暁の羅針(ルミナ・ナビス)
凍てついた大地に、ようやく朝が訪れた。
灰白の雲間から差し込む淡い光が、雪を照らし出す。
氷原での戦いと祠での出来事を経て、一行は一時拠点の雪洞を発った。荷物を背負い、足元を踏みしめるその姿に、どこか“整った”気配が宿る。
「……よし、準備完了っと!」
ライナが背負い袋の紐を締めて振り返る。
「ユイ、荷物の紐、ちゃんと留めてある?」
「……うん。ミリアさんが教えてくれたから」
「ふふ、完璧ね」
小さなやりとりの中に、自然と“仲間”の雰囲気が滲んでいた。
「ねぇ、そろそろ“あれ”が必要じゃない?」
「“あれ”?」
ライナの言葉に、カイルが肩を竦める。
「つまり、俺たちの正式名称ってやつだ」
「……ああ。パーティ名か」
ぽつりと呟いたレオンの言葉に、場の空気が少しだけ和んだ。
「先に言っておくが、ライナのあの案は却下だ」
カイルが即座に切り捨てた。
「えー!《レオニャンズ》って、可愛いのに!!」
「というかレオン要素しかないだろ、それ」
ミリアがくすくすと笑う。ユイも小さく笑っていた。
カイルは腕を組んだまま、真面目な顔で言った。
「実力も揃ってきたし、そろそろちゃんと登録するべきだな。今後ギルド依頼も増えるし、名義がないと面倒が多い」
レオンはふと空を見上げた。
いつからだろう。ただ歩くだけだった旅路が、“誰かとともに進む道”に変わったのは。新たに出会い、再会し、共に戦った。そして、新たに今、仲間が増えようとしている。
この“選択”は、もうただの偶然じゃない。
「だったら──《暁の羅針》でどうだ?」
レオンの声に、皆が振り返る。
「夜明けを指し示す羅針。導かれるんじゃなく、自分たちの意思で進む。そんな意味を込めた」
しばらく沈黙があった。
「……いいじゃん、それ。かっこいいし!」
ライナがニッと笑った。
「星や神に導かれるんじゃなくて、自分たちで未来を決めるってことね。悪くないわ」
ミリアも静かに頷く。
「ルミナ・ナビス……」
ユイはその言葉を、何度か小さく繰り返した。
「……わたしも、その羅針の中にいて、いいのかな」
「お前がいたから、ここまで来れた。胸を張れ、ユイ」
レオンの言葉に、全員が静かにうなずいた。
「……うれしい」
ユイの声は、風に溶けるほど小さかった。だが、確かに、心の底からのものだった。
「……じゃあ、俺たち五人はこれから──《暁の羅針》だ」
★
出発の時。
東の空に、光が射し始めていた。
レオンは小さく息を吐き、前を見据える。
(──もう、迷わない)
「行くぞ」
雪原の先、まだ見ぬ道の果てへ──
《暁の羅針》が、旅立つ。




