能力に目覚めた記憶がない
地雷を警戒した大沢は俺達から距離をとっている。
屋上のタイルを外して地雷を仕込むなんて異常だ。ここは学校だぞ?屋上が崩れれば校舎そのものが崩れてしまう恐れもあるのだ。
トゥルルルル!
スマホに着信が入る。相手は白鳥泰造さんだ。
「ええ、はい。それは良かったです。こちらは……」
どうやら思っていたよりも早く、むこうは決着がついたらしい。
「おい、もういい加減諦めろ。大沢一族はこれで終わりだ」
どうも時間軸というのは本来あるべき姿へ戻そうと力が働くようだ。
ほんの少し亀裂を入れただけなのに、結果的に大沢家の末路は前回同様悲惨なものだ。それが少し早まってはいるが。
「ふざけるな!せっかく能力者達に時間を戻させたのになんでこうなるんだよ!過去へ戻ったらリベンジできるはずだろ!」
「……」
高校生作家の俺が言うのもなんだが……小説の見過ぎだろ。
そもそも自分だけ過去に戻るならともかく、俺と小悪魔が戻った時点で決着はついていたんだ。
記憶力勝負で絶対に負けない俺がいるんだからな。
能力者達ということは、複数名を監禁していたに違いない。
あと問題なのは……地雷をどうすべきか。
泰造さんへ手短に現在の状況は伝えてある。
すぐにでも爆発物処理班が駆けつけるだろう。
だが、追い詰められた大沢がなにをするかわからない以上手出しができない。
小悪魔の方へ視線を向けると……
ん?いま笑ってなかったか?
ほんの一瞬だから他の人にはわからないだろうが。
たとえ一瞬だろうと見た物すべてを記憶する完全記憶能力。
俺は一歩ずつ小悪魔へと近づいていく。
「せ、先輩……わたしはもうダメみたいです」
「はっはっは!ざまあみろ!お前の大事な女を1人でも奪ってやったぞ!」
まるで勝ち誇ったように高笑いする大沢と、苦悶の表情を浮かべる……ふりをする小悪魔。ふり?ふりだよなやっぱり。
「先輩……最後のお願いを聞いてください」
「なんでも言ってみろ」
「キ、キスをお願いします」
「……」
理由は知らんがこいつは放っておいて大丈夫なようだ。
現にさっきと足の位置が微妙に変わっている。
俺じゃないと気づかない程度だがおそらくあそこに地雷はないのだろう。
「キスならすべてが終わったらいくらでもしてやるから待ってろ」
「ひゃっ!?」
偉そうに言ってしまったが、俺だって恥ずかしくてたまらない。これは照れ隠しから出てきた言葉なのだ。
「どうやらこの状況がまだ飲み込めてないようだな」
……もういい加減このくだりは飽きた。
痺れを切らしているのは俺の方だった。
小悪魔やみんなが安全ならもう問題ない。
ゆっくりと歩き大沢の目と鼻の先まで近づいていく。
驚いた大沢は懐からナイフを出すが……武道を心得ている俺にナイフは通用しなかった。
一本背負いで地面めがけて投げ飛ばす。
「ガハッ!」
アスファルトに背中を叩きつけられ息ができないのだろう。
しかし意識はまだある。さらに後ろへ回り込み意識を刈りとりにいく。この時わずか数秒。
もっと痛ぶってやりたいところだが、ちょうどその時たくさんの警察官が屋上へとやってきた。
ちなみに大沢は泡を吹いて伸びていた。
爆弾処理班と思われる警察官に、地雷の位置を探してもらったところ、俺たちから10メートも離れたところから発見された。
「おい、説明してもらうぞ?」
「あかり!そこから絶対に一歩も動くなよ!」
……この野郎。人があれだけ心配してたのにモノマネするとはいい度胸だ。
「あのカチッ!って音はなんだったんだよ?」
「あー、あの音はこれです」
「ボールペン……だと?」
「なんでそんなものを用意してるんだ?」
「なんとなく……はもう通じないですね。実はわたしも能力に目覚めてしまったようでして」
……やはりそうか。
薄々そうだと思っていた。
その前兆はあったと記憶している。
「初めてうちに来た時、物の場所とか知ってたしおかしいと思ったんだ」
単にストーカーの線もあったが……
「実は能力をはっきり認識したのは最近なんです。先輩が触れる物の未来が分かるんです」
「やっぱりストーカーじゃねえか!」
でも待てよ?
……ってことは俺は地雷を踏んで吹っ飛ぶはずだった?
「大沢は地雷を仕込んだ地面のタイルに印をつけてました。その印を消して数メートル先の別のところへ移動したんです」
こいつ……
たしかに屋上のタイルなんてどれも同じに見える。
ちょっと動かしたくらいじゃ気づかないだろう。
「なぜ言わなかった?」
「敵を欺くにはまず味方から?」
誇らしげに胸をはる小悪魔はとても魅力的だった。
後遺症で更新が遅れてしまいました。
みなさまもお気をつけて。




