幕間:観測者たち3──王都にて
王都ロメリア、王宮内王太子執務室。
午後の陽光が、王宮の塔越しに淡く差し込んでいた。ルキディウス=デストリアは、机上に並ぶ報告書に目を通しながら、ふと遠い記憶を思い出していた。
──灰色の羽を持つ、隼型の獣。
星神教会の聖女、セシリア=ルクシアが逃亡してから少し経った頃だろうか。
執務室の窓辺現れた一体の“召喚獣”。厳密には、呼び出された存在というより、“自らの意思で姿を現した”幻獣に近いもの。 その異質な気配に、ルキディウスは驚くことも忘れてしまってただ見つめていた。
誰の召喚かもわからぬまま、ただ一方的に、こう語ったのだ。
『私はシェルム。観測者にして、語り部。
主は語らない。ゆえに、私が代わりに伝えよう。
私は常に、“観測しうる座標”に在る』
『観測されざる記録は、やがて真実をも呑み込む。王よ、記憶せよ』
それだけを残し、光の中に消えていった隼。
ルキディウスはそれを忘れてはいなかった。あのときの存在が、“ただの召喚獣”ではないこと。
そして今、再び浮上しつつある“記録干渉”の波形。神域の封印が揺らぎ、星喰みの気配が近づいている現在。
「あの訪問も──警告だったのかもしれないな」
呟いた声は、書類の隙間に吸い込まれるように静かだった。
彼はまだ、クラリスにもアルヴィスにも話していない。だがいつか、この断片もまた“記録される”べき時が来るのかもしれない。
(……二人には情報収集を依頼しなくてはならないな)
誰も知らない来訪。それは、観測の外側からの予兆だった。




