きっと其れは元英雄の物語
胸糞注意です。
エルフ。それが私たちの名。私達は家族であり神様であり共に過ごしていく木々と生きていく崇高な存在。誰も彼もが他の部族が言う……、特に人族が言うには美しい容姿をしているらしい。それも当然だろう。私達は全てを生きていると言う、彼らはそうではないという。私達にだけしか聞こえていないという事実、それこそ劣等種との差。保有している魔力の量だってどの下等生物に負けていない。いや、私達と屑を比べるのは下等な生き物に失礼だ。魔法は心奪われるほど美しくて簡潔で感謝された正しき物を使う。そう、全てが私達が上だという証拠だ。劣っている物など何もない。特に人族は酷い。彼ら屑は私達が疎ましいのだろう妬ましいのだろう。エルフという私達を。いるというだけで認めれないに違いない。
でなければ、でなければ、
殺し犯し奪い燃やしちぎり潰すなんて事が出来る筈がない。
「…………」
燃えている。背丈を共にした木々も、御爺様が存命なさっていた頃からあったという樹々も。何もかもが燃やし折られ壊されている。火はエルフにとって忌むべきモノ。その周りでは私達の精霊も逃げて集まりはしない。彼らは敢えてそれを知っていてやっている。
これだけ騒がしいのに悲鳴だけは嫌に聞こえる。男は殺され、女は犯されモノのように集められる。どれも等しく、どれも惨い。それを一同にしてやる奴らは、気味が悪い程に笑顔を浮かべている。ああ、最高だ。口々に似たような言葉ばかり。そこに罪悪感なんて無い。信仰の元にと彼らは汚らしい正義を掲げる。
何が、正義よ。ただ都合がいい言葉を並べているだけじゃない。
そう言葉にして吐き捨ててやりたい。けれど出るのは信じられない程壊れた声だ。幼い頃綺麗だって言われた声は悲鳴をあげれないように、丹念に潰された。今こうして見ている視界の半分だって見せしめの為に残している為だ。
エルフの長老の娘として手足を縛られ吊るされ晒されている私の周りには、もう数えるのが馬鹿らしくなる程少ないエルフがいる。どれもこれもがこれから行われるであろう出来事に、そしてどうにもならないであろう事実に俯き逃れようとしている。
「く、くく。ぐははは。異端の長の娘というからにはどれほど醜悪と思っていたが。どうもこうも……」
男はねっとりと私の身体を上からゆっくり下へと降ろしていき、聞きたくもない唾の音を鳴らす。視線には隠し切れない下卑た欲情を抱えていた。これからどうするのか、どうやって痛めつけるのか。それを想像してるのだろう。
熱いはずなのに、ぶるりと身体を寒さが貫く。気持ち悪い。気持ち悪い、気持ち悪い。屑にそう見定められるのも、そう見られるのも嫌だ。
「さてとその前に聞いておかねばなぁ? 貴様ら異教徒の長の娘よ、自らの罪を認め悔い改めるか? 」
私は睨みつける。誰があんたなんかに。それを見てそいつは満足そうに頷き、周りにいる者へと顔を向けた。
「―――もしも自分が異教徒ではないと言うのならば、この悪魔を犯せ。さすれば敬虔な信者として今ここにいる者や捕らえた者の安全は保障しよう」
「―――――」
そういう、事ね……。私がいつまで経っても折れないから周りを使って壊しに来た。
その投げかけに、彼らは酷く鬱屈な表情を浮かべる。
男は満足気に笑みを浮かべて、舌なめずりをしながら言った。
「聞けば此れはお前らにとって高嶺の花だったのだろう? なあにこれは聖戦だ。死体がどうなってようと分かるまい? 」
最初こそ否定的な意見ばかり出ていたが、そうして話している間にも略奪が進んでいき、最後にはそれを理由に義務へと変わっていた。
「わ、悪いな……。こうでもしないと娘や妻が……」
そうよね。貴方の後ろには奥さんと娘さんがいるものね。
