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四。カミナリ

(※)


空を砕き割る。青く亀裂が走る。夢と現実が交わる。下を見下ろす。ただの野原が広がる。ただ、その野原は文字通り()()としていて、気味が悪い。


「変わらないな」

「いえ、変わりましたよ。ずいぶんと」


冷たい風が吹く。今は春頃のハズだ。だから、本当ならもっと暖かい風が吹いてもいいと思う。空は雲っていて、最後に見た時と変わらない。雪が降っていないだけましだ。


俺たちは亀裂から地面を見下ろしていた。静かで、風の音しか聞こえない。遠くに城が見える。城下には冷たい明りが燈っていた。気に入らない。煙と血にまみれていた赤の方が、温かみがあるように感じるくらい、冷たい色味がした。


「久しぶりに来たけど。俺には変わっていないように見える」


俺たちは亀裂から空へと飛び出し、空を飛ぶ。その瞬間、甲高いヴァイオリンのような轟音が響く。空が砕け、雲が晴れる。すべでの色味が心地の良い青色へ変化した。


「結界が・・・!破られたのですか・・・!?」


エノプロウラが大層驚いた顔をする。俺は色彩の変化に気を取られ、青を覆っていた雷雲の結界が破られたことに気づけなかった。だが気を取り直して確認してみれば、確かに結界は消えていた。外と区切っていた仕切りがとられた。エノプロウラが血相を変え言った。


「止まってはなりませんよ、王よ。こうなれば、我々にはどうすることもできなくなります。速度を上げましょう。早く、王城へ行かなければ・・・!」

「わかった。あれはいったん無視する」


そうは言ったものの、俺はその音が気になって仕方がない。予想空気をレンズのように固め、音の方を見る。アイツらが居た。レ二、カイ。なんでリヒ?追いかけてきたのか。一応、来るなって置手紙はしたはずなんだが。アイツらが素直に従うわけないか。だって、アイツは自分で考えて動くから。


「―――何か問題でもありましたか?私は早く貴方をお連れしなければならぬのですが。」

「ああ、高い所がちょっとな」

「ご冗談を言う方だとは思いませんでしたね。ええ、少し愉快ですよ」

「俺はちっとも」


裂けめから空へ、落ちるように飛んで行く。風と重さに乗って空を漂う。機能美なんてものはない、無理やりの飛行。目的地に無理やり引っ張られるような、そんな飛行。そうしてすぐ、城へ着く。



(※)


「にしても。囲まれるなんてね」

「どうやって突破しましょうか。正面一点突破で良いですかね?」

「呑気ですね!戦闘になったら僕は役に立ちませんからね!?」


囲んでいる集団が、少しずつ私達の周りに集まってくる。青いマントと、古風な制服とでも言いましょうか。統一された衣装を身にまとった方々が、私達を取り囲みました。そのうちの一人が顔を隠したベールを取り、私達に近づいてきます。


「抵抗するなよ~。って言うつもりでもねえんだ。どうやって入ってきたかが聞きてぇんだ」


本当に疑問を持っているようで、敵意はあまり感じません。その気なら、何も言わずに攻撃したでしょうから。私は口下手ですから、リヒを肘で叩いて話すように促してみます。


「えっ!?えっと。僕達はあの結界を・・・方法・・・?ああもう!実行犯のカイさんが説明してくださいよぉ!」

「へぇ?そっちの赤いのは小背ェし違うか、促してたしな?じゃあそっちの黒髪んネェちゃんか。黒か白い夢出身だよな?細いもんな、目がよ」

「アンタねぇ・・・ご時世的にそういうのよくないんだよ」


東の人間の容姿にとやかく言うのはコンプライアンス的にダメらしいのです。私は細いだなんて思いませんが、あれは糸目みたいなものです。これ物理的に細いですね。事実なので失礼に当たらないのでしょうか。でもカイ姉さんはちょっと怒ってるみたいです。


「まあいいさ。どうせ、そういう風にみられるからね。目が細いのは事実だし」


ふてくされたように言った。普段のような落ち着いた雰囲気とは何かが違ったような気がしますが。


どうやったかだっけ?結界に呪いをかけたのさ」

「あ~デバフみたいなもんか?ま、そいうこともあるか。オレらんとこは内側の研究で手いっぱいでなぁ~?外んことはわからんのよ。いつかは魔法以外の研究とかもしてみてぇけどな」


