毒化身葬
ある平和な町で、ひとりの偉大な長が息を引き取りました。
町の人々は皆、大粒の涙を流して深く悲しみました。彼は誰に対しても親切で、貧しい者には惜しみなく食べ物を与え、病の者には薬を無償で配るような、まさに聖人君子だったからです。
彼の葬儀には町中の人間が集まり、誰もが「私たちの太陽が沈んでしまった」「これからの道のりをどう進めばいいのか」と心の底から嘆きました。
しかし、その悲しみが冷めやまぬうちに、信じられないものが発見されました。
長が住んでいた大きな屋敷の遺品整理をしていた時のことです。書斎の古い本棚の裏から、隠し部屋が見つかりました。
その薄暗い部屋に足を踏み入れた者たちは、鼻を突く異臭と目の前の凄惨な光景に、声すら出せませんでした。そこには、黒い血がこびりついたいくつもの刃物や鈍器、生き物を閉じ込めておくための頑丈な鉄の檻、そして、誰のものともしれない無数の骨が転がっていたのです。
さらには、いつ、誰を、どのようにして痛めつけたのかが克明に記録された、おぞましい日記まで見つかりました。
それらは間違いなく、これまで町で起きていた未解決事件の犯人が、他ならぬ長であったという証拠でした。
この身の毛もよだつ発見は、どこから漏れ出したのか、あっという間に町中に知れ渡りました。
当然、町の人たちは大きな衝撃を受け、長を恨むはずでした。しかし、奇妙なことに、大多数の人はその事実を全く信じようとはしなかったのです。
「あんなに優しくて素晴らしい人物が、そんな惨たらしいことをするはずがない」
「誰かが長を陥れ、町の平和を乱すために、偽物の証拠をでっち上げたに違いない」
隠し部屋を見つけた者たちや、冷静に判断できる者たちがどれだけ説明しても、ほとんどの町人は耳を貸しませんでした。
それからというもの、町の雰囲気は一変してしまいました。
以前はすれ違うたびに笑顔で挨拶を交わし、困った時には助け合っていた人々が、互いを恐れ、睨み合うようになったのです。
事実を否定するためには、長を陥れようとしている真犯人を探し出し、糾弾しなければなりません。
「長を罠にはめようとしたのはお前だろう!」
「いや、お前こそ町を悪夢に陥れる悪魔だ!」
誰もが疑心暗鬼に陥り、些細な言動を捕まえては罵り合い、時には暴力で相手を傷つけるようになりました。あんなに温かかった町は、嘘と暴力、そして終わりのない疑念が渦巻く地獄に変貌してしまったのです。
やがて、町人に恐ろしい変化が表れました。他人を疑い、憎むたびに、彼らの顔は歪み、元の形そのものを変えていったのです。
ある朝、鏡を見た若者が悲鳴を上げました。彼の顔は、あの亡くなった長とそっくりになっていたのです。
驚いて外へ飛び出した彼が見たのは、さらに異常な光景でした。通りを歩く者も、窓から外を覗く者も、取っ組み合いをしている者たちも、男も女も一様に、皆が同じ顔をしていたのです。聖人の仮面をかぶり、裏で恐ろしい悪事を働いていた、あの長の顔。
今や町は、何百人もの長で溢れ返っています。
彼らはついに、自分が本物の長であるかのように振る舞い始めました。同じ顔をした他人を攻撃し、決着の見えない争いを続けています。
気付けば、この町の日常そのものが、毒に侵され、毒をまき散らす者たちによる、おぞましい葬列となってしまいました。




