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異世界を滅ぼすなんてとんでもない。~それならハーレム作るわ~  作者: 笹倉亜里沙
宗教国家の崩壊とエルフの少女
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今世邂逅



「ふむ。このサンド美味しいのう」


改めて大変に機嫌がよろしくなかったアニェラに説明するのは骨が折れた。何せ機嫌が悪いのはアニェだけではなくフェルもだったからである。事ある事に噛みつこうとし、会話が進まない。


俺は追加でサンドとパンケーキを頼み、特産品でもあるらしいフルーツの盛り合わせも足しておいた。


アニェラにはサンドとパンケーキを渡しフェルには盛り合わせを置いた所でようやく話が円滑になったのである。



「アンタが今の悠斗のパートナーだって事は分かった。だけど理解しただけでアタシは納得してねーからな」


「これさっき貰った奴じゃが、食べるかの? 」


「え……ッ? いい、いいのか? 」


どうやらアニェラはアニェラで焼き菓子を貰ったようだ。大きな楕円をしているビスケットを二つにして割り、片方をフェルへと渡す。


さっきの奴、もしかしないでも妹だからくれたんじゃなくて可愛いからあげたんじゃないか?


「あ、ありがとうな! 」


先程までの喧嘩腰はどこにいったのか、フェルは年相応の笑顔を花開かせちまちまと食べ始める。


「こうしてみればどう見ても剣には見えぬのだが……。長年使われた武器には魂が宿るというが、実物を見たのは初めてじゃ」


「そりゃそうだよ。アタシは特別なんだから」


褒められた事で気を更に良くしたのか、むふーと鼻息を荒げるフェル。


「それにしてもアンタ、妙に変な匂いがするな」


「シャ、シャワーなら浴びてきたはずじゃが。そ、そんなに匂うかの? 」


くんくんと自身の白のワンピースや腕を嗅ぐ。その際になんとなく俺の方をちらちら見てきているが。


何故だろうか? 単純に気にするなら異性だったからか?


はっ! 天啓が舞い降りて来たみたいに稲妻が俺を貫く。


まさか、一人で致してしまったのか?


魔族にも性欲があるのかは分からないが、昂ってしまえば抑えきれない場合もあるだろう。


我々はその探求を明らかにすべくテーブル奥地へと向かった。


「オナぶっッッ!? 」


「次にその薄汚い発言をしたら、殺すのじゃ」


「ふぁい……」


ぶん殴られた頬をすりすりと撫でる。その間フェルはずっとんー、ん―? と唸りながら呟いた。


「臭いとかそういう匂いじゃなくて。―――同属っていうか、同族? アタシとおんなじ匂いがする」


そこまで言われて初めて俺とアニェラは目を合わせた。


「流石といった処かの。ジェラシーの事も分かるとは」


「……ジェラシー? いや、あんななまくらキチガイ野郎じゃなくて」


なまくらキチガイ野郎……。武器から見た武器に差はあるのかと思ったが、ジェラシーが可愛そうになった。


そんな折、店に入ってくるには騒がしい音がする。うるせえなと思いつつちらりと流して見れば、エンリエッタとアンナの二人組だった。朝早くからエンリエッタがいなかったのは、こういうことか。



アンナはあれほどボサボサしていた髪をゴムのような物で一つに纏めており、赤く灼熱のような憎悪を思い起こす髪は落ち着いたようにポニーテールの形を取っている。泥や傷が目立った服装はものの見事に綺麗になっていて、彼女の表情からは脱力感というか目に見える疲労は落ちているのが伺えた。


対してエンリエッタは自身の小麦色の髪を誇張するように伸ばしきっており、彼女の持つ自尊心の高さが伺える。プロモーションによほど自信があるのか露出が所々で目立つ。白を基調にしてはいるものの緑で飾られた服はお姫様のドレスというよりは姫騎士のドレスといった方が良さそうだ。



いきなり見目麗しい二人組が入ってたことによって、あまり人気が多いとは言えないがそれなりに出ていた音が鎮まる。エンリエッタはそれを良しとし、アンナは若干所在なさげにする。





うろうろと視線を泳がした後に、俺の姿を捉えた。探し求めていたオアシスとまではいかないが、喜びが浮き出ている。





「良かった。探していたんだ。昨日はすまなかっ……」


「ちょっとちょっと、いきなり走り出してどうしたのよ」


駆け寄ってくる最中にアニェラの姿も見つけたのだろう。アンナは憎々し気に呟いた。


「――魔王アニェラ・サリー。……随分のうのうとご飯を食べてるみたいだな」


「――勇者アンナ。一週間ぶりじゃのう」


アンナは無言で空いている椅子に座った。


え。座るの。


「え、座るの? 」


エンリエッタが状況についていけないと言わんばかりの表情を浮かべる。同志よ。


因みにフェルは気づいてはいるもののフルーツを食べる事を優先したようだ。


「そういえばアンタ昨夜の覗き劣等種じゃない」


「覗き劣等種ってなんだよ」


劣等じゃない優等生覗き魔がいんのか。


俺のツッコミを他所にエンリエッタは俺の隣に座った。


「お前も座るんかい……」


「いいじゃない。どうせ朝ごはん食べるつもりだったんだし。それにしても、アニェが男連れっていうのも意外だったけど……。どうみてもいい奴には見えないわね。覗いていたし」


