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ここまで怒った記憶がない

「貴様いったい何をした!」


 大沢彗がいまにも噛みつきそうな犬のように吠えている。

 先ほどまでの余裕はどこへいったのやら。


「少しは自分で考えたらどうだ?これだから大沢の人間は」


 やれやれと頭と両手を横にふるが、もちろんこれも挑発だ。

 この男には心底頭にきているから容赦しない。


「だ、だって有り得ないだろ!受注していたプロジェクトが次々とキャンセルされるなんて……」


「仕事は奪うだけじゃダメなんだよ。計画を立て信頼を得てから遂行しなきゃな」


 ビジネスは、ハプニングの繰り返しだ。すべてが終わるまで油断してはならない。

 僕も高校生作家として執筆活動を行なっているからわかるが、すべてが計画通りにいくなんてほぼないのだ。

 何年も前から構想を練っていたプロジェクトならともかく、ある意味フライング気味に仕事を奪えば当然の結果と言えるだろう。

 まあ、俺が大きな原因ではあるが、もとからなかった信頼関係にヒビどころか崩壊させるなんて簡単なことだった。


「僕からすべてを奪った?笑わせるな。お前は僕からなにひとつ奪っちゃいない」


「女子数人を取り戻したくらいで……は!?」


「どうやら気づいたようだな」


 ただの高校生である僕に、現状を一気にひっくり返すだけの力はない。

 この状況で子供が頼る人物など決まってる。頼りになる大人だ。


「白鳥泰造かぁぁー!!!」


 最初に白鳥さんから話を聞いて違和感を感じていた。

 あの『ビジネスの天才』白鳥泰造さんが、ここまで一方的に大沢財閥に負けるだろうか?と。


「泰造さんは僕からの連絡を待ちわびていたよ。あ、白鳥さん安心して。泰造さんに確認したけど正式な婚約の手続きはまだすんでないようだから」


「え?そうなんですか?」


「ああ、全部そいつの能力で信じ込まされていただけだ」


 マスコミやSNSには『電撃婚約』の文字が踊っていた。

 おそらく大沢の能力は『洗脳』。

 多方面にその力を使ってのことだろう。


 だけど……

 前回の記憶で辛い思いをした僕は、マスコミなんて、SNSなんて信じていなかった。


 そして……

 今回の僕は諦めなかった。現実逃避することはなかった。


「し、白鳥泰造がいくら策を練ろうがこんなのおかしいだろ!」


「誰が泰造さんの作戦だと言った?」


「なに!?」


 白鳥泰造さんに連絡はとった。

 あくまでもこれから起こるであろう事実を詳細に伝えた。

 驚くことに泰造さんは、まだ関わりのないただの高校生である僕の言葉に耳を傾けるだけでなく、白鳥グループに指示を出した。

 

「全面的に支持せよ」と。


 どうしてそこまで信じてもらえるのか。

 両親と知り合いだから?

 白鳥さんの同級生だから?

 完全記憶能力をすでに知っている?

 そんな気持ちを見透かされていたのだろう。


「人を信じるのに理由はいらない。私は自分の直感を信じる」


 こうして僕は強力な味方を手に入れた。


「大沢一族はずる賢いからな。ありとあらゆる不正を忠告させてもらったよ」


 僕は過去に戻ってくるまでの間、ジャンルも関係なくひたすらニュースを読み漁った。

 その一つである雑誌の中に『大沢財閥の闇』の特集号が掲載されていた。

 大沢一族を葬った事件の直後のことだ。

 もちろんマスコミを信じない僕は、その中から警察が大沢一族を追い詰めた事実だけを抜き出したが。


「こ、このやろう……殺してやる!」


 他にもいろいろ説明したかったんだが、こいつは弟以上に短気だったようだ。

 懐からナイフを取り出すと、真っ直ぐこちらへ向かってきた。

 後方へ体を動かそうとしたものの―――


「せ、先輩危ない!!」


 小悪魔が叫びながら俺の体を後ろに行かせまいと体当たりした。


「お、お前いきなり何して―――」


 カチッ。


 ……気のせいではない。

 僕の能力の一つである耳が間違いなく記憶した。

 何かスイッチが入る音を。罠を仕掛けていたのか?


「あはははは。これで形勢逆転だ。あの女が地雷を踏みやがった!さあみんな吹っ飛べ!」


「あかり!絶対にそこから一歩も動くなよ!足を離さなければそいつは爆発しないはずだ。このくそ野郎をぶっ飛ばしたら必ず助けるから我慢してくれ!」


「だ、大丈夫ですよ先輩。わたしには助けてくれる王子様の姿が見えてますから」


 こんな時まで冗談言いやがって……


「おい大沢?地雷で吹っ飛ばされた方がましだと思うくらい後悔させてやるからな」


「ひいっ!」


 こいつだけは絶対に許さない。

 

流行りの病にかかり投稿が遅くなりました。

皆様もくれぐれもお気をつけください。

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