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The Land of the Last Moon  一章  作者: しんまお
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一章 二十二話

 歩きなれたいつもの廊下がなぜか普段以上に静かに思える。

 誰も何も喋らない。

 ミノアでさえ、黙ってコダの後ろを静かに歩む。

 1階へ降り、ハデスの間まで真直ぐに伸びる広い廊下へ出ると、心なし歩みが遅くなる。

 あれだけ『見てみたい』と思っていた相手でも、突然呼び出されると心の準備がされてなく緊張する。しかもその相手はここの主。この世界の長。



 ケルベロスも通れるであろう大きな装飾の施された重そうな扉の前についた。

 この扉の向こうにハデスがいる。

 コダは振り返ると4人に言った。


 「一応ハデス様のところへは今回は初めてですし、『本当の姿』で入っていただくようお願いいたします」


 「へ?」

 ミノアの頭に『?』が沸いたのがよくわかる。


 「つまり、獣の姿で、と?」


 ルドが問う。


 「はい。ヒシリア、変化のほうはできそうですか?無理がありそうでしたら私が補助しますが…」


 「いや、多分大丈夫」


 そういってヒシリアは んっ、と伸びをするように変化を始める。

 それを見ていたミノアも同じように変化を始め、ルドも相変わらず身の回りに静電気の火花を散らしながら変化を終える。

 

 「……」


 ミノアに見上げられて目をそらせたメノア。


 「しかたないな…」


 そう呟くと静かにひざまづく。


 初めて見るメノアの変化にミノアは興味を隠し切れない。その証拠に尻尾がふさふさと揺れている。


 メノアは細かい金の粉を振りまくような光に纏われたかとおもうと巨大な金の蛇へと変化した。


 『うぉ、すげぇ綺麗!』


 素直なミノアが素直な感想を思わず言う。

 正直、ヒシリアもルドも興味津々だったのだが、メノアが嫌がるだろうと思い少し離れて横目でちらりとみていたのだ。言って許されるのであれば二人ともミノアと同じ事を言いたかっただろう。この世界でこれほど輝いているのを見たことがないかもしれない。


 『…』


 メノアはばつが悪そうにミノアとは目を合わせず、ずずっとコダのほうへ進む。


 「さて、では扉を開けますよ」

 

