〜 日本ポップカルチャー同好会 ④ 〜
〜 日本ポップカルチャー同好会 ④ 〜
何とか大学の授業をこなし、今年の単位の方も見通しが立ってきた頃……
僕は食堂で1人もの想いに浸っていた。
"もう、12月か……今年も残すところ1ヶ月……"
"ここへ来てから3ヶ月しか経っていないのにいろいろあったな……"
今までにあった事を思い出しながら食後のミルクと砂糖をたっぷりと入れた殆どのカフェオレ状態のホットコーヒーを啜る。
そんな僕を少し離れたテーブルで何やら小難しい話しをしている学生4人がいた。
男子学生が2人、女子学生が2人である。
彼・彼女達はスタンフォード大学が行っている"ジョイントプロジェクト型グローバルラーニング"のメンバーであった。
これは、各大学で選抜された各4名の学部や専攻の異なる学生が合計8名の学生で多様性のある混合チームを2つ作り、創造教育および新しい発想とデザインに関する共同プロジェクトを立案し遂行するというものです。
因みに、このささやかなプロジェクトからかのGoogleが誕生しています。
もしかすると数年後にはこの中の誰かがGoogleのような世界的な企業を立ち上げるのかもしれません。
スタンフォード大学とはそう言う大学なのですから……
この4人、本来はプロジェクト活動のための集まりだったのだが……
「ほら、あの子が居るわよ……」
長めの金髪でやや小太りな女子学生が僕に気付き隣に座っている女子学生に視線を向け話しかける。
「リンダのお気に入りの子がいるわよ」
マギーがそう言うとスレンダーな長身で亜麻色の短髪のボーイッシュな女子学生が余計なお世話よと言う表情にならながらも僕の方にチラッと視線を向けた。
ここ異的大陸亜米利加にも"長澤さん"と同じ趣味趣向の人はいるのである。
リンダは2週間ほど前に偶然に僕を食堂で見かけて一目惚れしてしまったのである。
本人は知らないフリしているつもりでも相棒のマギーには丸分かりで直ぐバレてしまったのである。
「あのコーヒー飲んでる娘かい?」
「やっぱり、リンダってそっちの方なんだな」
黒ぶちメガネをかけ短めのブラウンの髪の毛で少し痩せた男子学生が納得したかのように言うと……
「違うわよっ!」
マイクのいかにも納得したような口調にリンダがムッとしたように言う。
「娘じゃないのよ……マイク……」
「れっきとした男子学生よ」
「名前は"カネツグ・イズミ"、19歳、日本人だってさ」
マギーがらそう言うとマイクともう1人の男子学生も"えっ!"っと言う表情をする。
「本当に男なのか?」
「それに日本人なのか……珍しいなぁ」
マイクは信じられないと言う表情でマギーに問いかける。
「本当に男よ、私も初めて見た時は女の子だと思ってたから」
マギーがそう言うとマイクとニックはコーヒーを飲んでる僕をもう一度よく見る。
「どう見ても女の子じゃないか」
マイクがそう言うとニックも頷く。
「まぁ、確かに見た目は完全に女の子よね」
「それも、中学生ぐらいの……」
マギーがらそう言うとニックが僕の方を見ながら何か考えていたのだが……
「あっ!あの子……確か……」
ニックは突然何か思い出したように呟くと携帯電話を操作し始める。
「やっぱり、間違いないよ……」
「ショッピングモールであった銃撃事件の時の子だよ」
ニックは携帯のyoutubeの動画を見て言うと他の3人もニックの携帯電話を覗きこむ。
「本当だ……」
「"lucky kid"でもなければ"lucky girl "でもなかったんだ……」
3人は同時に呟くと何故か深く小さなため息を吐く。
「うちの大学の子だったんだな」
「僕は、女子中学生だと思い込んでいたよ」
ニックは驚いたように言うと他の3人も同じように頷くのであった。
暫く、4人は気の抜けたように沈黙して僕の方をボォ〜見ているのであった。
後に、この中の1人が僕にとって重要なビジネスパートナーになるのである。
「こうしてみると……本当にcuteね……」
マギーがポツリと言うと3人は再び同じように頷く。
「リンダ、告るの」
「好きなんでしょう」
「今なら彼1人だし、周りに人もいないわ」
マギーがリンダのほうを見て言うと……
「突然、何言うのよっ!」
「できるわけないでしょうっ!」
リンダは顔を真っ赤にしてマギーに喰いかかるように言う。
「普段は腹が立つほど面と向かってハッキリとモノを言うくせに……」
「こう言う時は本当にダメなのね」
マギーがそう言うとリンダの頬がヒクヒクと引き攣るのが分かる。
「悪かったわね、根性無しでっ!」
リンダはそう言うとマギーにソッポを向くのであった。
リンダ・ロレンソ、20歳、身長175センチ、テキサス州出身のスペイン系のボーイッシュな女性である。
男勝りの性格と気風の良さで男性よりも女性にモテるいわゆる王子様タイプである。
しかし、事が恋愛に関してとなると全くのヘタレなのである。
実家は石油で財を成した$百万長者である。
因みに、相棒のマギー・フロイツは身長165センチ、アイダホ州出身のドイツ系の21歳である。
実家は広大な土地を所有する農家であり、ジャガイモ畑だけでも300haである。
分かりやすく言えば東京ドーム63個分である。
この4人のプロジェクトのリダー的な存在はニック・コスナー、コネチカット州出身のイングランド、ウェールズ系の21歳、父が弁護士で地元に法律事務所を構えている。
相棒のマイク・フォードはフロリダ州出身のフランス系の20歳、父はフロリダ州立大学の教授、母は地元高校の教師である。
4人とも裕福な家庭のお坊ちゃんとお嬢様である。
とは言え、言い方は悪いがここは亜米利加で皆んな移民の子孫なので、金と教養はあってもいわゆる歴史と伝統があるわけでは無い。
しかし、古臭いしきたりも無ければ妙に気位が高いわけでも無いのでそれはそれで良いのである。
そうこうしていると、僕のテーブルに1人の女子学生がコーヒーカップを片手に近付いて来るのが見える。
僕のテーブルにコーヒーカップを置くと正面の席に座り2人で楽しそうに話し始めるのが分かる。
「あ〜あ〜〜……」
その様子を目にしたマギーが思わず小さな声を出してしまう。
そして、目玉だけを動かして隣の席のリンダの様子を伺うと……
口を半開きにして魂の抜けたような顔をしたリンダの様子が目に入る。
"コレは……マズいわね……"
"何とかしないと後が超面倒だわ"
マギーは心の中で困ったように呟くと作り笑顔になる。
「大丈夫っ!あの2人が付き合っているとは限らないわっ!」
マギーはそう言ってリンダを励まそうとするのだが……
「あの2人、凄く良い感じだね」
「付き合ってるのかなぁ」
ニックがそう言うとマイクも大きく頷き、リンダの体が小さくビクッと反応する。
"このアホっ!"
"この状況で余計な事を言うんじゃ無いっ!"
マギーは心の中で無神経な2人を罵倒するのだが……時、既に遅しであった。
かくして、僕とシェリルが付き合っていないと言う情報をマギーが仕入れてくるまでの間、この4人のプロジェクトは停滞する事になるのである。
因みに、過半数の生徒が僕のことを女子学生だと思っていたという事に僕が気付くのはずっと後の事である。
〜 日本ポップカルチャー同好会 ④ 〜
終わり




