骸骨人
未知の巨大な宇宙船が地球の衛星軌道上に停泊した日、人類は初めて異星人とのコンタクトに成功した。
高性能な翻訳機を通して自らを『ガイコツジン』と名乗った彼らは、驚くべきことに、地球人の骨格標本と寸分違わぬ外見をしていた。
文字通り、白骨だけの生物だったのだ。
彼らは見た目に反して極めて高度な科学技術を持ちながら、特異な価値観も有していた。それはさながら、骨格至上主義とでも呼ぶべき思想であった。
「我々にとって、骨こそが魂であり、個の在り方を示す唯一の真実である」
ガイコツジンの代表は、平たい顎をカタカタと鳴らしながら、地球人の前で肋骨を張って宣言した。
「対して、あなたがた地球人はどうだろう。肉や皮膚という余計な着ぐるみをまとい、自分たちの本当の姿を隠蔽している。魂の形を見せない対話など、極めて不誠実で、野蛮な振る舞いであると言わざるを得ない」
彼らにとって今の地球人は、厚い防寒着を重ね、顔まで目出し帽で隠したまま外交に臨んでいるようなものだというのだ。
異星人のこの強烈な批判に対し、地球側は頭を抱えた。
星を自由に渡れる圧倒的な科学力の差を考えれば、彼らの機嫌を損ねて敵対することだけは絶対に避けなければならない。なんとかして誠意を示さねば、地球は滅ぼされてしまう。
政府の切実な要請を受けた科学者と医師たちは、夜を徹して一つの解決策を導き出した。
それこそ、肉体と皮膚の完全透明化手術である。
細胞内の光の屈折率を遺伝子レベルで調整し、血液を無色透明な代替液に置き換える。結果として、臓器や筋肉はガラスのように透き通り、中心にある白い骨格だけがくっきりと浮かび上がるようになるのだ。
まさに『歩く骨格標本』を作り出す技術である。
数週間後、決死の覚悟で透明化手術を受けた地球の外交官たちが、ガイコツジンの使節団を迎え入れた。透明なゼリー状の輪郭の中で、白い骨たちがペコペコとお辞儀をする。
その奇妙な姿を見たガイコツジンの代表は、空洞の眼窩の奥で光をパッパと明滅させた。
「素晴らしい。ついにあなた方は偽りの着ぐるみを脱ぎ捨て、真実の姿を見せてくれた。これこそが真の友好に繋がる第一歩だ。その努力に感謝する」
この朗報は瞬く間に世界中を駆け巡った。
透明化こそが誠実さの証であるという異星人の価値観は、平和を渇望する地球人たちの間で熱狂的に受け入れられた。
初めは政府高官や富裕層だけが受けていた透明化手術も、技術の進歩により市民へと波及した。
「まだ肉を着ているの? 不誠実な人ね」
「骨の髄まで見せ合ってこそ、真のパートナーシップだ」
己をさらけ出せ、というスローガンが街に溢れ、肉体を透明化することは新しいファッションとなり、高い社会的ステータスへ変化を遂げた。
賑やかな街は、白い大腿骨を輝かせながら闊歩する若者たちで溢れ、エステサロンでは『骨の美白化とフォルム矯正コース』が大流行した。
それから、わずか二年後。
人類の実に九割以上が透明化手術を終え、世界が誠実な骨たちで満たされた記念すべき日。それを祝う大規模な式典が、国連本部で開催された。
壇上に立ったガイコツジンの代表は、眼下に広がる数十万の地球人たちを見渡し、翻訳機を通して機嫌よく語りかけた。
「地球人の皆さん、ごきげんよう。我々の身勝手な提案を受け入れ、これほどまでに姿を変えてくれたことに、深く感謝の意を表します」
会場は割れんばかりの拍手に包まれた。ついにこれからは宇宙外交の時代なのだと、人々は肋骨を躍らせる。
代表は腕を広げ、言葉を続けた。
「実は、我々の母星は深刻なカルシウム枯渇に陥っておりまして。宇宙を旅しながら、極上の骨格を持つ種族を探していたのです。
しかし、あなた方のような皮と肉のパッケージに包まれた獲物は、中の骨が健康なのか、カルシウムが詰まっているのかが、外から全く判別できませんでした。いちいち皮を剥いで検品するのは、非常に手間だったのです」
途端に静まり返る会場。
そんな中で、代表の顎の骨が、カチャカチャと愉快そうに鳴った。
「しかし、これでもう安心です。透明なパッケージのおかげで、中身がはっきりと見えるようになりましたからね。これで、食事の際に不良品の骨を掴まされることもありません。さあ、同胞たちよ、素晴らしいショーケースの完成だ。最高の晩餐を始めようじゃないか」
突如、空を覆い尽くす巨大な宇宙船群から、無数の捕食船が黒い雨のように降り始めた。
すっきりと透き通った肉体の中で、人類自慢の骨たちが、絶望と恐怖にガタガタと震えていた。




