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第15話 秘策への道

 マタタビとはマタタビ科マタタビ属の植物。猫にマタタビと昔から言われるほど、猫に好まれる。私も猫を飼っていたので少しは知っていた。

 猫にマタタビを与えると「とろん」とした表情になり、うねうね動き回ったり酔っぱらったようになってしまうのだ。


「マタタビはこの世界では伝説的な、最高の媚薬と伝えられている。見つけてしまうと多くの者が無意識に掘り返してしまうので、乱獲により絶滅寸前なんだ」

「なるほど。媚薬かぁ。匂いを再現出来れば、有効そうね」


 それで二人は恥ずかしがったのか。


 ただしマタタビの匂いを魔術で再現するには、ひとつ問題がある。

「私は意識してマタタビを嗅いだことが無いから匂いが思い出せない」

ということだ。


「誰か持っている人に心当たりは?」

と、私がきくと二人は考えこんでしまった。


「マタタビは見つけてすぐは酔っぱらってしまうし、破壊してしまうことが多い。運よく残って持って帰っても伝説的と言われる価値があるから、高値で薬屋か金持ちなんかに売られる。そして薬屋も加工の時にも酔っぱらってしまって量が減るし、金持ちは加工の術がないからすぐ使ってしまうそうだ」


 マタタビ効果半端ない。薬屋さんももう少し頑張れ、と思ってしまった。


「なるほど。じゃあ薬屋さんね?」

「いやいや、薬屋は薬を売るためにいるんだぞ? 売ってしまうのでは?」

「とりあえず帰りに薬屋に寄ってみますか。薬屋同士ならそれなりにつてもあるでしょう」


 ジプチの考えに私とエルは賛成した。他に当てもない。



 あれから、気になるにおいをいくつか試した後、私たち三人は薬屋に向かった。王都で一番の薬屋は商店街にあるのだが、こちらは軒をさらに布で延ばしその下に品物を置いている店が多い。ちょうど夕食の準備にいい時間なのか特に食べ物関係の店に人が多かった。


 薬屋は品物の性質からか、表に出ている品は少なかった。ほかの店と比べるとちょっと寂れた感じだ。

 ぱっと見た感じ小さな子供らしき人影が見えた。


「すみません、店主はおられますか?」


 エルがたずねると、濃い茶色の毛並みの子供は少し大きめの声で奥に向かって

「とーちゃーん! お客だよ~!」

と店主を呼んだ。


 薬屋の店主は子供とよく似ていて、やせ形で濃い茶色の毛並みの猫又だった。

 エルが奥で話したい、と言うと店主は少し戸惑いつつも奥の応接室に入れてくれた。


「実はマタタビを探していてな」


 店主はなるほど、という納得顔をした。

 エルは珍しい三毛猫の男だ。身分も丸わかり。店の前で名家の男が媚薬を頼む、と言うのはどうにも格好が悪いのだろう。


「残念ながらマタタビなんてのは伝説の媚薬ですから、ウチには在庫もありませんわ」


 答えながら店主は帳簿をめくる。


「いやぁ久しぶりにマタタビなんて言葉聞きましたなぁ。うち、薬屋では扱っている種類多い方だけど最後に入ってきたのは二年前で」


 近くの薬屋にも入ったと言う噂は聞かないという。


「なるほど。マタタビの生えていそうなところなどはわかるか?」

「うーん」


 店主は首をかしげつつもまっすぐにエルを見据えている。悩んでいるのが演技であることが丸分かりだ。まるで大根役者が演技しているのをさらにマネている感じ。


 二人のやり取りにジプチは察したようで

「もちろんタダとはいいません。産地は図書館を調べたりすればわかることです。出来れば持っている可能性高い方かそのあたりを熟知している方を紹介願いたいのです」

と交渉した。


 薬屋は報酬の相談が済むと、納得した顔で大薬術師ヤー・サビヲいう人への紹介状を書いてくれた。他にもマタタビが比較的採れる地域にいる野草採りと薬屋の名前を教えてもらい、こちらももし行けば便宜をはかるようにと手紙をくれた。


「大薬術師様は今は宮殿に勤めていらっしゃるようです」

「なるほど。殿下にお目通りする時についでにいけるな」


 エルはデリックにも用があるようで、用事の済んだ私たちはデリックの研究施設へと向かった。

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