師の長がそう発言し、エルの承諾を得ないまま、決まったそうだ。


「でも栄転じゃないの? 普通は」

「見ためはな」


 エルは情けないような、半笑いになっていた。


「名誉なことなのだし、金の問題ではない、とたいした給金も出なくて、王宮勤めでもないからその手当金もなくなった」


 それはわりに合わないな。

 しかしエルは胸を反らした。


「それで、支度金ふんだくってやった。出兵の費用がどうとか言っていたが、すこし節約すればなんとかなるだろう」


 私たちのせいで兵士は節約生活か。ちょっと申し訳ない。


 兵士たちの中で秀でた者はすでに魔王退治に出たため、兵個々人の能力はそれほどでもないらしい。

 もし戦いに出るならば、数でのごり押しになるそうだ。


 魔王の性質から考えて、数があっても勝てるとは限らないのだけれど。 


「なんだ? 奴らになにか思い入れが?」

「いや、無いけど。よく知らないし。かわりに魔王を倒してくれるなら、楽でいいなぁ。って程度に考えてるよ」


 ここは、私のいた世界ではない。猫又達の世界だ。

 過去四回は彼らの力で封じられたのだから、封じることに別に問題はないと思う。そのせいで私が帰れなかったら困るけど。


 ん?

 エルの顔がヒクついている。


 変なことを言っただろうか?


「お前なぁ」

「ん?」

「取って来た金の分くらいは働けよな」


 そんなの頼んでないけどなぁ。


 まとめると、エルは大口叩いて出てきたから、思った以上に使えない私にイラついていた、ということのようだ。


「焦っても仕方ないよ。命あっての物種だし」


 今の私にとって手段や過程より帰れることのほうが重要なのだ。


 必ず従う必要のある呪いをかけられた訳でもないし、現地人に恋をした訳でもない。


 原動力は帰ることだけだ。


「まったくお前は面の皮が厚いよな」

現実主義(リアリスト)と言ってほしいな」


 キリッと顔を引き締めると、私はエルからデコピンをくらった。

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