「どういう判断基準だよ」


「すいませーん」


俺の話を無視してウェイターの奴を呼びやがった。


「私はアレをお願いするわ」


「すまないエンリエッタ。私も同じものを頼ませて貰う」


座ってからずっと黙っていたアンナが口を開く。それを聞いたアニェラが浅ましく笑った。


「意外も意外じゃの。てっきり問答無用で妾に掴みかかってくるとばかり」


「やれるものなら今すぐにでも。勇者殿がいないならやっていたさ。私にはするべき事があるからな。……改めて言わせて貰おう。昨日はすまなかった。私はきっと勇者には相応しくないのだろう、けれどだからといって貴方以外に頼れる人物がいない。友達を救いたいんだ」


「む」


自分が軽くではないがいなされて、どうするのじゃ。と言わんばかりに訴えかけて来るアニェラ。


「いいぜ。ただし分かってるよな」


俺は舌なめずりをしながら、勇者服と呼ばれている服から微かに覗くアンナの肢体を見る。


アンナは一瞬理解が及ばなかったのか疑問を表情に浮かべ、その後に視線の先に気づいて顔を深紅に染めた。


「屑ね」


エンリエッタの視線は以前よりも更に低く、もはや物としてすら見ていないような冷たさを含んでいる。


「悠斗」


「ぐあッ」


唐突に俺の脛に鈍痛が走る。思わず声を上げてしまい、アンナとエンリエッタがびくっと身体を縮こまらせた。


対面に座っていたアニェラが笑顔で俺の脛を蹴って来やがった。


おい! 俺の性格なんて分かりきってるだろ! そう言ってやりたかったが、そんな事を言ってしまえばもう一度蹴りが飛んできそうな気がしたので言えなかった。


仕方が無しに睨んでみるが、アニェラは銀の瞳を逸らし知らんぷりを始めた。


「ゆ、悠斗が望むならアタシはいつだっていけるからな!! 」


今の今まで黙っていたフェルが沸騰寸前まで顔を茹でさせ、挙手してくる。


「なるほど? 」


「なるほどではないわこのたわけ」


今度は反対側の脛を蹴られたが、来るのが分かっていたので耐えれた。


「……いてえ」


痛い。


避ければよかった。耐えれただけで別に痛くない訳じゃなかった。


「所で聞くに聞けなかったけれど、アンタが"精霊加護"を持ってる人ってわけ? 」


「ん? ん……まあ、近い物を持ってるな」


「ふーん、へえ、ふーん。……ただの弱そうなふつーの奴にしか見えないんだけど。嘘ついてるんじゃないわよね? 」


「嘘はついていない。私が実際にステータスを見たからな」


「あ、そ。それはいいのよ、それは。それでこの女の子は誰なの? どう見ても私には年端もいかない子供にしか見えないわ。パーティーメンバーにしては戦えそうにもないし。まさかとは思うけど」


「おう、アタシは悠斗のパートナーだ! 」


「……………やっぱり劣等種は屑ばっかりね。屑すら生ぬるいわ。ゴミクズよ」


これ以下はないかと思えた冷たさが、もう視線だけで人を射殺せるのではないかと思う位に感情を失っている。


「アンタらこそ一体誰なんだよ。アタシの悠斗に媚び売りやがって」


自身のテリトリーに入って来た敵を威嚇するかのように、椅子から立ち上がり口を開いた。けれどその姿は間違っても怒気を孕んだ大人というよりは、年を越えて追いつこうとする少女の姿だった。有り体に言うとチワワが一生懸命吠えているかのようなちみっこさだ。



「ぷっ。あははっ。可愛いわね。必死に背伸びしちゃって。こんなゴミクズなんかに付いて行ってもいい事なんて無いわよ? お姉ちゃんの所に来ない? 飴あげるわよ」


エンリエッタは『アイテムボックス』と言うと亜空間から引っ張り出してくる。掌にはそれなりの包装をされた飴が一粒あった。


「ば、馬鹿やろーっ! アタシが飴程度でつられると思うな! 」


それでもお菓子という魅力には勝てなかったらしい。俺の方をちらちらと伺ってきていたので、顎で指し示してやると嬉しそうに貰っていた。


「あ、ありがとう」


わくわくという言葉が似合うように包装を開き、飴ちゃんを頬ぼる。その瞬間釣りあがってた瞳が見開かれ、んんーっと幸せそうに両手を頬につけた。


「「「…………」」」


俺含め全員が全員思った。この可愛いお人形をどうにかしてしまいたいと。


「これ、持って帰っていいかしら? 」


たまらなくなってしまったのか。エンリエッタがフェルの背後へと回り顔を胸へと埋もれさせるほど、力強く抱きしめる。


「むぎゃ」


胸に溺れるってあるんだな。とかどうでも良いことを思ってしまった。


「ゆ、悠斗ぉ……! 」


救助を求めて来るフェル。助け船を出してやるか。


「『戻れ、フェルディナンド』」



俺がそう唱えるとフェルの身体は瞬時に光の粒子となり、剣の姿として鞘へと収まる。


両腕を空へと切らしたエンリエッタはそれを見て、目を見開いた。同じく話だけは聞いていたアンナも化かされたような表情をしている。


「お、驚いたわね。あの子剣だったの? 長年使われ続けた武器には魂が宿るっては聞いた事があるけど。エルフの里でも見た事が無いわ」


「その説明はさっきも聞いた」


「それくらい珍しいって事よ! ふぇるでぃなんどってあの子の名前? 聞いた事があるようなないような。アンナ、あんたはどうなのよ。勇者的な知識は無いの」


「申し訳ないが、覚えにない」


覚えがあったら怖えわ。フェルが二人もいたら俺の精神が崩壊する。



【それはアタシも困るな。悠斗を独り占めできねーもん】



俺は誰のもんでもねえ。

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