表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を滅ぼすなんてとんでもない。~それならハーレム作るわ~  作者: 笹倉亜里沙
宗教国家の崩壊とエルフの少女
13/28

お風呂回は欠かせない


風呂を覗こう。



びっくりどっきり風呂場でばったりなんて奇跡の偶然を狙っていたら俺は死んでしまう。心がオアシスを求めているんだ。大体おかしいだろ。こんな立て続けに真面目にやってるんだから、少しくらい俺に得があってもいい筈だ! もしも読者や視聴者がいたらきっと言ってるに違いない。もっとサービスタイムがあってもいいさと。そうさそうだ。望まれてなくたって、俺が望むんだ。世界中が敵になり否定しようと、俺は俺のやることをやる。決して、土下座をしながらアニェラにご飯を分けて頂けないでしょうかとお願いしてゴミを見るような視線を向けられた怒りからではない。人の金で食べた焼肉定食は涙の味がした。今度クエストを一緒に手伝ってもらうという条件を言い渡されたが、普通に返すつもりだ。



さっそく俺はアニェラの裸を覗くために、宿屋で共有の女湯にて待機する。むろん服を着てではなくマッパでだ。幸運だったのがこの町は温泉が湧く事でも有名で、どこも浴場ではなく露店風呂形式を取っていた所だ。隠れられる場所ならどこにでもある。……まあ、いざとなれば透明になる魔法を使えばいいんだけどさ。そうじゃないじゃん? スリルの無い覗きなんて価値は無い。



「ぶえっくしょん」


流石に一時間近く待機してたら寒くなって来た。くはは、こういうわけ分からん事すら楽しくなってきた。


「…………」


…………。


「…………」


さすがに、誰も来なさすぎないか? 子供やお年寄りに興味はないが、誰も来ないってありえるか普通。このままだと俺風邪ひいてしまう。


なんかここまでして風邪を引くのも馬鹿馬鹿しくなってきた。はん、誰も来ないなら来ないで都合がいいじゃないか。こんだけ広い露天風呂を独り占め出来るなんてまるで王様になった気分だぜ。前の世界では王族に仕立て上げられて毎日毎日くそ広い風呂場に入ったもんだが、それとは話が別だ。


気分が良くなってきたので俺はささっと身体を洗う。女の子からする石鹸の香りってこんな柔らかい匂いしてんだなとかどうでもいい事を思いながら終えた。そのまま貸し切りとなった露天風呂へとダイブして夜空を眺めることにした。



はぁぁぁ……。あったけぇ……。風呂はいいもんだ。最初にこれを考えた奴はきっと天才に違いない。魂の洗濯とは良く言ったもんだ。のぼせたり身体を冷やしたりする事だけが欠点だが、それ以外は良い所しかない。女の子と触れ合う時と似たような……。安心と心地よさを感じる。




気が緩んでいた。完全に女湯で分けわからんくらいに隙を見せていた。




だから「先客がいたのね」みたいな言葉が耳に入ってきても、ぼーっとしていたし。いきなり目の前に入ってきた奴に気が付かなかった上に、目と目が合って初めて理解した。


思考が停止した。


一糸纏わぬ少女の身体は程よく肉が付いており、要所要所では人を惑わしそうなくらいに丸みを帯びている。アニェラやアンナと違ってそれなりに背丈があり、胸はそれに見合ったくらいに大きく形良くたわわなメロンのように実っていた。キメ細やかで一切の荒れを感じさせない肌は、微量ながら湯気で濡れてしっとりとした感触をしていそうだ。


決して整えられていない筈の髪は言われなくとも豊穣を彷彿させる金色にやや小麦色が混ざった綺麗な色で、すらりと少女の臀部まで無造作に伸びている。お姫様カットと言わんばかりに眉間近くまでふんわりと切られた前髪からは、丁寧に剃られた眉がひょっこり出ていた。


お風呂に入る湯気にあてられたからか、はたまた異性に裸を見られた緊張からか朱に彩られている頬。子供の頃見つけては必死に集めていたビー玉のように脆く人工的だけれど美しかった青の瞳は一心に俺へと向けられている。