どうやら納得された様子。私達の目的より、どうやって結界を破ったか、を知ることを優先するなんてよっぽど研究者気質らしいですね。私の嫌いなタイプです。


「それで、貴方は何なんですか?不法侵入者をとらえる気がないなんて、よっぽどお気楽なんですね」

「あ~。名乗るのが遅れたよなァ。オレはフレット。石派、ダイアモンド家当主。フレット・"ダイアモンド"・ハミルトンだ。その言葉、そっくりそのまま返すぜ。なんなんだ?アンタらはよ」


宝石の名を冠し、美しい白色をまとう彼は、それはダイアモンドのように美しいお辞儀をしました。それはもう、まぶしいほどに。


閃光が走る。


「レニさん!避けて下さい!ああクソッ。こんなの柄じゃなにのに・・・!」


リヒが私を突き飛ばした。どちらかと言えば、蹴り飛ばされたようです。きっと、私がその閃光を避けられないのだと思ったのでしょう。事実、私は反応できませんでした。私は無事でしたが、リヒが閃光の範囲から出られずに、リヒの腕が焼け焦げたように見えます。


「リヒッ!!不意打ちとは卑怯だね!」


カイ姉さんが血相を変えて切り込み、フレット以外の人間の胴体が真っ二つに切られる。あらま、こりゃ見事に一刀両断ですね。


「何をいまさら言ってんだ?先手を打ったのはアンタらだろうがよ。結界が破壊されたせいで、アレを維持してた連中が半分くらい死んだぜ。ま、それはどうでもいいんだがよ!」


フレットが右手人差し指に着けている指輪が光り輝いて、指輪から閃光が迸る。先ほどは反応できなかったが、凄まじい音を奏でています。おそらくは、雷を指定した方向へ発する魔法でしょう。その閃光は腕が焦げ、倒れこんだリヒへと向かっていました。


「次は見逃しません!」


私はガントレットから糸を伸ばし、地面へと伸ばします。避雷針のように、地面へと雷を逃がそうと考えました。そして、私はバカでした。


「あああああああああああああああ!」


糸が焼き焦げる。糸を伝って私へ電撃が流れる。皮膚が焦げてゆくのを感じました。視界が明滅して、命の危機を感じるほどの痛さ。もはや懐かしいほどの苦しさが私の体へと襲い掛かる。焼き焦げる身体が、私の意志に関係なく痙攣し身動きが取れない。


「バカか、こいつは―――ッ」

「あの子はバカだよ。でも、それを言っていいのは私たちだけだよ」


フレットの右手の指先から肩にかけて、関節に沿ってバラバラに切り飛ばされていく。カイ姉さんの仕業だと、モノクロの剣線が物語っている。


「ルールに則らねぇと切れないだろ、アンタさ。だって最初っから首を切れば済む話だろ?しないってことは、実力が足りねぇかしない理由があるかだ。アンタに実力がねぇなんて思えねぇし、後者だろ?」


カイ姉さんに切られたことで地面に落ちた指輪を拾い上げ、口で咥えて左手の中指に着けなおす。


「推測するに―――ルールや手順を決めて、それ通りに事を成すことで発動する、か。手順自体がリソースみたいなもんだよな。それが呪いってやつか。だいたい分かったぜ。アンタの呪いの仕組みがよ。今のルールは拷問、刑吏の役割だな?そういう拷問が戦争の時代に流行ったもんな。オレらの記録にも残ってるぜ。そんで結界を切った時のは全く別のルール。ルールを決めるのにも何らかの手順が必要か?」

「すごいね、全部正解だよ。分析になると倍くらいのおしゃべりになるんだね。研究者しかいないというのは本当の話らしい」


フレットは指輪を通した左手を傷口の肩へと添える。傷口に激しい閃光と熱が現れ、傷を焼いて塞いだ。開けた砂浜でなければ、吐いてしまうほどの鉄の痛々しいにおいが、海のにおいと交じって気持ち悪い。私は痙攣が落ち着いたので、仕返しにフレットへととびかかる


「待った待った!いったんここまでにしようぜ。オレらは全滅、アンタらも被害甚大。正直、戦う利点もねぇんだがよ、アンタがオレを殺したいっていう異常者ならあきらめるしかねぇな。勝ち目もなさそうだしよ」


