表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/70

■第4章 第3節:新装・白花の薬屋(上)

朝の光が差し込む頃、白花の薬屋の中はいつもより少しだけ違う空気に包まれていた。昨日までと同じ机、同じ壁、同じ窓。それでも、その中に新しく持ち込まれたものがあるだけで、見え方が変わっている。

シャーロットは机の上に置いた荷物を一つずつ確認する。町で買ってきた器具と容器。布袋から取り出して並べると、その存在がはっきりと分かる。

「……やっぱり違うね」

ぽつりと呟く。

クロエが静かに答える。「環境が変化しています」

「うん、それ」

シャーロットは小さく笑う。

まだ使っていない。ただ置いただけ。それなのに、すでに違いを感じる。それは気分だけではなく、実際に作業の流れが変わる予感のようなものだった。

まずは火の器具から手に取る。小型だが、しっかりとした作りだ。火の強さを調整できる構造になっている。今まで使っていた簡易な火とは明らかに違う。

「……どこに置こうか」

机の上を見渡す。

今までは適当に空いている場所を使っていた。だが、この器具は位置を決めた方がいい。安定して使うためにも、動かさない場所が必要だ。

「ここかな」

机の端を指す。

クロエが視線を向ける。「問題ありません」

「じゃあここで」

シャーロットはそこに器具を置く。軽く押してみる。机はわずかに揺れるが、問題になるほどではない。

「……まぁ、大丈夫か」

完璧ではないが、今の状態ではこれが限界だ。

次に容器を並べる。金属製の小型容器と、厚めの陶器の容器。それぞれ役割を考えて位置を決める。

「これは火の近くで使うからこっち」

金属の容器を火の器具の近くに置く。

「こっちは……冷ます用かな」

陶器の容器を少し離れた場所に置く。

クロエがそれを見て言う。「分離は有効です」

「だよね」

シャーロットは軽く頷く。

今までは同じ場所で全部やっていた。混ぜて、温めて、そのまま置く。それでも問題はなかったが、効率は良くなかった。

役割を分けるだけで、流れが変わる。

「……ちょっとそれっぽい」

ぽつりと呟く。

机の上を見る。

火の器具、金属の容器、陶器の容器。

それぞれが意味を持って置かれている。

昨日までとは明らかに違う。

「それっぽい、ではなく機能的です」

クロエが淡々と言う。

「そうとも言うね」

シャーロットは少し笑う。

だが、その言い方も間違っていない。ただの見た目ではなく、ちゃんと理由がある配置だ。

次に袋を取り出す。町で買った、仕切りのある袋だ。中に素材を入れるためのもの。

「これ、便利そうなんだよね」

袋を開いて見せる。

中がいくつかに分かれている。

「状態別に分けられます」

クロエが言う。

「そう、それ」

今までは机の上にそのまま置いていた。だから混ざることもあったし、取り出すのに少し手間がかかっていた。

袋に素材を入れていく。

状態の良いもの、普通のもの、少し弱いもの。

それぞれを分ける。

「……これ、いいね」

ぽつりと呟く。

「取り出しが早い」

クロエが言う。

「うん、すぐ分かる」

それだけで、作業の流れが一つ減る。

小さな違いだが、大きい。

机の上に余計なものがなくなる。

動く範囲が広がる。

「……これだけで結構変わるね」

シャーロットはそう言う。

クロエは短く頷く。「効率が向上しています」

シャーロットは少し離れて全体を見る。

机の上。

器具の配置。

素材の整理。

昨日までとは違う。

「……ちゃんとした場所っぽい」

ぽつりと呟く。

クロエが言う。「作業環境として成立しています」

「そこまで言う?」

「事実です」

シャーロットは少しだけ笑う。

まだ完璧ではない。

だが、“なんとなくやっている場所”ではなくなっている。

それは大きな違いだった。

しばらくして、シャーロットは椅子に座る。

目の前の机をもう一度見る。

「……使うの、ちょっと楽しみかも」

ぽつりと呟く。

クロエが視線を向ける。

「変化を確認できます」

「うん」

今までは感覚でやっていた。

それが少しだけ形になる。

同じことをしても、結果が変わるかもしれない。

「でも、そんな劇的には変わらないよね」

シャーロットはそう言う。

クロエは短く答える。「段階的です」

「だよね」

一気に何かが変わるわけではない。

少しずつ。

それでいい。

シャーロットは立ち上がる。

「……とりあえず、今日も開けるか」

いつも通りの流れに戻る。

準備はできた。

あとは使うだけだ。

扉の方へ向かう。

手をかけて、一度だけ振り返る。

机の上の変化。

小さな違い。

それでも確実な前進。

「……よし」

小さく頷く。

扉を開ける。

外の空気が流れ込む。

村の朝が始まっている。

白花の薬屋も、同じように始まる。

ただ一つ違うのは――

中が、少しだけ整ったこと。

それだけだった。

でも、その違いは確実にこれからに影響する。

シャーロットは一歩外に出る。

新しい一日が、静かに始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