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第17話 服装と礼節

 服の着方のメモをもらったので早速読もうとして開くと、デリックの世界の文字で書かれていることに気付いた。結局デリックに読み上げてもらい、私が書きつけることに。デリックは赤い顔でまったくとか最近の若もんはとか、なんとかぐちぐち言いながらも協力してくれた。


 メモを参考に、下着と膝丈のワンピースを身につけてみたけれど、ジプチは私の姿を見つけるなり


「新しい服がうれしいからって、寝巻きで出歩かないで下さいね」

などと注意してきた。

 この服は『日中に女性が着るものだ』と教えたら、謝りながらも意外だったというような、本当か疑うような変な顔をしていた。


 猫又族は持ち前の毛皮があるため、極寒地方か、虫除けか、汚れよけか、王族が威厳を示すための他はほとんど服を着ることが無い。

 汚れよけだって、大抵はエプロンで事足りてしまうのだ。埃っぽいだけなら思いっきり走るか、魔術を使える人は、風の魔術で吹き飛ばす。泥汚れでもぬれ布巾でで拭いて、いよいよ駄目なら諦めて水浴びするらしい。

 水浴びが嫌いなのは猫とは違う、といってもやっぱり猫っぽい。一家に一つ浴槽が有って毎日石鹸で体を洗う、という日本のお風呂事情をデリックやジプチに話すと、デリックはうらやましい、ジプチはそんなの嫌だなあという意見だった。


 ところで、服に関する習慣の違いは思わぬところに影響した。

 デリックとエルの話し合いの結果、二週間程度後に王族に謁見することになったのだが、どのような服装で会うべきか悩んでいるらしい。


 デリックがはじめて王に謁見したときは元の世界での魔術師の正装を持ってきていたので問題なかったが、勇者となると別である。


 ちなみにメェオ王国では軍人が王に謁見する際、腰に階級章や勲章の付いた太めのベルトをする。

 勇者の正装とは一体なんだろう。しかも私は女だ。ワンピースだと寝巻きに見えるらしいし、鎧姿ではあまりよくないらしい。

 王を警戒するのか、とか正式な場なのだから普段着ではなどなど。まあ、結局私たちでは答えが出なかったので、王宮の礼法に詳しい方に来てもらい決めることとなった。私の一押しはドレスなのだけど、戦う人らしくないし、王より豪奢な格好はできないしきっと駄目なんだろうな。


「あら、あなたが勇者ですの?人間は貧弱な生き物だとは思っていましたが賢者様より貧弱だとは。謁見までには少しは逞しくなっていただかないと」


 三日ほどたったとき王宮から派遣されたのは、高飛車な印象の年増のミツマタだった。

 彼女は宮中の礼法に詳しい侍女長だと名乗ると、まあ、よくも初めて会う相手に言えるなあという言葉を吐いた。彼女の見立てに従っておけばまあ、いいのだろう。

 王に近い人には私のことは偏見の目で見てくるのがデフォルトらしい。侍女長に付いて来た部下たちもいぶかしげな表情だ。まあ異種族に慣れてないから偏見もあるのだろう、とデリックが言う。


 侍女長の提案は、長袖立襟の鎧下に似たシャツに濃い目の素朴な色ズボン、謁見の日のために新調される太目の飾りベルトということとなった。


「あら、わたくしが来ましたのは衣装選びだけではなくってよ」

「え?」


 私が固まっていると、侍女長が続ける。


「あなた方が宮中の作法がなってないのは、わかっていますのよ。ただの挨拶だけならまだしも殿下とお話になるそうね。徹底的に教え込んでさしあげますわ」


 デリックは苦笑しながら、そういうことだから、と部屋から出て行った。彼も侍女長が苦手らしい。とがめないのはデリックには問題が無いからだろう。


 私とジプチは、地獄の作法訓練を頭がふらふらになるほど受けた……三日ほど。途中から筋トレしながらの訓練だった。


 この世界の常識もイマイチわからなかった私は、若干混乱しつつもただ受け入れるしかなかった。

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