こぶしの当たる直前、フレットがそう言った。フレットは言い終えてすぐ、姿勢を正して座り指輪を恥じすました。これは降参とみなしてもいいでしょう。


「殺したりなんてしませんよ。私たちは、せめてお別れをちゃんと言ってもらうために来たんですから。必要以外の戦闘は意味なんてありませんから。私は何もできませんでしたけど、私は・・・」

「・・・すまなかったなんて言わない。これはアンタらが百悪いし。オレらは仕事しただけだからな。よし!そろそろ起きてもいいぞ!」


気が付けば、フレットの右腕はきれいにくっついていた。場所も、砂浜ではなく、建物の中のような場所でした。リヒも黒焦げじゃありません。気絶はしているようですが。カイ姉さんに真っ二つにされた方々が次々と起き上がってきます。


「あ~もう。だから反対したのよ!たった二人で戦いに行くなんて、無謀にほどがあるのよ。試験だか何だか知らないけどね」


起き上がった方々が、同じ動きをしだし、やがて一つになっていく。とても不思議な光景でした。


「どうも!密航者たち!私はノリス・”ルビー”・ナイト!そこの愚か者フレットと同じ石派!」


元気がよろしくて良いですね。敵意はなさそうですし、利用しようとしているような感じもしません。では私も元気よく挨拶を返しましょう。挨拶は良い文化です。守るべき味方の名前も、倒すべき敵の名前もどちらも知っておかなければ、いざというときに何もできませんから。敵を追うことも、仲間を守ることも。


「どうも!私はレイ二ィ・モイライ・テスパーソ!ヴィータ・"アメジスト"・ガードナーという人の副官を務めてました!」


ちょっとの意趣返しのつもりで出した王という言葉を聞いた瞬間。二人の顔が真っ青になる。ほんのちょっといい気味ですね。


「ちょっとまて・・・その名前って、王か?いや、まっさか」

「いやあ、まさかでしょ。ほんとに、ありえないって。ねえ、きっと同じ名前の誰かよ・・・・!」


憶測のようなものをぶつぶつとつぶやいた後、叫ぶように二人は言った。


「王の直属の部下と戦ったって知られたら派首にどやされる・・・!一家ごと処断もあり得てくる・・・」

「どうやっても打ち首以外の未来が見えないよ!もう!愚か者のせいで!愚か者のせいで!!」


まあ、そこまで青ざめる必要はなかったのですが。ちょっと罪悪感の方が強くなってきました。


「あんまり他所の人を怖がらせないで上げてくださいよ・・・僕たちだって、あの人の身分なんて結構最近に知ったじゃないですか。去年でしたっけ?」

「えヴィレって王だったんですか?」


私は急に現れた新情報を処理できない。リヒは続けて言った。


「あれ、知ってるの僕だけでしたっけ?まったくあの人は・・・まあ、今身分はどうでも良くてですね。僕たちが必要なのは王様じゃなくて僕たちのヴィレなんですから」


確かにそうだ。事務所のみんなも、どうやら故郷ではかなり身分で苦労したらしい。でもヴィレが私たちに身分の仕組みを押し付けたことはない。私たちに分け隔てなく。私たちをちゃんと人間のように扱ってくれた。私だって、本来ならもっと機械的に扱われて死ぬはずの生まれだったから。きっと、みんなもそうだった。だから、私たちはヴィレのことを追いかけてきたんです。


「そうですよね。リヒ、忘れてました。ヴィレのことで頭いっぱいで・・・もう、何が何やら。急に襲ってくる人はいるし。ヴィレは意味わかんない手紙ででていっちゃうし」


焦りすぎていたのは事実です。私には余裕がないのです。今にでも、走り出して、あらゆるところを探したい。今は、それを抑えている。リヒを連れてきてよかった。こういう時に、静止役になってくれるから。そうでなかったら、どこもかしこも壊しながらヴィレだけを探していたでしょう。


騒がしく青ざめた二人を落ち着かせるのに、結構な時間がかかったのはまた別の話。


(※)


飛びながら城を見る。あわただしく、整列を成そうとしている。一応は王の凱旋なのだ。体裁は保っておきたいのだろう。俺からすれば、迷惑千万だが。


カタリ。と石を鳴らして、城の頂上、発着場のような場所に降りる。整列した老若男女の魔術師や魔法使いたちが、それは見事にそろった礼をして言う。


「「「おかえりなさいませ!王!」」」


その例のすぐ後、メイドか執事のような者たちに囲まれ、盛大な歓待を受ける。そんなことより、王としての仕事がどうなっているかが知りたいものだ。こいつらは、俺を何のために連れ戻したのかわかっていないんじゃないだろうか。エノプロウラ曰く


