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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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~ 追憶…… 思い出と約束の旅  ~

~ 追憶…… 思い出と約束の旅  ~



 まだ肌寒い三月の末……僕は今、1人でとんでもない山奥の枯葉の降り積もったコンクリートの道をレンタルの原付バイクに跨り走っている。

 ここは、和歌山県有田市……特産品の有田ミカンで有名な土地である。


 僕がどうして、こんな山奥の道をレンタルの原付バイクに乗って走っているかと言うと……

 そこに日本最古の稲荷神社「糸我稲荷神社本宮」があるからである。

 

 受験が済み、進学先が決まり、ある程度の準備を終え4月に一時渡米する事が決まった僕は、たった1人で卒業旅行に出たのである。

 当然、明確な目的があっての1人旅である……そもそも、こんな所に一緒に好き好んで来るモノ好きはそうはいない。

 僕の近くでは1人だけであるが、そいつはもうこの世にはいない……


 紀伊半島には日本最古の一つの神社とされる『花の窟神社』が三重県熊野市にあるのである。

 更に、熊野本宮大社も近くにあるという神社の宝庫なのである

 因みに、もう一つの日本最古の神社とされる『大神神社』が奈良県桜井市にある。


 古来、日本の信仰は山や巨大な岩などをご神体として祈りを捧げており、神様が住んでいるとされる建物(本殿)が無いのである。

 『大神神社』は後ろにある三輪山であり、それに対して、こちら『花の窟神社』は高さ45mの巨大な岩である。

 尚、この辺りの神社へのアクセスは交通機関もあり、参拝するのはそんなにも困難ではない。


 だが今、僕が行こうとしている和歌山県有田市にある日本最古の稲荷神社「糸我稲荷神社本宮」はそうはいかないトンデモナイ秘境に鎮座しているのである。

 交通機関はおろか、まともな道も無いような場所に鎮座しているのである。

 何処かのテレビ番組の"ポ〇ンと一軒家"ならぬ"ポツンと一神社"なのである。


 従って、自力で目的地まで行かなければならない。

 そもそも、僕が原付免許を取ったのは斎藤とこの神社に行くために取ったようなものなのである。

 そして、この神社巡りの旅行自体が斎藤の発案・計画でなのである。



  斎藤が残した旅行計画は下記の通り


 一日目

 白浜空港(着)……新宮市(熊野三大社ほか)……三重県熊野市(花の窟神社)

 ……新宮市(泊)

 二日目

 新宮市……有田町 (バイクレンタル)……糸我稲荷神社……

 糸我稲荷神社本宮……有田町 (バイク返却)……白浜空港(発)


 神社参拝のみと言う完全に趣味に走ったかなり強引な計画であるが、僕は斎藤がこの計画を持ち出した時に付き合うつもりでいた。



 そして今、僕が向かっているのが最後の目的地「糸我稲荷神社本宮」なのである。

 何度も道に迷い遭難しそうになり農作業をしている地元の人に道を聞きながら、やっと目的地にたどり着く。

 ミカンの名産地だけの事はあり、山の斜面にはミカン畑が広がり農作業している人に偶然に遭遇し道を尋ねる事が出来た。

 もしも、その人に会っていなければ迷って辿り着けなかったかもしれない。


 「道、狭いさけ、きよつけなーよ」

道を教えてくれたオジサンの和歌山の方言が今でも耳に残っている。



 なんとか辿り着いた「糸我稲荷神社本宮」の周囲には人の気配は全く無い。

 こんなトンデモナイ辺境にも拘らず誰かが常に管理しているようで全く荒廃しておらず、軽自動車がやっと通れるぐらいの狭い道なのに駐車場に休憩所まで整備されているのであった。

 

