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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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~ 第5章 思わぬ出会い…… 突然の訪問者、そして別れ ④ ~

 ~ 第5章 思わぬ出会い…… 突然の訪問者、そして別れ ④ ~



 終業式も無事に終わりクラスメイトの質問攻めも終わり

 1人寂しく教室を出ようとすると進路指導の先生に呼び止められた。

 今年で55歳というどこにでもいる普通のおじさんである。

 海外の大学に入学するまのでの経過を進路指導室で詳しく聞きたいとの事である。

 別に用事もなく成績表の作成に協力してくれた先生なので僕は素直に進路指導室に着いて行くのであった。


 この学校が地元でも名の知れた進学校であり毎年多くの難関国立大学に現役合格者を出しているのだが流石に国外の難関校の現役合格者(フレッシュマンと言う)は僕が初めてなのである。

 留学した者は何人かいるとの事であった。


 今後の学校の方針にも影響するので詳しく聞かせて欲しいのだそうだ。

 僕は教師の質問に自分がやってきた事などを出来るだけ詳しく伝えた。

 教師の質問が一つが今でも僕の記憶に残っている。


 「我が校の生徒の英語力はどの程度の物か」

 ……であった、僕はどのように答えるべきなのかを悩んだのだが素直に答える事とする。 


 「言い難いのですが……」

 「現状では……向こう(外国)では全くと言ってよいほど……」

 「通用しないと言えます」

 僕の言葉に教師は当然だなと言う表情をする。


 「そうか……聞くまでもないか……」

 小さな声で呟いた教師の声が今でも耳に残っている。

 進路指導の教師は英語教師でもあるからだ。

 場合によってはこの教師の今までやってきたことを否定する事になる。

 僕が始めに悩んだのもそのせいであった。


 その後にこの学校は外国人教師を英語教師として雇い入れる事となるが僕の意見が起因したとは全く思ってはいない。

 結局、2時間近く話をした後に解放されるのであるが僕にとっては初めてこの学校の教師と真正面から向き合えたようなものである。

 "最後の日が初めての日か……"

 僕は心の中で皮肉交じりに呟くとクラスの皆が帰ってしまった学校を後にする。


 何時ものように駅まで1人歩いていると、どうしても斎藤の事を思い出してしまう。

 「なぁ斎藤……お前ならどうする……」

いもしない斎藤に話しかけてしまう僕であった。


 電車の来る時間まで後20分ほど有るのでべンチに腰かけてのんびりとしている。

 "こことも、これでオサラバか……"

 僕は心の中で呟くと電車がホームに入ってくる、昼過ぎという変な時間なので電車に乗客は少なく僕の乗った車両には10数人ほどであった。


 僕はドアに一番近い椅子に腰を下ろして何気なく前を見ると中野さんが呆然とした表情でこちらを見ている。

 "あ……中野さんだ……"

 僕の期待を裏切らない中野さんの表情に何故か妙に親しみ覚えるのであった。


 僕を見つけて何だかソワソワしているのが分かる、暫くすると立ち上がり僕の真横に座る。

 「あっあの……和泉君……凄いね……」

 「スタンフォード大学に合格するなんて」

少し緊張しているような声で話しかけて来る。


 「運が良かっただけだよ」

僕がそう答えると中野さんは少しムッとする。


 「向こうの学校って入試試験とかが無いんでしょう」

 「普段からの成績や論文みたいなのが評価されるんでしょう」

 「運で受かるモノじゃないと私は思うよ」

そう言うと中野さんは少し微笑んだ。

 「向こうに行っても……」

 「何て言ったら良いのかな……」

中野さんは急に1人で真剣に悩み始める。

僕はこういう中野さんに何故かいつも親しみを感じてしまう。


 「無理しなくていいよ……」

 「言いたい事は何となく分かるから」

 僕が悩んでいる中野さんに言う。


 「そうね……」

 僕がそう言うと中野さんはニッコリと笑う。


 「学校の帰りに何処かに行ってたの」

 中野さんが下りの電車に乗っていたので訪ねてみる。


 「あっ……ちょっと買い物に行ってたのよ」

 そう言うと中野さんは膝の上に置いた手提げ袋の方に目をやる。

 紙袋には地元では有名なショピングモールのロゴの入っているのが目に留まった。


 「そうなんだ……東京にはいつ……」

 中野さんに訪ねる。


 「来週の火曜日に出る予定よ」

 「住む所も決まってるし荷物も入れてあるの」

 そう言うと中野さんは何か言いたそうにしている。

 「あのね……私、留学を考えているの」

 「出来れば、その……アメリカの名門校に……」

 中野さんが僕の隣に来たのはその事が聞きたかったのだなと思った。


 「大学からの編入って事だよね」

 僕がそう言うと中野さんは首を縦に振る。

 中野さんも予め調べてあるらしく大体の事は分かっているようで特にレクチャーする必要はなかった。

 話が終わると暫く無言の時間が流れる。

 突然、中野さんが僕に話しかけて来る。

 「あの……もしよければ……」 

 「連絡先を教えてくださいっ! 」

 「いろいろと相談に乗って欲しいんです」

 「やっぱり、実際に向こうに行ってる人の意見は有用だし」

 中野さんの口調から留学に熱意を感じた僕は携帯の番号とメールアドレスを交換する。

 どうやら、コレが本当の中野さんの目的のようだ……

 

 「向こうの住所が分かったら連絡するよ」

 「多分、大学の寮に入ると思うから」

 そうこうしていると僕の降りる駅に到着する。

 僕が椅子から立ち上がると中野さんも一緒に立ち上がる。


 「今日は、本当にありがとう」

 中野さんはそう言って大きくお辞儀をすると手提げの紙袋を落としてしまう。


 「……」

 手提げの紙袋の中に入っていた包装袋を止めていたテープが外れ中身が出てしまう。

 それを見た僕の心が凍り付く。

 "こっこれは……妹の絵里香の好きな……"

 包装袋の中身は腐女子に大人気の某歴史物ゲームの薄い本だった。

 年末大晦日の夜に絵里香がZOOMでオタ友と不届きにも除夜の鐘が響く中で邪な煩悩を全開にして盛り上がっていたヤツである。

 明らかに表紙の絵からして一目で如何わしいブツである事が僕にもわかる。


 "……"

 中野さんはお辞儀をしたままの状態で固まっている。

 よく見ると耳が真っ赤になっている。

 僕は何も言わずに電車を降りるとそのままドアが閉まり電車は走り去っていくのであった。

 そのまま何も言わずに放置したのはせめてもの"武士の情け"のつもりであった。


 "そう言う事か……"

 僕がどうして中野さんにこうも親しみを感じていたのかという理由に気付く。

 それは、中野さんが絵里香と同じ腐のオーラを出していたからなのだ。

 "あのショッピングモールの紙袋はあのブツの偽装のためか……"



 まぁ、これから当分の間は顔を合わすことが無いのがせめてもの救いである。

 因みに、それからすぐに紙袋のブツの事には一切触れることなく、まるで何事も無かったかのように中野さんからアドレス確認のテストメールが届くのであった。


 "この人ならどこの国でもやっていける"と確信する僕であった。

 

 それから2年後に中野さんは本当にスタンフォード大学に編入してくるのである。




 ~ 第5章 思わぬ出会い…… 突然の訪問者、そして別れ ④ ~



 終わり


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