もふもふの愉快な帽子
ミケーネ山の麓に広がる街――ケルン。
ケルンはミケーネ山の麓にあり帝国北方に広がる辺境地域にある。このケルンは辺境にして珍しくかなり大きな街といえた。
それには幾つか理由がある。
まず古くから岩塩鉱の開発が行われ岩塩鉱山あること。そのため産業の岩塩で潤っている街ということが挙げられる。それにより、古き時代からこの街を起点として帝都や隣国へと塩を運ぶため街道が整備されていた。またここには帝国では珍しく温泉が湧き出る地としても知られており、尊き身分の者たちが訪れる保養地としての側面もあった。
もちろん帝国の中心である帝都に比べれば小さな街だが、それでも物資の流通で潤い街の整備も他の辺境地域と比べてもかなり行き届いていた。
この街の様子には、過酷な山岳地域での生活に慣れているシュナにとっては、あっけに取られるくらいの驚きだといえる。人も多くごった返しているし、綺麗な石造りの建物。それに市場に並ぶ商品は目移りするぐらい豊富だ。
そういえば昔、父さんに連れられ一度だけケルンの街に下りてきたことをシュナは思い出していた。その時はなんのために街を訪れていたのだろうか? おそらくは村では手に入らない食材の購入や、あと誰か人に会って、魔法書のようなものを見ていたような気もする。おぼろげではっきりとは憶えていないが、その時は弟のレイも一緒だった…。
そこまで考えてシュナはハッとする。慌てて頭を左右に振ると考えを打ち消したのだ。止めよう。もうあの人達とは家族でもないのだから…これからのこと前を向いて考えないといけない。頭を切り替えると、あらためて正面を見つめたのだ。いつの間に街の中心部に入っていたのかシュナは市場の通りを歩いていた。そしてなぜだか、周りの人たちがクスクスとこちらを見て笑っていたのだ。
悪意は感じない。でも、おかしいな。そんなに目立つ格好ではないはずなのにとシュナは首を傾げているとこんな声が聞こえてきたのだ。
「見てみて、お母さん~! あの子の頭の上に可愛い灰色の子犬さんが乗ってるよ~!」
「まあ、ほんと可愛いわね」
「私もあんな、もふもふの帽子が欲しいよ~」
「そうね。今度、帽子屋さんに行ったとき似たようなものがないか見てみましょうか?」
「うん!」
お母さんと小さな女の子は仲良く手を繋ぎ、和やかな会話を続けてながらそのまま通り過ぎていくところだ。
もしかして…周りの人がクスクス笑っていたのはこれが原因!?
目立たないように行動しようと思っていたのに、これでは思いっきり目立っているじゃないか!
「キャフ!」
自分がみんなから注目を浴びているという自覚があるのか…僕の頭の上では、凄いでしょ! と言いたげにオニキスは耳をぴんと立て、なぜかドヤ顔で主張していたのだ。
これに慌てたのはシュナである。目立たないようにコソコソを街中を移動するつもりでいたのに、まさかこんなところで目立っていたなんて思いもよらなかったのだ。
「ねえ、オニキス~。僕の頭の上からそろそろ降りようか~? その代わりに僕がオニキスを抱っこするからさ」
「ギャウ~」
だが、オニキスは不満げな顔になると首をぶんぶん振り、嫌々と主張する。
「でも、かなり目立っているしお願いだから…」
それでもオニキスは、シュナの耳あてのところをがっちり両前足で挟んで、まったく離れる気配がない。
シュナはなんとか頭の上のオニキスを説得しようと集中していたため、まったく前を見ていなかった。そして同じく、大きな紙袋をかかえ前を見ていない通行人が正面から近づいていることさえ気づかなかったのである。
そして二人は、必然と言うべきか…
――ガッシャッン!!
正面から盛大にぶつかりお互い地面に尻もちをついたのだ。
けど、素早いオニキスはぶつかる直前にシュナの頭から跳び下りると四本足で綺麗に着地する。
「キャウ」
肉球で地面を踏みしめ、小首を傾げると尻もちをついているシュナのもう一人を不思議そうに見つめていたのだ。