 僕は、てっきり草木が茂り荒廃しているとばっかり思っていたのだが……


 これほどの辺境にありながら今日に至っても全く荒廃していない事が長年にわたり地元の人々に深く信仰されてきた証なのである。

 本物の"パワースポット"とはこういった場所なのだと数日後に僕は真剣に信じる事になる。


 何本も建てられた鳥居を潜り、ご神体の前で「二礼二拍手一礼」の作法通り柏手を打ってお賽銭をすると願い事を心の中で唱える。

 僕が、何を願ったのかは内緒である……


 僕は、願い終えると地面の土を手で一掴み集めてジッパー付きの袋に入れ背負っているリュックサックに入れる。

 "これで、全て揃ったな……"

 リュックサックの中に入っている他の神社の土の入った袋を見て呟くと辺りを見回して深呼吸をする

 "さてと……帰るとするかな……"

 "このバイクも返しに行かないと……"

僕はそう心の中でバイクに跨り走り出す、途中で再び遭難しそうになりながらもなんとか麓まで辿り着くのであった。


 バイクを返却し有田町から白浜空港に戻り羽田空港に、そして自宅に帰った頃には夜の9時を過ぎているのであった。

 帰りの飛行機に乗り遅れなかっただけでも幸運であったと思う。

 絵梨香はテニスの大会で他府県に遠征に行っている、父は泊りがけで東京に用事で出ており家には僕1人だけである。

 誰もいない静まり返った家に帰ると風呂に入りカップ麵を啜る。

 1人でカップ麵を啜っていると、いろいろとこれからの事を考えてしまう


 もうすぐ僕は住み慣れたこの家と土地、そして国を離れる事になる。

 アメリカと言う国は自由と平等、そして夢を叶えてくれるかもしれない国なのだが……。


 ハッキリ言って今の僕は無茶苦茶に不安である……と言うより不安しかない。

 テレビのニュースで聞くアメリカの話題は物騒な話ばかりであるからだ。

 今頃になって、何でこんな無謀な事をしてしまったのか自分でも分からなくなっている。


 "明日、斎藤の所に行くかな……"

 僕はそう呟くと直ぐに眠りに就くのであった。



 朝起きると時計の針は午前10時過ぎを指していた

 ベッドから出て服を着替るパンを焼き珈琲を煎れ簡単に朝食を食べると家を出る。

 向かう先は、ここから自転車で約30分離れた斎藤の眠るお寺の裏の墓地である。


 墓の前に来ると背負っていたリュックサックからジッパーに入れていた土を斎藤の墓の地面に少しづつ混ぜるようにしまいていく。

 線香の束に火を付け手を合わせる……

 "行ってくるな……"

 僕は心の中で呟くとお寺を後にした。



 家に帰るとテーブルの上のリモコンを手に取り、いつものように何気なくテレビのスイッチを入れる。

 お昼のワイドショーの画面に映し出されたのはレポーターにインタビューを受ける絵梨香の姿だった。

 「……えっ……」

 テレビの画面の上に表示された「現役女子高校生プロ・テニスプレーヤー誕生」という文字が僕の目に飛び込んでくるのであった。

 「……ええっ!」

 いつの間にか、絵梨香はプロのテニスプレーヤーになっているのであった。

 僕にとっては斎藤が亡くなった時と同じぐらいの衝撃であった……。

  


 確かに僕は、それぞれの神社に参拝した時に家族全員の事をお願いした。

 当然、絵梨香の事もそれぞれの神社に願いを個別にしている。


 因みに、Jリーグの必勝祈願でお馴染みの熊野本宮大社では絵里香のために"本宮勝守"も買ってきているのだった


 糸我稲荷神社本宮に参拝したときに願ったのは絵梨香のテニスの事だった。

 "絵梨香のテニスが上達しますように……"と願ったのだ。


 因みに、他の神社にも絵里香について別の事をお願いしている。

 あえて、何を祈ったかは言わない……。


 何だか僕の願いもかなうような気がしてくるのであった。

 こんな事なら"もっと賽銭を奮発すべきだった"と後悔する姑息な僕であった。


 当然、そんな奴に神の加護があるはずもないのである。




  ~ 追憶…… 思い出と約束の旅  ~


終わり



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