 コダはそう言うと重そうな大きな扉に両手をあてた。


 彼が押している様子はなく、ギギギギギギ…と扉は音をたててゆっくりと動いた。


 ごくり、とミノアが息を呑む。


 てっきりその扉の奥がすぐ広間になっていると思ったら、もう少し歩いたところにまた大きな扉があった。


 コダはそこまで歩むと今度は何も言わずにまた扉に手をあてる。


 4人…もとい、4匹はコダの後ろを静かについてゆく。


 ギィ…


 扉が開くとそこは想像以上に広い広間だった。

 まず視界にはいったその広さに目をとられる。

 こんだけ広くて何につかうんだ?と思わずヒシリアが問いたくなるのを飲み込む。

 その広間の一番奥の中央に…玉座があった。

 そしてその主。ハデス。


 無言で進むコダを一歩おくれて4匹が続く。

 ミノアは思わず部屋を見回しきょろきょろしている。

 部屋の中ほどまで進んだころ、背後でギィと扉が閉まる音がした。

 部屋はあまり明るくない。広いせいで明かりを灯しても明るくはなりきらないのだろう。

 玉座の少し離れた両隣には青白く灯る蜀台があり…玉座の近くまでくるとよくこの部屋の主の顔が良く見えた。


 あぁ…俺もっとハデスサマって老けてるかと思った…


 きっと絶対言ってはならないだろう感想をヒシリアは抱く。

 ミノアに至ってはさすが好奇心の塊。ハデスの顔を凝視している。その気持ちもわからなくはない。どこか寂しげで、とても魅力的な顔をしている…とルドは思った。

 メノアは今は特に誰とも目を合わせたくないのだろう。蛇であるだけに頭を持ち上げるでもなく、床につけたままコダの後ろに位置をとる。


 「すまないな、ロワの子達」


 最初に声をかけたのはハデスだった。

 てっきりコダが何かハデスに紹介でもするのかと思っていた。

 その声は低く、深く…重圧的だが嫌ではない響きだった。


 「すっかりもう大きくなっていたのだな、本当はもっと早く会おうとは思っていたのだがなかなかまとまった時間がとれなくてな…」


 そう言うとハデスは玉座から立ち上がり4匹の方へゆっくりと歩んできた。

 思わずメノアも頭を持ち上げ、4人はハデスを見入る。


 それぞれが想像していたハデス像とはかなり違うものだった。

 ヒシリアが想像していたように老いてはいない。

 ミノアが想像していたように恐ろしい形相をしていない。

 メノアが想像していたように、威圧的な人には見えない。

 ルドが想像していたように冷酷な雰囲気を持つ人にも見えない。

 4人が想像していたハデス像をコダに話したなら間違いなく苦笑されるか怒られただろう。


 「ここにいると月日がどれだけ経っているのかわからなくなるのだよ、今まで挨拶もできずすまなかった」


 『え…』


 そう言うとハデスは4匹の前で頭を下げた。


 いやでも、仮にもこの世界の長だろう?というか、神だろう?と4匹は困惑する。

 その様子をコダはにっこり笑って見ている。


 「ん…?何をそんな変な顔している?」


 変な顔って、獣の顔でも表情わかるのか?!と思わずつっこみたくなる。


 「ミノア…といったな、お主 先程から口があいたままだぞ」


 はっとしてミノアは口を閉じる。


 「皆、来たときからハデス様に興味津々でしたからね。きっと初めて会った緊張と、想像と違っていて驚いているのでしょう」


 やっとコダがくすっと笑って口を開いてくれた。

 4匹がどんなふうになるか、きっと楽しんでいたに違いない。


 「どんな想像されていたのか…そんなに想像と違ったかな」


 そう言ってハデスはヒシリアを見た。

 思わずコクコクとうなずくヒシリア。


 「はっはっは、そうか」


 笑われるなんて想定外。ヒシリアは硬直したままでハデスを見つめる。


 「ヒシリア…目を傷めたのは昨日だと思ったが、その様子だと大丈夫そうだな。さすがはロワの子」


 ルドは傷口が気になってちらりと隣のヒシリアを見る。傷は赤黒くなっているが獣の姿になっても傷口が開いてはいない。魔法の効力がもう少し効いていてくれ、と思わず祈った。


 「そしてルドルシフ。ロワが心配していたがよく一晩魔法をかけ続けれたな。実はゼッカがすごく心配していてな。いや、ヒシリアを、もそうだが、ルドルシフが上位魔法に挑戦して失敗したらどうしよう、とな。案外ゼッカも心配性でな。様子を見に行きたがる彼女を抑えるのも大変だったそうだ、な。コダ」


 コダは苦笑している。

 ルドは思わず俯いた。コダにはかなわない。彼が抑えていてくれなかったらゼッカが飛んできてたというところか…


 「そしてメノア。オードリーから話は聞いている。食事は私も取っているからな。実は今日お前の相方が来るはずなんだが…まぁもう少し待ってみよう」


 ハデスは確かに上に立つものの威厳と品格を持っていた。思わずこちがら固まって動けなくなるほどの何かをかもしだしている。なのにそれが嫌なものではない。大きなやさしさでつつまれている、というような感じであろうか。それとも想像以上に喋ってくれるからだろうか。


 「まぁ、初めてだからそう固くなるのもわからなくはないが…確かに私はこの世界を統べる者であり神ではあるが、お前たちとて『ロワの子』。もう少し緊張をほぐすがいい。そんなにかしこまる必要はない」


 そう言われても…とミノアが呟く。


 『コダから私達は 郷に入っては郷に従え という言葉を学びました。世界を旅するようになったらこれが最も重要であろうと…ですから、この世界ではハデス様は私達の長であり、私達はここに暮らす者でしかありませんから…』


 ルドが口を開く。が、よく考えずに言ってしまったのと緊張で語尾につまる。


 「コダは良い教育者だったかな?まぁ、確かにそれは良い教えだ。しかしなんだ…寂しいことに此処には私と対等に話してくれる者が常時いなくてな。コダでさえあの調子だ。たまに普通に会話したくなるのだよ。まぁ『ロワの子』であるからほぼ対等な立場に育ってゆくと考えてくれ。今はまだ未熟だろうがな」


 そういってハデスはにこりと笑った。


 あぁ、この笑みにコダは惚れたのか。4匹は思わずそう考えた。

 すらりと高い背。がっしりとした体格。黒い髪にきりっとした黒い瞳。見た目とのギャップでよく喋る神様…


 まぁ、確かに上に立つものは孤独だってヴィギア言ってたしな…とメノアは ヴィギアがよく一人でハデスの城へ遊びにゆく、と出かけてた理由がわかったような気がした。

 ヴィギア…一人で寂しくないのかな…


 そんなことをメノアが考えていた時だった。


 聞き覚えのある キンッという金属音と同時にあの人の声が背後でした。


 「直接ここに飛ばせてもらって悪いけど、お邪魔するわよ」


 

 

 


 

 


  





              


 


(ハデス様がどんな仕事とかで年がら年中忙しいのかは私もわかりません…)

 


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