負けた記憶はない
大沢 彗は大沢一族の長男だ。
大沢財閥の後継者としてかなり期待されてたらしい。
未来で大沢財閥が没落した際も彼だけは罪に問われていなかった。
「メモリー先輩大丈夫ですか?すごい汗ですよ」
「ああ。さすがに驚いてしまってな」
「ごめんなさい……。メモリー様を裏切るようなことになってしまって」
白鳥さんから聞かされた話は驚くべきものだった。
度重なる失敗で白鳥グループの負債額は膨れ上がり、存続の危機に陥っていた。
そこへ資金援助を申し出たのが大沢財閥だった。
だがーーー
なんの見返りもなく助ける大沢財閥ではない。
たったひとつだけ条件が出された。
『大沢彗と白鳥エリカの婚約』
直接的な会社の統合や買収などの話はでなかったそうだ。
しかし……
白鳥グループに白鳥エリカ以外の後継者はいない。
つまり、白鳥エリカと結婚することで実質手に入れたも同然となる。
「最初から政略結婚が目的か?だが……」
「先輩、それは変じゃないですか?白鳥グループを手に入れるだけなら白鳥先輩と婚約なんて回りくどいこと普通しませんよね?」
「俺もそう思う。大沢彗はなんらかの意図があって動いてるに違いない」
嫌な予感がする。
向こうにも過去か未来を知ってる奴がいるなら次は---
僕は急いでスマホを取り出し連絡を入れた。
しかし、繋がる気配がまったくない。
今度は編集者に直接連絡を入れてみた。
そう、僕が連絡をとりたい相手はナツ姉だ。
「あの、メモリーですが担当の佐々木に至急伝えたいことがありまして」
『佐々木でございますね。少々お待ちください』
電話を待つ間も気が気ではない。
今回は無実の罪がSNSに広まっていないが、あまりにも状況が違いすぎる。
『お待たせしました。佐々木ですが一身上の都合により昨日付で別の編集社に移ったそうです。今後メモリー様の担当は
…』
なんてことだ、全て先手を打たれている。
まだ確認は取れてないが十中八九、大沢が手を回したのだろう。なぜそれに応じ、大沢が絡んでいるのか理由は不明だが、奴らにナツ姉の利用価値などないはず。
電話の向こうでいろいろ説明されるが正直頭に入ってこなかった。
「そうですか…ありがとうございました」
電話を切ると---
「先輩……」
「メモリー様……」
ふたりが不安そうな顔を向けてくる。
「千花とも連絡が取れていない。きっとこれは偶然じゃないだろう。白鳥さんも身動きがとれないだろうしこれから連絡はスマホだけにしよう」
「で、でも……」
「みんなの安全が第一だから」
明らかにこれは意図的だ。
僕だけならともかくみんなを危険に晒すわけにはいかない。
「あの……」
ふと横を見ると不満気な顔をした小悪魔がこちらを睨んでいた。
「なんだ?」
「わたしだけ放置プレーされてません?先輩はどんだけドSなんですか!」
「あっ!?」
……完全に忘れていたとはいくら小悪魔相手でも言えない。
こっちが悪魔にされてしまう。
「お前も気をつけろ?」
「オマケみたいに言わないでください!しかも疑問形!」
ムーっと唸っているが、側にいるのが当たり前になってて本気で忘れていた。
申し訳ないとは思うがいまは我慢してもらおう。
しばらく手足をパタパタさせて抗議する小悪魔だったが、やがて真剣な顔を真正面から向けてきた。
「なにも出来ず悔しいですね。せっかく過去に戻れたのに……」
「誰が何もできないって?すでに起こった変化は変えられない。だが過去の記憶勝負で負ける俺じゃない」
このまま指を咥えて見てるだけ?冗談じゃない。
相手が過去や未来を知っている?関係ない。
俺には完全記憶能力がある。
これから何が起こるか寸分違わず覚えている。
「ふえっ!?」
「うぐぅ!?」
ふたりがなぜ悶えているか知らないが、ここから反撃の時間だ。
いつもありがとうございます!
次回からの反撃にご期待ください。