第三話 俺氏、女子会で内股に③
ここは容姿に身を任せるのだ。
「おじさんには難しいよお……お姉ちゃん達はどういう風に付けているのか興味あるなあ」
どうだこの作戦は!
これはぶりっ子を装いつつ、TSものお決まりの『女の振りしてあんな事やこんな事体験しちゃおう作戦』である。お風呂や着替えを一緒にしたりするのが普通だが、俺は一気に超えていくぜ。
「きも」
え、ごめんなさい。
「変態」
あ、ごめんなさい。
否定の言葉は呟くようなしかし重い声で誰から発せられたのか分からない。というか顔を上げられない。
「おかしい」
あ、ごめんなさい。
「やっぱり警察に」
あ、ごめんなさい。
ちなみにこれまでからも分かるように、台詞の順番は、由紀ちゃん、弥生ちゃん、静流ちゃん、撫子さんの順番だぞ(はぁと)。
沈黙の澱が女子会に沈殿し重みを増していく。生理だけに。
「さいていですね」
あ、ごめんなさい。
ちなみに今のは成穂さんだぞ。
「わん」
あ、今のは分かったぞ。俺の最後の安らぎチャッピー君だぞ。
「近づくな変態」
あ、今のもチャッピー君だったぞ……ハハッ。泣ける。
俺は彼らの常識的な対応に耐えられず、皆が囲んでいたテーブルをそっと離れたのだった。
そして今に戻る。あ、チャッピーは餌で釣りました。
つまり女性の姿にはなっても別人になった訳でもなく、記憶を弄っている訳でもなかったのだ。
彼女達はただ、見た目に合わせた対応をしていただけなのだ。
俺が女の子の姿になっても「おじさん」呼ばわりだったのはそういうことだ。せめてお兄さんと呼ばれたかった。
この話は後日、成穂さんから聞いた話である。つまり手遅れだった、ということだ。
こうして俺の初女子会は終わりを告げた。
***
唐突にエピローグっぽいもの。
場所は何時もの安アパートの一室。つまり俺の住居。
そこでちゃぶ台を囲んで二人、お茶を啜っていた。
「ああ~も駄目だ~~近所の優しいお兄さんポジションが崩壊した~~」
湯呑みに視線を落とすと茶柱が浮いているのが見える。ッハ、こんなの嘘っぱちだな。
背後にある押入れは重厚な扉は消え、普段通りの姿に戻っている。見ての通り女子会部屋は閉鎖された。俺の強い願いによって。もう二度とあの部屋に入るものはいないだろう。
「彼女達の記憶は消さず、常識の範疇で、そういう部屋があったと改変されています。つまり主とチャッピーさんが女性になったという一部だけはなかったことにし、女子会は行った事として操作しています」
音もたてずお茶を啜った成穂さんがそう説明する。
「ハハハ、つまり俺が変態であることは変わらないわけだ」
「記憶があろうがなかろうが、主が変態であるのは統計で理解しています」
そんなことに統計取らないで。
しかし今回の事件は唐突だった。いや唐突なのは今に始まった事ではないが、今回成穂さんの引き金を引いたのは俺ではなく、由紀ちゃん達女性陣だった。
いや女子会に参加したいと思っていたのは確かだけれど。それでもあんな立派な部屋を用意するなんて思いもしなかった。
「成穂さんはどうしてあの部屋を用意したんだ? 何時ものようにこの部屋で女子会すればよかったのに」
そう今まではこの四畳半の畳部屋で由紀ちゃん達三人組は成穂さんを囲んでキャッキャウフフしていたのだ。しかし今回は違った。
入れば誰もが女子会に参加できる部屋を、成穂さんは作ったのだ。
この俺の問いに、成穂さんはしばし沈黙。
珍しいような最近もあったような、そんな成穂さんの沈黙。
「距離、というものの重要性を少し考察したまでです」
そんな、よく分からない理由を述べた。
「距離? なんの?」
「精神体と物理体は本来区別するものではないのです」
よく分からない。
そもそも今回の女子会と、今日の女子会に何か違いがあるとすれば。
それは静流ちゃんのお姉さん、撫子さんの参加くらいだ。
もしかして、もしかしてだが。
成穂さんはひょっとして嫉妬したんじゃあないだろうか?
何時もの冷たいすまし顔でお茶を啜る宇宙人の横顔を盗み見る。
そこからは何も解らないどころか深淵を覗き込む恐怖を感じて、俺は考えるのを止めるのだった。




