〜 年の瀬の街と人々 ① 〜
〜 年の瀬の街と人々 ① 〜
日本ポップカルチャー同好会の今年最後の集まりの日……
久しぶりに同好会のメンバーが全員揃っている。
全員と言っても僕を含めて男性はサミュエルと僕の2人、女性はシェリル、そしてキャサリンとクレアの3人で計5人である。
他にも同じ趣味の人は沢山いるが同好会に参加しているのはここにいる5人だけである。
僕は、サミュエルとシェリルはよく話をしたりするのだがキャサリンとクレアとはあまり付き合いが無い。
と言うよりこの2人はどちらかと言うとクリエイターの方であるからでもある。
キャサリン・ガーネット、21歳、身長170センチ、ブラウンのショートヘア、やや肉付きの良い体型、オハイオ州出身、スコトッランド系、絵を描くのが大好きである。
何枚かPCで描いた絵を見せてもらったが素人の僕が見ても上手いと言うのが分かるほどである。
クレア・グラント、21歳、身長165センチ、金髪の天然パーマヘア、小柄だがモデルさんような体型、地元カリフォルニア州出身、イタリア系、いわゆるライトノベル好きである。
日本語が非常に堪能で漢字も理解しており発音も日本人の僕が聞いても不自然さが無い。
驚くべき事に全てyoutubeなどの独学だそうである。
この5人が集まって何をするのかと言うと……
皆んな各自好きな事を勝手にしているのである。
サミュエルはコーヒーを飲みながらタブレットの漫画を読んでいる。
同じくシェリルもコーヒーを飲みながらタブレットで何かコスプレのカタログらしきものを熱心に見ている。
キャサリンはポテチをかじりながらノート型パソコンでお絵描きしてる。
クレアはソフトドリンクを飲みながらタブレットでラノベを読んでいる。
因みに5人とも酒も飲まなければタバコも吸わないのである。
"一体、何のために皆んな集まったんだろう……"
なんとも言えない雰囲気に僕は心の中で疑問に思うのであった。
当然、僕は何もする事がないのでただ呆然と時間を過ごしていると携帯からメールの着信音がする。
何もする事がないので携帯のメールをチェックすると3通のメールが入っていた。
絵梨香、中野さん、そして島本さんからであった。
着信順にメールを目を通していく、初めは絵梨香からのメール……
"お兄ちゃん、日本に着いたら連絡してね"
"お土産よろしくお願いします"
いかにも絵梨香らしいメールである。
次に中野さんからのメール……
中野さんからのメールがくるのは何ヶ月ぶりなんだろうなどと思いながらメールに目を通す。
"これってもしかして和泉君なの?"
ファイルが添付されていた。
僕が恐る恐る添付されていたファイルを開くと、予想通り僕のコスプレ画像が表示されるのであった。
"どうやら、中野さんには身バレしちゃったか……"
"まぁ、中野さんなら問題ないかな……"
"でも、皆んなには黙っててもらうようにメールしないとな"
僕は中野さんに皆んなに言わないようにお願いのメールを送信する。
そして、最後は島本さんからのメールに目を通す。
"残念なお知らせです"
"昨日とうとう、和泉君の身元が無許可で一部のネットの不法サイトで晒されました"
"個人情報保護と肖像権侵害に基づき削除依頼を出しましたが既に拡散してしまっています"
"今年の年末年始は日本に帰国しない方がいいかもしれません"
"こんな事になってほんとうにごめんなさい"
島本さんからのメールを読んで僕は愕然とする。
"これって、どう言う事"
僕は不安に駆られて以前に僕のコスプレ画像を無許可で上げていた胡散臭い怪しげな某コスプレ・サイトにアクセスすると……
トップページの新着情報が目に入る。
心臓をバクバクさせながらトピック情報のアイコンをクリックすると僕のコスプレ画像が表示され、その下に僕の名前と経歴が表情される。
"げっ!"
どこから仕入れたのか僕の名前と住所、生年月日、家族構成、学歴、そして現在、米国のスタンフォード大学に留学している事も記載されている。
"中野さんはここから僕のコスプレの事を知っんだな……"
"中野さんが知っているぐらいだから既に拡散しているか……"
"今年は日本に帰らない方が得策か……"
"いや、ダメだメリッサが日本に来るからそれはできない"
僕が真っ青な顔で何かブツブツ言っている事に気付いたサミュエルが心配して話しかけてくる。
「カネツグ、どうしたんだい?」
僕とサミュエルに気付いた他のメンバーもこちらに近付いて来る。
僕が詳細を話すと……サミュエルが険しい表情になる、
「完全に違法じゃないか……」
「そのサイト運営者に賠償を請求しないと」
「なんなら手助けするよ」
「僕は法律が専門だから何かの役に立てると思う」
「日本の法律は専門外だけどね」
サミュエルはそう言うと他の3人も多く頷く。
「ありがとう……皆んな……」
僕は嬉しくて思わず涙目になる。
「ところで、カネツグのコスプレ画像って……」
そう言うとシェリルがサミュエルにタブレットを見せる。
「Oh, My Gad!」
「この男の娘はカネツグでしたか!」
僕があの時の男の娘だと知ってサミュエルは心底驚いた様子だった。
4人のおかげで僕は凄く楽な気分になったのであった。
その頃、日本でも僕の事を心配して責任を感じている人物がいた。
そう、コスプレmagazine副編集長の長澤さんである。
"これ……私にも責任があるわね……"
島本さんからの送られてきたメールに目を通すと小さな事で呟く。
"副編集長になって初めての仕事はコレかもね"
"クリエイター達のプライベートを守るのも編集者としての責務……"
"それに、この手のサイトは以前から会社でも問題視されてたし絶好の機会かもしれないわ"
長澤さんは何か決心したかのように力強く呟くのであった。
しかし、残念な事に長澤さんの勤めていた会社の幹部達はそう言った事には全く無関心であったのだった。
〜 年の瀬の街と人々 ① 〜
終わり