もう刃向かう力も沸かない。仕方がないもの、仕方がないもの。仕方が、ないもの……。私一人で済めばきっと、安いわ。
「やれば、見逃して貰えるんだろうな」
彼は再度確認する。すると男は先程までの笑みをすっと消し、真剣な表情で答えた。
「神に誓おう」
「――――貴殿らは異教徒ではなく、悪魔に魂を売った狂信者だと」
何が起こったのか分からなかった。分かりたくなかった。分かりたくなんて無かった。
私の残った視界全てを埋めつく炎より紅い黒。黒、黒、黒。どろりと飛び散る。
其れが、先程まで喋っていた彼の血だと気付くのに時間はかからなかった。
「ぐ、ぐははははははあああああああははははははははあははははははッッッ!!! 最高だぁぁあああああああああああああああああああッッ。やっぱりこの瞬間だけはたまんねえ、たまらねえええええなあああああああああああああッ!! 」
ぎゃああああ、きゃあああああッ。閉じたい耳からは聞きなれたくない声が聞こえる。赤く染まった視界には何も見えない。何も見たくない。何も知りたくない。なにも、分かりたくない。
もう、嫌だ。
いや、嫌。いや、嫌いや、いやいやいやいや。いやよ、嫌なの。どうして、どうして? どうして。私達は何もしてないじゃない。関わらないようにしてたじゃない。
「ぐはは、残念だったなぁ。オレは初物にしか興味がないからな。お前らカスに分けてたまるか」
「………」
「ん? んん? どうした、さっきまでの反抗的な態度は? ぐはは、ははははッ。どうしたよ? どうしたよ? この程度で壊れるのは早くないかぁ? 」
「ころ……」
「んん? 何だって? 」
「して……」
「ぐ、ぐはははははッッ。殺すかばぁあああああああああああああかッ。お前は俺のモンなんだから、黙って言う事聞いとけ! ……違うな、悪魔が他の奴をそそのかしていないかたっっぷり確かめないと、なぁ」
どうして、赦してくれないの。
お父様もお母さまも、殺したじゃない。もう、たくさんよ。もう、これ以上私から何も奪わないで……。
「さてと、さっそくデザートといきますか。俺は最初に食べるタイプだからな」
男に乱暴に拘束を解かれる。そのまま近くにあった壁へと押し付けられる。気持ちの悪い腕が私の肌に触れる。もう、どうでもいい。……ただ早く終わってほしかった。
『助けてほしいか? 』
何故だか、本当に何故だか、気にも留めて無かった言葉を思い出した。
彼は私の嫌いな男と同じ人族だった。傲慢で欲が深くて、目の前の男と何ら変わらなかった。ただ、彼は少しだけ優しかっただけで。ただ、それだけ。でもなんとなく、そうしてくれそうな不思議な人間だった。
もう出ないと思っていた涙が零れる。声を高くして言いたかった。――助けて、と。助けてよ。と。出そうとしても出ない言葉を、空にかき消されて。
「ぎゃ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ」
声をあげたのは、私ではなく何故か目の前で覆いかぶさろうとしていた男だった。仰け反り横に倒れる男の後ろには、
「――――助けてやる」
あの日あの時と変わらない。傲慢で欲が深くて、けれど少しだけ、ほんの少しだけ恰好の良い。
「俺の全てを以て、俺の全てに賭けて」
男が立っていた。
実は次の話自体は書き終えていたのですが、ふとこの話を思いつきどうしても書きたい衝動で書きました。今までの話の展開とは違って唐突な胸糞の悪い話ですが、ご容赦下さい。
「わっかんないのじゃよ! 作者の考えてる事が全然わかんないのじゃよ! ハーレムって何じゃ!? シリアス(笑〕って何なのじゃ!? 」
『こういうスペースで書くみたいな自己満じゃろ? 』
「何て事を云うのじゃ!? 実力不足を棚にあげすぎじゃろ! 」




