■第7章 第5節:町へ行こう(中)
■第7章 第5節:町へ行こう(中)
村を出てから、しばらく歩いた。
道はしっかりしていて、踏み慣れた土とは少し違う硬さがある。
最初はいつも通りの静かな道だったが、進むにつれて少しずつ変わっていく。
人の数が増える。
荷車の音が混ざる。
遠くから声が聞こえてくる。
「……増えてきたね」
シャーロットがぽつりと言う。
クロエが答える。
「町の周辺に入っています」
「へぇ」
ミアは前を歩きながら、何度も周りを見る。
「人いっぱい!」
落ち着かない様子で、あちこちを見ている。
リナがその後ろを少し早足で追う。
「ミア、離れないで」
「離れてない!」
「ちょっと離れてる」
「すぐ戻る!」
そのやり取りを見ながら、シャーロットは少しだけ笑う。
やがて、視界が開ける。
石造りの建物が並び、道も広くなる。
看板が出ている店がいくつもあり、人が行き交っている。
町だった。
「……」
ミアが止まる。
そのまま、ゆっくりと目を見開く。
「……すごい」
小さく呟く。
目が完全に輝いている。
「いっぱいある……」
店。
人。
物。
全部が新しい。
「すごいね」
シャーロットが言う。
ミアはそのまま頷く。
「うん……すごい」
一歩、また一歩と進む。
だが、足が止まる。
あっちを見る。
こっちを見る。
完全に意識が散っている。
リナが少し困ったように言う。
「ミア、落ち着いて」
「むり」
即答。
「全部見たい」
「全部は無理」
クロエが静かに言う。
「情報量が過多です」
「多い!」
ミアが頷く。
シャーロットは少し考える。
「じゃあ、順番に見ようか」
「順番?」
「うん。まずは服」
「服!」
すぐに反応する。
リナが少しだけ慌てる。
「……私の?」
「うん」
シャーロットは頷く。
「先に必要なもの」
ミアは少し考える。
「……分かった」
完全には納得していないが、止まる。
クロエが言う。
「優先順位の設定です」
「そんな感じ」
シャーロットは軽く答える。
通りを歩く。
左右に店が並ぶ。
布を扱う店。
食べ物の匂いがする店。
道具が並んでいる店。
ミアの視線はずっと動いている。
「これなに?」
「パンだよ」
「これ?」
「布」
「これ!」
「それは……たぶん飾り」
全部に反応する。
リナはその横で少しだけ落ち着かない。
「……人多いね」
小さく言う。
「うん」
シャーロットが答える。
「でも大丈夫」
クロエが補足する。
「危険性は低いです」
「そういう意味じゃなくて」
リナは少しだけ苦笑する。
「慣れてないだけ」
シャーロットは頷く。
「そのうち慣れるよ」
リナは小さく息を吐く。
「……うん」
やがて、一軒の店の前でシャーロットが止まる。
「ここかな」
布と服が並んでいる店。
入口にはいくつかの服が掛けられている。
「服屋?」
ミアが聞く。
「たぶん」
「入っていい?」
「いいよ」
すぐに中へ入る。
ミアは一歩入った瞬間にまた止まる。
「……すごい」
今度は近い。
色が違う。
形が違う。
手触りも違う。
「いっぱいある……」
完全に目がキラキラしている。
リナは少し遠慮がちに入る。
「……こんなにあるんだ」
小さく呟く。
シャーロットは周りを見る。
「動きやすそうなの探そう」
クロエが言う。
「機能性を優先すべきです」
「そうだね」
ミアはすでに服を手に取っている。
「これかわいい!」
「それ動きにくそう」
リナが言う。
「えー」
「走れなさそう」
「……そっか」
少しだけ残念そうに戻す。
シャーロットが別の服を見る。
「これどう?」
シンプルな服。
動きやすそうで、無駄がない。
リナがそれを見る。
「……いいと思う」
「試してみる?」
少しの間。
リナは少し迷う。
「……うん」
小さく頷く。
店の奥へ向かう。
ミアはその後ろを追いかける。
「私も!」
「一人ずつ」
シャーロットが止める。
クロエが静かに言う。
「順番です」
「はーい」
ミアは少しだけ止まる。
シャーロットは店の中を見渡す。
布の匂い。
人の声。
足音。
村とは違う。
だが、悪くない。
クロエが横に立つ。
「環境の変化は問題ありませんか」
「うん」
シャーロットは答える。
「むしろいいかも」
クロエは少しだけ頷く。
「そうですか」
少しして、リナが戻ってくる。
新しい服を着ている。
「……どう?」
少し不安そうに聞く。
シャーロットは見る。
「いいね」
素直に言う。
動きやすそうで、無理がない。
ミアが言う。
「いい!」
すぐに答える。
クロエも言う。
「適しています」
リナは少しだけ安心したように息を吐く。
「……よかった」
その表情は、昨日までとは少し違っていた。
シャーロットは軽く頷く。
「それにしよう」
それで決まる。
ミアがすぐに言う。
「次は私!」
「うん」
シャーロットは笑う。
「順番ね」
ミアは嬉しそうに頷く。
「順番!」
その目は、まだキラキラしたままだった。
町の中での時間は、
まだ始まったばかりだった。