金色の髪から顔を出している耳は人としてはありえないくらいにとんがっており、ぴくぴくと動いていた。それは俗にいう、エルフ耳だった。






間髪入れず悲鳴が響き渡る。



「…………きゃ、きゃああああああああああああッ」




俺の、悲鳴が。




「―――――――え、私が叫ぶところじゃないの!? 何であんたが叫んでるのよ!? 」



思わず少女は自分の身体はどうでもいいと言わんばかりに俺の肩に手を置いて思いっきり揺さぶって来た。あうあうあうあう。


「見られたの私、私の方よ!? 私のおっ……胸とか! 色々見たでしょ! アンタ! 言うべき事が違うでしょう!? 」


「ごちそうさまでした」


「ちがーーーーーーう! 褒められたのは素直にうれしいけど、私が欲しいのは謝罪よ謝罪! 」


嬉しいんかい。


「はっ、仕方がないな。あんたはこう言いたいんだろ? 釣り合わないって」


「! そうよ。あんたと私じゃ天と地の」


「それなら俺の一物を見せればお相子だな」


「きゃ、きゃあああああああああああああああああああああああッ。馬鹿!? 馬鹿よねアンタ! 」


両手で顔を塞ぎ込み、ハイパーモードから逃げ込む少女。はっはっは。こうなったらもうヤケクソだ。


「どうなんだ」


「…………ふ、ふん。ま、まあまあかしら! 」


そこは普通に答えるんかよ! 「小さい頃みたお父様のより遥かに大きかったわ……。あんなのが……、入るっていうの……? か、下等生物らしいじゃない……」なんか小さな声でブツブツ言っているが、余さず俺は聞き漏らさない。ははーん。そうかそうか。うむ、大事せよ。



大変に気分が良い!



「……はあ、もういいわよ。大方男湯と女湯を間違えたんでしょ。さっきの事は不問にしておいてあげるから、さっさと行きなさい」


「断る」


「今後は気を付けて―――え? あんた今何て言った? 」


しまった。済し崩し的に合法的に逃げる道を失ってしまった。つい日ごろから人の嫌がる事をする卑屈人間だから反射で答えちまった! 強引に押し通すしかねえ。


「初めてエルフを見たんだが、綺麗なんだな。エルフの町だと聞いてたんだが、誰一人いなくてな」


「当たり前じゃない。……初めて? 確かにあんたこの町で見た事ないけど、まさか他所の人? へくちっ」




可愛らしいくしゃみが出る。どこぞの自称神様も是非とも見習って欲しい。



「立ち話をしてても風邪を引くだけだぞ。風呂に浸かれ」


「それもそうね。って、そんな事に乗るわけないじゃない! 」


途中までお風呂に入った後に、ぎゃにゃあああっと猫みたいに噛みついてくる少女。



ちっ。流れに乗ってしまえばこっちのもんだと思ったが。まあいい、それならエルフの高尚なプライドとやらを刺激してみるだけだ。



「俺の事はペットだと思え。そうすれば特に気にならないだろ。それともなんだ? エルフって奴は俺達みたいに男と女では入れないなんて、器量の低い事を言うつもりか? あーん。恥ずかしくて無理ですわーってか? あーあ、所詮は、そ、の、程、度、だったんだなぁ」



お風呂場にいる筈なのに、ひときわ冷えた感触がした。



「――煽ったわね。いいわよ、ペット如きが私達高次元のご主人様に噛みつくなんて、良い度胸じゃない」



少女は湯船へと身体を休ませる。それでもやはり俺から少し距離を取りながらだったが。



「で、何が聞きたいのかしら? エルフがこの町にいない理由? そんなの簡単よ。一分一秒でも下等生物と一緒にいたくないからに決まっているじゃない」


「………」


エルフ。度が過ぎた力を持った奴は偉そうになるとは言うが、それを素でやっているような奴らだ。もしU.K.が聞いていたら『え、お主がそれをいうのか!? 』とツッコミを入れてきたに違いない。だが残念あいつは何故か寝るのが早い。早寝早起きする子供か。



「人族は私達と違った文明を持っているわ。それを使ってあげる為にこの町を利用しているだけよ」



差別意識の高いエルフが人間と共存してるなんて怪しすぎると思ったが、そういうことか。御用達とは上手い言葉回しをしたもんだ。彼女達は使ってやっているに過ぎない。受け入れも和解も何もしていないのだ。



「代わりにこの町にはエルフの名を使う事を許してあげているわ。手を出せばそれなりの報復を返すってね。例えそれが魔王であろうと、人族の王であろうと関係が無いわ」


「意外だな。てっきり見捨てるのかと」


「それこそ私達が貴方達と同じになってしまうじゃない。弱者は強者の庇護のもとにいるべきだわ。尤も、尻尾を振ればの話だけれど」


高慢で唯我独尊ではあるが、帝王学的な物は持ち合わせているようだ。それなら猶更不思議な事がある。


「何でお前はここにいるんだ? 」


「……精霊の加護を持つ人族を探しに来たのよ。最近誰かは分からないけれど、私達の信仰する精霊を怒らせた奴がいたらしくて、それが森にまで影響しているの。私達は加護を持つけど、腕が立つのは少ないわ。聞けば、この町には勇者がいるらしいじゃない。それでその前に温泉に浸かりに来たそれだけよ」




