表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男装を強いられ男として生きてきた公爵令嬢は、2回目の人生はドレスを着て、令嬢ライフを謳歌したい  作者: 江本マシメサ
第三章 王都で起こる事件について

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/55

リウドルフィング公爵家の〝始祖〟

 父に始祖と話をしたいという手紙を書いて出したところ、すぐに返事が届いた。

 夜、あとは眠るだけという時間に手紙を開封する。

 そこには会えるかどうかは始祖次第だ、と書いてあったのだ。

 面会については父次第だと思っていたのに、出鼻をくじかれる思いとなる。

 入っていたのは手紙だけでなく、丁寧に折りたたまれた地図も同封されていた。

 これは自力で探せ、ということなのか。

 酷く古めかしい地図で、童話などに登場する宝の地図みたいな雰囲気である。

 中心に書かれた星印の場所に、始祖がいるということなのか。

 ただ王都周辺ではないし、国内の地図とも照らし合わせたものの、一致する場所はなかった。

 どうしたものか、と考えていたら、リーベが覗き込んでくる。


「リーベ、これは始祖の居場所を示すものでね、どこにいると思う?」


 フローレスが眠っているので、声を低くして話しかける。

 すると何を思ったのか、リーベは地図をむしゃむしゃと食べ始めたのだ。


「リーベ、いけない!」


 慌てて制止しようとしたものの、ふと気付く。

 リーベが食べたところから、光の粒子が弾けていることに。


「これは、魔法だ」


 もしかしたら魔法札スクロールみたいに、破って発動させるものなのかもしれない。

 それに気付くと、リーベに食べられてしまう前に、思い切って破いてみた。すると、目の前に魔法陣が浮かぶ。

 すぐにそれが転移魔法だと気付いた。


「――!!」


 体がふわりと浮かんでいくのがわかったので、慌ててリーベを抱き寄せ、はぐれないように務める。


 景色がくるりと変わり、私達は別の場所へと下り立った。

 そこは錬金術師の工房のような、薬品棚と実験台がある雑多な部屋だった。

 薬草の匂いが漂う部屋で、テーブルに突っ伏して眠るような後ろ姿を発見する。


「あの――」


 声をかけた瞬間、弾かれたように起き上がる。

 振り返ったのはこの世に存在しているとは思えない美しい容貌の、三十前後の女性だった。ナイフのように尖った耳を見て気付く。彼女こそが始祖だろう、と。

 リーベは私の肩までよじ登って、少し警戒するように短く『ぷう!』と鳴いた。


「んん? 誰ぞ?」

「私は、リウドルフィング公爵の娘、ユークリッドと申します」

「リウドルフィング……? ああ、我が眷族であるのか」

「初めてお目にかかります」


 片膝を突いて頭を垂れる。

 するとこちらへ接近し、顎を掴まれた。


「瞳に星が散って、不思議な瞳をしている。そなたは〝時を旅する者〟なのだな」


 時の旅人――その言葉を耳にした瞬間、胸がどくんと脈打つ。


「それはいったい」

「言葉の通りだ。そなたの命は一度絶えかけたものの、魂が浄化される前に時間を巻き戻した者がいる」

「わかるのですか?」

「当然だ! それだけ長く生きているからな」


 改めて、話を伺う。


「その、あなた様はリウドルフィング公爵家の始祖様、で間違いないでしょうか?」

「ああ、そうだ。名前は忘れたから、始祖と呼ぶがいい」


 始祖は五百年ほど前までは王都に住んでいたようだが、今は隠居の身となり、誰にも会わずに暮らしていたという。


「父――現リウドルフィング公爵が、会えるかどうかは始祖次第、と言っていたのですが」


 実際はそんなことなく、魔法でここまで行き着いた。


「まあそれも間違いではない。ここへは用もなしに導かれないようになっているからな」


 私は会うべくして、始祖のもとへたどり着いたようだ。


「それはそうとなぜ、そなたは時を旅することになったのだ?」

「私にもわからないのですが」


 初めて、二回目の人生を歩むことになるまでの話を打ち明けた。


「というわけで、何がきっかけでそうなったのか、わからないのが現状なのです」


 私にだけ読めなかった竜族に伝わる本がある、と言うと、始祖は「これか?」と聞いてくる。

 始祖が手にしていたのは、ヴィルオルが保管してあるはずだった書籍〝秘術・竜魔法〟だった。


「どうしてそれを?」

「そなたの記憶から照合して、実物を召喚しただけだ」


 なんてむちゃくちゃな魔法が使えるのか、と思ったものの、今は実物があるほうがありがたい。


 本を開いてみると、始祖は中を読み込んでいた。

 やはり、白紙に見えるのは私だけのようだ。


「そなたが時の旅人となったのは、十中八九、竜族の男が関連しているのだろうな」

「竜族の……ヴィルオルがですか?」

「ああ」


 たしかに、ヴィルオルは私が命を落とそうとした瞬間の記憶が残っていた。


「その男はそなたを死なせないために、竜魔法の秘術でも用いたのだろう」

「竜魔法の秘術、ですか?」

「ああ。竜族は三つの心臓を持っていると言われているのだが、その中の一つを捧げることにより、奇跡のような秘術を使うことができるようだ」

「三つの心臓の、奇跡……」


 書籍〝秘術・竜魔法〟を媒質とし、魔法が発動されたのではないか、と始祖は予想する。


「我に見える本の内容は偽装されたもので、本来書かれてあるのは魔法式なのだろう。そしてその魔法のすべては、きっとそなたの中に存在する」


 始祖が私の額をとん! と叩くと、これまでなかった記憶が溢れ出てきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