Episode 5-8 「詩唱卿」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
一年後。
灰神圏は今日も平和だった。
戦争はない。
飢餓もない。
反乱もない。
神の国。
完成された世界。
人々は働き。
学び。
祈る。
いつも通りの日常。
何も変わらない。
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変わったのは一人だけだった。
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王城。
大広間。
神官。
貴族。
軍人。
各地の代表者。
数千人が集まっている。
その中央。
玉座の隣。
新たな席が増えていた。
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白銀の髪。
中性的な顔立ち。
優しい笑顔。
柔らかな声。
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詩唱卿リオ。
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灰神圏第四側近。
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人々は拍手する。
称賛する。
愛されていた。
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リオは人を安心させる。
悲しみを癒やす。
争いを仲裁する。
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不思議な才能だった。
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言葉だけで。
人の心へ届く。
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だから人々は呼ぶ。
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「神の語り部」
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「灰神の声」
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と。
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今日も。
大広間で朗読が始まる。
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リオが本を開く。
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静かな声。
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「人は」
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「独りでは生きられない」
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人々が耳を傾ける。
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「だから支え合う」
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「だから愛する」
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静かな言葉。
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誰も知らない。
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その言葉が。
かつてユリウスという青年の願いだったことを。
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誰も知らない。
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その優しさが。
かつてリノアという少女の心だったことを。
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知らない。
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誰も。
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玉座。
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ハザムは静かに聞いていた。
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リオの言葉。
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優しい声。
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穏やかな笑顔。
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失ったはずのもの。
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いや。
失わないために残したもの。
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そのはずだった。
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なのに。
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胸の奥は満たされない。
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何故だ。
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隣にいる。
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いつでも会える。
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失われていない。
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それなのに。
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何かが違う。
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リオが語る。
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「愛とは」
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そこで。
一瞬だけ。
言葉が止まる。
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誰にも分からないほど僅かに。
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リオの瞳が揺れた。
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そして。
小さく微笑む。
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「誰かの幸せを願うこと」
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会場は拍手に包まれる。
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ハザムだけが気付いた。
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今。
ほんの一瞬。
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ユリウスがいた。
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いや。
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リノアだったかもしれない。
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分からない。
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もう。
分からない。
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式典終了後。
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夕暮れ。
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王城の庭園。
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リオは一人で歩いていた。
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花畑。
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風。
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静かな空。
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ふと。
立ち止まる。
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胸へ手を当てる。
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何故だろう。
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時々。
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知らない景色が見える。
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夕焼け。
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馬車。
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笑い声。
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誰かの肩。
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温かい。
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懐かしい。
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でも。
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思い出せない。
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「……誰」
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呟く。
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答える者はいない。
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遠く。
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王城最上階。
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ハザムが見ていた。
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リオを。
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ただ静かに。
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何百年も。
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何千年も。
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国を作り。
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勇者を倒し。
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世界を救った。
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それでも。
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愛だけは。
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理解できなかった。
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ハザムは目を閉じる。
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夕風が吹く。
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どこからか。
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歌が聞こえる。
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詩唱卿リオの歌。
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優しく。
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悲しい歌。
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その歌を聞きながら。
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灰神皇ハザム・ヴェルは。
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初めて。
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自分が何を失ったのかだけを。
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理解していた。
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第五章 完結
愛の勇者編 終了
ここまで読んでいただきありがとうございました。
第5章では、 これまでの「国家」「思想」「生存」とは違い、 “感情”をテーマに描いています。
ハザムは、 世界を救うことはできました。
ですが、 誰かを愛することや、 愛されることだけは、 最後まで理解しきれなかったのかもしれません。
そんな神の物語として、 続きを楽しんでいただけたら嬉しいです




