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エピローグ:夜が明けるとき
夜が明けた。
霧のかかった森に、静かに光が差す。
風の音は、まだ冷たいけれど、どこか柔らかさを含んでいた。
その光の中、セシリアは立っていた。
胸の奥の星神印は、今も沈黙を保っている。
けれど、それでいいと、思えた。
あの光はもう、神の声ではない。
──わたしが、生きている証。
──誰かに、名を呼ばれた記憶。
それがあるかぎり、わたしはもう、“器”なんかじゃない。
「行きましょう」
そう告げると、ティナが頷いた。
少女はもう、祈りの檻にはいない。
星に選ばれることを望まなくても、歩き出せる足が、今ここにある。
北の空は、ほかよりも早く明るい。
夜が明けた。
それは、願いのための夜明けではない。
自分の意志で、生きるための、たったひとつの朝だった。




