〜 流れ行く日々 ドイツ編 番外③ 〜
〜 流れ行く日々 ドイツ編 番外③ 〜
僕が借りた山荘は自然豊かで環境条件は申し分なかったのだが、現代生活に必須の社会インフラは何も無いのであった……
「とりあえず薪が必要ね……」
メリッサは部屋の中を見回しそう言うと薪が積まれていた玄関口へと向かう。
玄関の横には薪の置き場があり薪割り用の斧も用意されている。
「カネツグって薪割りとかした事ある?」
メリッサが尋ねてくると僕は首を横に振る。
「そうよね……私がやるわね」
「カネツグ、その斧とって……」
メリッサの言う通り僕は薪の山に立て掛けられた斧を取ろうとする。
"おっ!重っ!!"
鉄のゴツい斧は5キロ近くあるのではないかと思うほどに重い。
「ありがとう、カネツグ」
メリッサは軽々と斧を片手で受け取ると肩に担げる。
その姿はまるで御伽話の金太郎である。
積まれて薪を片手で庭の方に次々に投げる。
さっきの庭の切り株は薪割り用の台だったのである。
メリッサは切り株の上に薪を置くとあの重い斧を軽々と振り上げては振り下ろし次々に薪を割っていく。
「……」
メリッサのあまりの力強さに僕は自分の非力さを感じられずにはいられなかった。
薪割りを終えるとメリッサは薪ストーブの横の薪置き場に割って薪を積み上げる。
僕も微力ながら割った薪を運んだのであった。
山荘の裏手、切り崩した山の斜面から湧水が引かれている事に気がつく。
その横には簡単な木組みの小屋があり、中を覗くと簡単な更衣室を備えたサウナであった。
更衣室には袋に入ってタオルやローブが用意されているのが見える。
その横には水場があり木の桶なんかが置かれている。
気が付くと太陽が傾いている。
初夏とは言え山岳部の夜は冷える。
メリッサは手際良く薪ストーブにに火を入れる。
サウナにも薪のスチーマーがありそれにも火を入れている。
メリッサのあまりの手際良さにただただ感心する僕であった。
日が落ちて辺りが暗くなる、山の中なので辺りは完全な闇である。
遠くに街の灯りがちらほら見えるぐらいである。
テーブル横の棚に蝋燭台とオイルランプ、燃料のオイル缶が用意されている。
オイルランプに火を入れると部屋の中がオレンジ色に照らされる。
薪ストーブの薪がパチパチと燃える音が聞こえる。
都会の雑音は一切無く本当に静かな時間と空間が僕の心に安らぎと癒しを与えてくれる。
「なんか……いいね……」
僕がポツリと呟くとメリッサも微笑んで頷く。
"ぐう〜っ"
突然、メリッサのお腹が悲鳴を上げる。
あんな重い斧で薪割りをしたのだから当たり前である。
「ごめんなさい……」
「せっかくの雰囲気が台無しね……」
メリッサは少し恥ずかしそうである。
「仕方がないよ、あんな重い斧で薪割りしたんだから……」
僕はそう言うと買い込んでいた食料品を袋から出す。
ライ麦パン、サラミソーセージ、チーズ、リンゴ……
ストーブ横の鍋に裏の湧水を入れお湯を沸かす。
ライ麦パンをナイフで切りわけチーズを乗せてストーブの上で焼く、サラミソーセージを切りリンゴの皮を剥い切りわける。
裏の湧水で冷やしたビールをテーブルの上に並べる。
因みに、メリッサの桜色のランドセルの中身はビールとワインとノート型パソコンであった……
鍋の湧水が沸騰するとコーヒーを淹れる。
「お腹空いたよね……」
「簡単な物だけど……」
僕はそう言ってメリッサにテーブルの椅子を引く。
「ありがとう……」
「カネツグって……本当に器用ね……」
今度はメリッサが感心している。
蝋燭とオイルランプの灯りの下で食事をする。
質素な食事だがとても美味しく感じられる。
「コーヒー……本当に美味しい……」
メリッサはビールを飲まずにコーヒーを飲んでいる。
「ビールは?」
メリッサの以外な行動に僕はビールを勧めるのだが……
「サウナの後にするのよ」
「その方が絶対に美味しいから……」
「それまで裏の湧水で冷やしておくの……」
メリッサの言葉に僕も頷く。
サウナの様子を見に行くと畳2畳くらいのサウナは蒸気で満たされている。
「もういい見たい……」
僕が小屋の更衣室の小さな窓からサウナの中を覗いて呟くとメリッサは躊躇う事なく服を脱ぎ始める。
同じように僕も服を脱ぎ始める。
ドイツの男女混浴のサウナ文化に慣れている僕には違和感が全く無いのである。
小屋のサウナはいわゆる乾式サウナではなくミストサウナである。
昔の蒸し風呂で蒸気で身体を温める、そしてふやけた身体の垢を落とすのである。
身体から汗がで始める、タオルで汗を拭きながらのんびりとする。
サウナから出るとローブを着るのだが……
思った通り僕には大き過ぎる……
ダボダボで手も足も長過ぎて大人を服を着た子供のようである。
「やっぱり……大き過ぎるよ……」
僕は困ったように言うのだが……
「まっまぁ……それはそれで……」
「いいんじゃない……かな……」
なんだかメリッサが嬉しそうに見える僕であった。
湧水で冷やしたビールを飲むメリッサの隣で僕はミネラルウォーターを飲んでいる。
ビールを飲むメリッサがとても印象的であった。
今までいちばん美味しいそうに見える。
部屋着に着替え僕は裏手の水場で洗濯する。
水場の木の桶は洗濯物や食器などを洗うのに最適である。
洗濯物を軽く絞って薪ストーブの横に置かれている物干しに吊るす。
山荘の辺りは真っ暗で物音一つしない。
少し酔いが回り頬を赤くしたメリッサは大きなベッドに横になって天井を見上げている。
「……なんだか凄く安らぐわ……」
「この所、いろいろと忙しくて……」
メリッサは呟くように言うと大きな伸びをする。
僕はメリッサの隣り座る。
「僕もそうだよ……」
僕がそう言うとメリッサは両手を差し出してくる。
「……」
僕は無言でメリッサを見ていると……
「……カネツグ……早く……」
メリッサの目がなんとなく怖い。
その日の夜のメリッサはいつもより遥かに元気で激しいのであっ
た……。
〜 流れ行く日々 ドイツ編 番外③ 〜
終わり




