19-9 ネコ戦士、アクアドラゴンと再会する
北の半島に押し寄せる津波に、私たちは身構えた。
息を殺してじっと半島の先を見つめていると、懐かしい水色のドラゴンがゆっくりと姿を現した。
私たちは防壁の骨組みの海側の壁を塗っていたので、津波が届けば、みんな流されるかもしれない。
いざとなったらみんなを防壁の上に放り上げようと思ってたけど、壁土を塗り終わった所に大工さんがもう、即席の階段をつけてくれていたので、
「みんな防壁の上に逃げてにゃ!逃げ遅れたヒトは私が放り上げるにゃ!!」
と私が叫ぶと、みんな慌てて出来立ての階段を上りだした。
私は津波に備えて防壁に背中をつけて、アクアドラゴンの様子をうかがった。
防壁まで達するかと思っていた津波は、半島の先端あたりだけにとどまっていたので、私はほっとした。
アクアドラゴンはすでに上陸して、何かを探すかのように、その長い首をゆっくりとめぐらせた。
そして、アクアドラゴンの深い青い瞳に、私の姿が映った。
どうしよう?どうすればいい?
私はしばらくあれこれ考えて迷ってたけど、どうするべきなのかわからなくて、何もできずにいた。
…でも。
やっぱり謝るべきだろう。
心から謝って、それでも攻撃されたら、必死で避けよう。
そう思った私は防壁から離れて、アクアドラゴンに近づいて行った。
「ネコ戦士殿っ!!」
ギルド長の叫びが聞こえたけど、それには答えず、
「ごめんなさいにゃ!!」
私はアクアドラゴンに向かって頭を下げた。
「言葉が通じるってわかってたら、あなたを攻撃したりしなかったにゃ!」
私は頭を上げて、アクアドラゴンの瞳を見上げた。
「あなたを倒した時、あなたにも私の言葉が通じるって気がついて、後悔したにゃ…」
一方的に話し続ける私を、アクアドラゴンはずっと見ていた。
ホントに言葉、通じてるんだろうか…?
そう思ったけど、
「ホントにごめんなさいにゃ…あなたの起こす津波で、またヒトがたくさん死んだりしないようにって、あなたを倒したけど、私…ずっと後悔してたのにゃ」
と私は話しかけ続けた。
「あなたを倒した後、凍竜さんから、あなたには私の言葉が通じるって聞いて、もっと後悔したのにゃ。ごめんなさいにゃ…謝っても仕方ないけど、ごめんなさいにゃ…!!」
アクアドラゴンは、まだ私を見ていた。
でも、全然動かない。
攻撃するかどうか考えてるんだろうか?
何の反応もないアクアドラゴンに話しかけ続けていると、どんどん不安になってきた。
すると、アクアドラゴンが動いた。
私に背を向けて、アクアドラゴンは海に戻って行った。
「お…おお…?」
「アクアドラゴンが海に戻ってゆく…」
「ネコ戦士殿の気持ちが通じたのか…?」
防壁の上の傭兵たちが、ふーっと息を吐く音がした。
そしたらアクアドラゴンは浜辺から離れて、海に潜った。
…おかしい。
アクアドラゴンは通常、海面に半身を出した状態で泳ぐはずだ。
少なくとも陸の近くでは、海には潜らないはず。
…もしや、一度潜ったのは…
海面に飛び出して、さっきより大きな津波を起こすため…?!
もし今すぐアクアドラゴンが津波を起こしたら、浜辺にいる私は、助からないかもしれない。
私はネコ戦士になってから一度も泳いだことはないから、津波なんて起こされたら、多分全然泳げず、ただ流されるだけだろう。
でも、アクアドラゴンが私のことを恨んでいて、仕返ししたいと思ってるなら。
…それは、甘んじて受けるべき罰かもしれないから。
そう思った私は、その場でじっと立ち尽くした。
すると、やがて海面が盛り上がり、アクアドラゴンが宙に飛び上がった。
「ネコ戦士殿!!逃げろーっ!!」
ギルド長の叫びを聞いても、私は動かなかった。
「カールさん、ごめんにゃ…」
私は右前脚で、左前脚の結婚指輪に触れながら、目を閉じた。
ザブッビチャッボトボトボトッ、ビチャ、ピチピチピチ…
…何の音…?
なにかが落ちた?水が跳ねた?
私はそっと目を開けてみた。
すると、私の前にたくさんの…色々な魚が落ちて飛び跳ねていた。
「な…何にゃ…?」
わけがわからず脱力していると、声が聞こえた。
”ネコ 我 倒した でも ネコ 我 海に流した だから 我 蘇った”
え…?
”ネコ 我 海に流した だから 我 蘇った 凍竜 言った”
「…凍竜さんから聞いたのにゃ…?」
私はまばたきをして、アクアドラゴンの目を見た。
”凍竜 言った ネコ 魚 喜ぶ”
「…私に魚をくれるのにゃ…?」
アクアドラゴンは、うなずくような仕草をして
”ネコ 喜ぶ?”
と私に尋ねてきた。
「魚、うれしいにゃ!!喜ぶにゃ!!」
私がそう答えると、アクアドラゴンはまたうなずくような仕草をして、
”我 海に流した 礼”
と言った。
とりあえず死なずに済んだらしい…と思った私は、一気に安心して、へたりこみそうになるのを何とか耐えて、その場に立ち尽くした。
私の部屋は、ネコのフードの匂いがすごいです。普通ネコといるとトイレが匂うと言いますが、うちのネコのトイレはそう匂いません。某三ツ星の香るシリーズのフードの魚臭さは強烈ですが、ネコはお気に入りです…く、臭い…




