表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/30

ピピラミミッド

 アトゥム神が「送ってやる」と言って呼び出してくれた光の扉に入ると、そこはギザのピラミッドではなく、テーベの西の王家の谷の、ツタンカーメン王墓の中だった。


「さっさと寝ろっていうことですかね」

「ワシもそのほうが良いと思うぞ」

 実際、ツタンカーメンは以前、何日も王墓に帰らなかったせいでぶっ倒れている。



 夜が明けて、お供え物の朝食のパンをしっかり食べてから、ツタンカーメンは満を持してギザの三大ピラミッドの中の最大のピラミッドへの光の扉を開いた。


「微妙じゃな」

 出た場所は砂漠の真ん中だった。

 遠くにピラミッドが見えた。

「あっれ~? 何でまたミスったんだろ。食べ過ぎのせいかな?」

「さてはお前さん、ワシとの旅が終わるのが寂しいんじゃな?」

「それはないです」

「まあ良い。せっかくじゃ。少し歩こう」


 砂漠は危険がいっぱいだ。

 サソリも居るし、毒ヘビも居る。

 だけど幽霊とミイラには関係がない。

 そう思って油断していると、悪霊の群れに囲まれてしまった。


「ななな、何じゃこいつらは!?」

「わわわ、わかんないですー!!」


 今回の悪霊は、手足の形は人間のようだけれど、全体的にゆがんでいて……

 その顔は、まるで作りかけの粘土細工のようだった。


「何で真昼間から幽霊が!?」

「ギザでは夜通し祭りをやっておったからなっ。祭りの灯かりで追い出されて、そのまま昼夜逆転してしもうたんじゃろうっ」


 悪霊達が迫ってくる。

 物悲しく、けれど哀れみをかけるにはあまりにもおどろおどろしいうめきを発して。

 二人のファラオは抱き合って悲鳴を上げた。





「モーーーッ!!」

 いきなり場違いな鳴き声を響かせて、豊満な牝牛が優雅な足取りで歩いてきた。


「あ……貴女はまさか……っ」

「慈愛の女神のハトホル様であられますかの?」


 牝牛はゆったりとうなずいた。

 人間の姿を取る時は巨乳美熟女で知られるが、今はどこからどう見ても牝牛であった。



 牝牛が悪霊をぺろぺろと舐めると、悪霊の顔がだんだんハッキリしてきた。


「アア……アアア……」


 うつむく悪霊。

 泣き出す悪霊。

 生前の記憶を叫び出す悪霊。

 どうやらみんな、自分が誰だったのか、今まで忘れていたのをハトホル女神の力で思い出したようだ。



 彼らはミイラを残せなかった人達。

 獣に食われたり、水害で遺体を流されたり。

 子孫が絶えて、祈りを捧げてもらえなかったり。


 それ故に砂漠に迷い、このまま放置すれば消えてなくなってしまう運命だった魂達を導いて、ハトホル女神が歩き出す。

 ツタンカーメンとクフ王も、列の最後尾にくっついていく。

 一行はピラミッドのほうへ向かっていった。


 遠くからでも良い目印になるピラミッドに、クフ王は「やっぱりでっかいものを作ったワシは偉い」と、ツタンカーメンに胸を張って見せて、ツタンカーメンは「はいはい」と肩をすくめた。




 ギザの都に到着すると、祭りも終わってすっかり静かになっていた。

「ちと寂しいのう」

「仕方ないですよ」


 後片付けの様子を眺める。

「何じゃ、この祭りはイムホテプのやつめのためのものじゃったんか。ワシを差し置いて生意気な」

「はいはい。スネないスネない」


 イムホテプは、二人のファラオの旅の始めに、あし舟の修理をしてくれたあの人。

 クフ王の時代の百年ほど前に、ジェゼル王に仕えていた宰相で、世界で一番古いピラミッドを設計した人物である。




 ピラミッドは天へと至る階段。

 ハトホル女神に導かれた悪霊達は、混雑しないように三つのグループに分かれて、三つのピラミッドを登っていく。

 ピラミッドを登るうちに浄化されて、悪霊は、ただの霊に戻っていった。

 風が吹き、女神も霊も、天へと消えた。




「ふぅ」

 と、ツタンカーメンは軽く伸びをした。

 これでやっとクフ王のおもりから開放される。


「やれやれ、ようやく若僧の世話もおしまいかい」

 隣のクフ王も同じように伸びをしていた。



「先輩のピラミッドはどれです?」

「一番大きいやつじゃ」


 最後まで、ピラミッドの入り口まで、しっかりと送り届けて、ハグして別れる。

 エジプトではハグは特殊なことではなくて、ツタンカーメンの王墓の壁画では、ツタンカーメンとオシリス神がハグの構えをしている。


 クフ王のミイラはピラミッドの中で、再び長き眠りにつく。

 ツタンカーメンは王家の谷の王墓へ帰る。


 すぐに光の扉を使うのも何か味気ないような気がして、ツタンカーメンはしばらく浮遊してピラミッドを俯瞰ふかんした。


 エジプトを象徴する、偉大な建築物が三つ。


「……あれ?」

 さっきのピラミッドが一番大きく見えたのは、高台に建っているからで、本当に一番大きいのはその隣のだった。


「………………」

 間違えてクフ王を、カフラー王のピラミッドに連れて行ってしまったのだ。


「知ーらないっ!」

 ツタンカーメンは光の扉を開いてささっと逃げ込んだ。


 まさかこれが原因でクフ王のピラミッドからクフ王のミイラが見つからなくなったからって、遠い未来の人間に、ピラミッドが墓ではないとか言われるなんてことにはなるまいっ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