「どうやら凱旋パーティでもするつもりのようです。ええ、楽しみでございますね!」


俺は生きるために戻ってきた。王は、今の王が死ぬまで次代の王が現れることはないからだ。そして、王にしかできない仕事があるのだろう。今、青では王を必要としてる。俺は死にたくないから、きわめて私的な理由ではあるがそうして戻ってきた。身勝手だと嘲ればいい。でも俺は、俺本来の責務を果たさないと。そうしなければならない、という強迫的な衝動が、俺の中にある。


「パーティとかそういうのはどうでもいい。俺がすべきことを教えろ」

「ええ、はい。わかりました王よ。(わたくし)は貴方の忠実なしもべでございますから」


ええいどけどけ、とあらゆる魔法使いたちを押しのけ、俺を王城へと連れてゆく。そして招かれたのは、かつての俺の部屋だった。


「ここであれば、無法者とて簡単には入り込むこともできないでしょう」


エノプロウラは自信を込めてそう言った。


「それで、俺がすべきことはなんだ?王として、俺がすべきことをすべて教えろ。お前はそのために俺を見つけて、そして連れ戻したんだろ」


俺がそう問うとエノプロウラは、どれから言いましょうかと少し悩んだのち言った。


「まず、してもらいたいのは宣言です」

「宣言ね。俺が帰って来たって言えばいいのか?」

「ええ、はい。その通りでしゅ・・・噛みました」

「良い、続けろ。()()のドジなんてかわいくないぞ」


エノプロウラの顔は今にも燃え上がりそうだ。少し言い過ぎたかもしれない。


「ええ、おほん・・・次に、反対派の制圧です」

「ああ。俺を殺そうとしてる連中な。そいつらを逆にぶちのめせばいいわけだ」

「ええ、そうです。ええ、はい。ですが・・・きっと、それは貴方様にとってお辛いことになるかと」


俺の身を案じるように、エノプロウラはそういった。正直、不思議なほど心配されているように感じる。もし、反対派の制圧がなされたときは、俺が再起不能になるというレベルでの心配。俺はこいつからすれば、仕えるべき主なのだからその心配は妥当だろうが、それよりも自らの信愛からくる心配であるように思えた。


「・・・どうしてだ?」

「貴方様は覚えていませんでしょうが。(わたくし)は幼き貴方様の側仕えを務めておりました。ですから、知っているのです。」

「何をだ。お前は、何を知っている?俺の何を、なぜおまえが知っている?」


面識はない、記憶にない。かすんでしまっている。なぜだ。知らない。俺とエノプロウラには接点がないはずだ。そんな記憶はない。ありえない。俺は、俺は。俺は、まさか。そうだ。嫌気がさして、覚えようとしなかったんだ。覚える気がないものを、俺が覚えているはずはない。


「新王一派。彼らは魔女は()()()()使()()を自称し、学派に囚われず学び、自らの理念にのっとって行動する。ご存じですね?」


魔女。まだ青にいたとき、学院で学んだことがある。遠い昔にいた集団だ。現在まで続く、家と学派の権威による魔法の就学に異を唱え、学派によって秘匿してきた魔法や神秘を盗み、大乱を起こしたとされる集団。古魔法使いは、その魔女たちがいた時代から生きている。古魔法使いの中には、未だ魔女に恨みを覚える者もいるという。


「ああ、知っている」

「彼らあの悪い魔法使い(ウィッチ)どもは。その首領は!」


だんだんと、忘れようとしていた青での生活を思い出してくる。そういえば、幼いころには共に学んだ友人がいたな。彼以外に、俺と友人のようにかかわる人間はいなかったからよく覚えている。どうして、今まで忘れていたのだろうか。背筋に嫌なものを覚える。まさか、そんなことはあるまいと、俺は息をのむ。エノプロウラが、俺の昔を知っているならば。いや、まさかだ。過去、知り合った人間が敵になっているなんてそんな、現実味のない話があるか。


「―――その首領は、貴方様のご親友、クレイ様なのです」

クレイ=フローゼ

超昔に書いた短編、凍えるための魔法の主人公だった人。こっちに出すことは決めてたけど、焼き増し前の設定で書いているからかなり変わっていると思う。時間があれば多少修正します。

魔女たちの頭領として、現王派を苦しめているそうだ。

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