「――ほう、勇者が来ておるのか」



この一週間聞きなれた声が聴こえる。声の方向には服を一切来ていない生まれたままのアニェラが立っていた。やっと来たか。俺の本命も本命。



エルフの少女とは違ってアニェラの身体は女性というには言い難い。けれど必ず美しくなるであろうと誰もが分かる咲きかけの蕾。未だ男を知らぬシルクのように白の肌は、見れば吸い込まれ虜にされてしまいそうなくらいに綺麗だ。起伏は激しくはないものの、確かにある少女の胸は幼くどこか妖艶さを匂わせている。月光を混ぜ込み星を散らしたように空を描く銀の髪は、誰もが通り過ぎれば振り返り見惚れる程に美しい。



磨けば光る原石。いや磨けば更に輝くオリハルコンと言った方がいいだろう。




「アニェ……」


「久しいのう。エンリエッタ。相も変わらず人を見下しておるようじゃな」


エンリエッタと呼ばれたエルフの少女は微かに笑う。


「何処に敬意を払う理由があるのかしら? それに私は貴方を未だ魔王だと認めたつもりもないわ。貧相な身体に威厳の無い態度、実力も無ければ口ばかり、別の意味で史上最悪の魔王だと言われてるわよ貴方」


「ひ、貧相な身体は、余計、余計じゃろッ! 毎日牛乳じゃって飲んでおるし、バストアップの運動じゃってしておる! じゃが効果がついてこないだけじゃ! 」


残念だがお前の祖先様は未だちびっこのままだけどな……。


可愛そうに。未来になりえるかは分からないが、可能性の一つを知っているようで哀れに思えて来る。だが大丈夫だ。小さくても俺は気にしない。


そんな魔王アニェラの返事にくすりとエンリエッタは笑みを浮かべて、すぐに苦々しい表情をした。


「……魔王としては認めてないけど。友達としては生きていて良かったわ。魔王城が攻め込まれて、戦死したって聞いてたもの」


「エンリエッタ……」


「馬鹿ね。生きてるなら生きてるって報告しに来なさい。喜びはしないけど助けはしてあげたわ」


アニェラとエンリエッタは良い感じの空気を醸し出す。そりゃそうか、どうにも彼女達は友達同士だったようだしアニェラが戦死したと聞いて気が気ではなかったのかもしれない。


エンリエッタは両腕でアニェラを抱きしめ、慈しみ深そうに銀の髪を撫でる。成すがままにアニェラは彼女に抱かれていた。思う所もあったのだろう。



ク、くくく。クククッ。いい感じの空気だなぁ! ここが女湯で俺がいるという事も忘れてなあ!


百合百合しい空気を生み出す二人を他所に、俺は音を立てずに湯船から出る。君子危うきに近からず。さっさと逃げ出してしまおう。


露天風呂と脱衣所もどきの境目へと手を掛けた所で、肩が砕けそうなくらい強い力で引き留められた。


「ところでのう、何をしておるのじゃ? 不思議じゃのう悠斗。どうして女湯におるのじゃ? 」


「は、ははは。間違えて入ったんだよ。すまんかった」


「間違えてじゃと? ほう、エンリエッタ。妾の間違えでなければ、こやつ水ならぬお湯に流して下心満載で風呂に入っておったよな? 」


「ええ。舐めまわすように見ていたわね。子犬だったら許してやらないこともなかったけど。駄犬なら見逃すわけにはいかないものね」


「捨て置くかのう。大丈夫じゃ、丁度良い洗い流しが出来るしの」


どうやら俺をぶっ殺すという結論になってしまったらしい。そうなってしまったら、俺は全力で逃げるしかないだろ。素早くアニェラの腕を解き、俺は開放的になった夜空へと飛び出す覚悟をする。


「く、ククク。残念だったなァ! お前らごときに捕まるお――――」


あれ。なんでか知らないけど魔法も何も出来ない気がする。


俺の視線はもっと上に向けられていたいハズなのに、アニェラの瞳に吸い込まれるように固定され身動きが取れない。アニェラは左目を覆うように隠し、右目だけを見開いている。心なしかその奥底には悪魔の羽が描かれているようにも見えた。


「"契約"の魔法。早速役に立ったようじゃのう」


そうか、これはお前のチェックか。


「バカが、今更気づいたのか。俺の脳内にはお前らの裸はばっちり納めさせ」


不可思議な力で俺は持ち上げられる。え? 俺も裸ですよ? まさかお外に投げ捨てたりしませんよね。


「魔王アニェラ・サリーが命ずる。少しばかり夜風に当たって頭を冷やすが良い―――ッ! 」


「アーーーーーーーーッッ!! 」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