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WEB小説に投稿した記憶がない

「ふぅー、ようやく落ち着いてきたか」


 千花と両親の奪還から数週間の時が過ぎていた。

 久しぶりに執筆活動を進めていた手を止める。


 あの事件は大変世間を驚かせる結果となった。


 それもそのはず日本であまりにも有名な大沢財閥が黒幕だったのだ。

 大沢財閥にしてみればこの事件、握りつぶせると思っていたのが大誤算だった。


 相手にしたのが()だったからだ。


 僕は一連の事件を文章にした。

 今書いているのがまさにそれだ。

 ただし今回は編集社を通していない。

 直接WEB小説サイトに連載投稿したのだ。


 その結果……


 とんでもない事が起こってしまった。

 登場人物の実名を伏せ、作者名を変え、フィクション小説として投稿したにもかかわらずバズったのだ。

 確信犯的な部分はあった。

 白鳥氏から「僕の書く文章に能力があるのではないか」と言われた時から。

 完全記憶能力に関しては便利だけど、文章の方はすごく危険なものだ。

 人を洗脳してしまうようなものなのだから……


 しかし今回だけは別。

 法の裁きを逃れ続ける大沢一族を許すことなどもはやできなかった。


 大沢一族を悪の組織に見立て、世間で裏社会に手を染めている者たちの良心に訴えかけたのだ。

 すると思わぬところから綻びが出てきた。

 大沢一族側近たちからの内部告発。


 彼等もまたある意味被害者だったのだろう。

 しかし、事情を知っていながら今まで黙っていたのなら同罪だ。

 きっと罪の意識に悩まされ今回の告発へ繋がったものと思われる。

 それによって悪の限りを果たした大沢一族は滅亡の道へと向かっていった。


「メモリーご飯よー」


「はい」


 まさかこんな普通の日常が僕の身に訪れる日がくるとは夢にも思わなかった。


 シュタ、シュタ、シュタタタタ!?


「……」


「メモリーどうかした?」


「……なんでもないです」


 ()()が普通なのかは疑問に思うけど。


 そんな様子を見ていた父さんが、


「氷河家の人間なら()()に慣れるしかない。お前も普通じゃないしな」


「……そうだね」


 シュパパパパ!?


 普通の生活か……

 今度は忍者を題材に作品を書こうかと思うメモリーだった。


 * * *

 

 【翌日】


 学校へ登校すると多くの記者が待ち受けている。

 高校受験の替え玉や少年院の替え玉が原因らしい。


 報道陣の横をすり抜け校舎へと入っていく。

 さすがに報道記者も生徒への質問はしていなかった。

 進学校で有名な我が校だけど、これは大きな痛手である。


「先輩!やらかしましたね〜」


「なんの事だ?」


 なんでもお見通しです!みたいな顔をした小悪魔が階段で声をかけてきた。

 

「WEB小説読みましたよ。文章で人を洗脳していくなんてもはや悪の鬼畜街道まっしぐらですね。ニコッ!?」


「声に出して表情を伝えてくるな。朝からウザい」


 しかし……


 冬休み中に投稿した小説がここまで浸透するとは恐ろしい。

 今回の件については僕の独断で始めたから小悪魔や千花は一切知らないはずなんだが。


「うっわ!久々の塩対応。ナメクジならわたし溶けちゃいますよ?」


「ナメクジはおまえみたいに可愛くないだろ」


「ふぇ!?せ、先輩…また頭でも打ったんですか?」


「相変わらず失礼な奴だ。なんだかここ数日すごく気分がいいんだよ」


 事件が解決してから自分でも変化を感じる。

 そもそも階段から落ちる前までの僕は感情表現が豊かだった。

 そうでなければ作家家業なんて務まらない。


「どうしてWEB小説を投稿したのを知ってるんだ?」


「うちの全校生徒が知ってるはずですよ?いくらファンタジー小説に見立てようが、あそこまで細かい描写を文章にできる人間はそうそういないですから。記憶が良すぎるのも考えものですね」


 はたしてそれだけの理由だろうか?

 思いっきり疑いの眼差しを小悪魔に向ける。

 

 その熱い視線に耐えられなかった小悪魔が、さらに話を進めていく。


「……あと、お母様から少々手ほどきを受けてまして……」


「え?なんの?」


 この期に及んで花嫁修行とかの類いではないはず。


「忍術を少々……」


「……」


 華の女子高生から出た言葉が「忍者を少々」


 しかも相手はストーカー疑惑のある小悪魔だぞ!?

 うちの母親は息子が心配じゃないのだろうか?


「おまえが隠れ身の術とか覚えたら怖いな」


「それは初歩の初歩()()()


「……」


 母さん何してくれてるのさ!


「……まあいい。自分の身を守るためには必要だからな」


「違います。わたしはあなたの影になりたい」


 はっきりと、そして揺らぎのない言葉を僕に伝えてきた。

 どこかドヤ顔なのが少し気になる。


「正面からのストーカー宣言じゃねーか!」


「てへぺろ」


 これ以上相手するのも馬鹿馬鹿しいので、小悪魔を無視して教室へと向かった。


 * * *


 久しぶりに言おう。

 なんでこうなった?


「それであの三角関係はどうなるんだ?」


「違うわよ。貴族令嬢と姐御を入れて5角関係よ」


「……」


 社会人と学生では視点が違うらしい。

 どうやらクラスメイト達はあの小説を恋愛物と捉えているようだ。

 フィクションに見えるよう恋愛要素を取り入れたけど、これでは赤裸々に自分の体験を告白してるのと同じだ。


 こいつはかなり恥ずかしいな……

 完全記憶能力の部分は書いていないけど、もう少しぼかして投稿すれば良かった。


 そして次から次へと質問がとんでくる。

 その中で不意にこんな質問が飛び出した。

 

「クリスマス会が中止になった代わりにバレンタイン会が開かれるんでしょ?」


 ん?なんのことだよ?


「それはどこからの情報?」


「「生徒会」」


「へー、生徒会が企画してるんだ?」


 僕も一応、生徒会長やってるんだが。

 もしやと思い千花の方を向くが、目を逸らされた。


「生徒会の女子が中心みたいだよ。ポスターも貼ってあるでしょ?」


「……」


 クリスマス会があんな形になってしまったので、仕方ないか。

 他の生徒達もかなり乗り気のようだし。


「盛大に告白大会と行こう!」


「生徒会長の許可が出たぞ!」


「え?もしや……騙された?でもオッケーだよ。みんなで盛り上がろう!」


「「「おーーーー!!」」」


 こうして『バレンタイン告白大会』が生徒会主催で開催されることとなった。

 

 

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