表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/73

■第4章 第1節:整え始める(中)

午後の作業は、昨日までと同じようでいて少しだけ違っていた。机の上に並べた素材を見た瞬間から、その違いははっきりしている。状態の良いものとそうでないものを分けてあるだけで、迷う時間が減っていた。選ぶ手が止まらない。それだけで、作業の流れが滑らかになる。


シャーロットは葉を一枚手に取り、軽く潰す。香りを確かめ、感触を確かめてから水に入れる。そこまでは昨日と変わらない。だが、その後の動きが少しだけ変わっている。火に近づける距離、離すタイミング、混ぜる回数。どれも意識しているわけではないが、昨日より迷いが少ない。


「……やっぱり、ちょっと楽だね」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「無駄が減っています」


「そんな感じ」


シャーロットは軽く頷く。


作業が早くなったわけではない。だが、引っかかる部分が減っている。手を止めて考える時間が減り、そのまま次に進める。その差は小さいが、積み重なると大きい。


一つ目を作る。


容器に移し、机の上に置く。


色を見る。香りを確認する。


「……うん、大丈夫そう」


昨日と同じ言葉だが、少しだけ確信がある。


二つ目を作る。


三つ目を作る。


繰り返す。


その中で、やはり気になることが出てくる。


(揃わないな)


同じようにやっているつもりでも、微妙に違う。色が少し濃いもの、少し薄いもの。香りがわずかに違うもの。大きな差ではないが、完全には揃わない。


シャーロットは手を止める。


「……クロエ」


「はい」


「これ、やっぱりズレるね」


クロエは机の上を見て答える。「原因は複数あります」


「だよね」


シャーロットは軽く息を吐く。


材料の差。


火の強さ。


混ぜるタイミング。


どれも影響している。


だが、その中でも一番大きいのは――


「火だよね、これ」


ぽつりと呟く。


クロエは即座に頷く。「安定していません」


「やっぱりか」


今使っているのは、簡単な火だ。調整はできるが、細かくはできない。一定の強さを保つのが難しい。


少し強くすれば一気に温度が上がる。


弱くすれば反応が遅れる。


その間を取るのが、感覚頼りになっている。


「これ、ちゃんとしたやつあれば違うよね」


「違います」


短い答えだった。


シャーロットは少し考える。


今のままでも作れる。


だが、数を増やすなら厳しい。


「……やっぱり必要か」


言葉にすると、少しだけ現実味が増す。


必要なもの。


火を安定させる道具。


作業を支える台。


数を確保する容器。


どれも“あればいい”ではなく、“必要”に変わりつつあった。


シャーロットはもう一度作業に戻る。


今できる範囲でやる。


それしかない。


葉を潰し、水と混ぜる。


火にかける。


混ぜる。


その繰り返し。


だが、意識は少し変わっている。


(これ、限界あるな)


はっきりとそう思う。


昨日は感じなかった“限界”が、今日は見えている。


作業の流れが整ったからこそ、次の問題が見える。


それは悪いことではない。


むしろ自然な流れだった。


シャーロットは一度手を止め、机の上を見渡す。


容器の数。


素材の量。


火の状態。


全部を一度に見る。


「……全部、ちょっとずつ足りないね」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「はい」


否定はない。


そのまま事実として受け取る。


「どれか一つじゃないのが面倒だね」


シャーロットは少し苦笑する。


火だけ良くしても意味がない。


容器だけ増やしても意味がない。


全部が揃って、初めて安定する。


「でも、一気には無理だよね」


「はい」


クロエの答えは変わらない。


現実的な話だった。


シャーロットは少し考える。


何からやるべきか。


どこから手をつけるべきか。


その答えはすぐには出ない。


だが――


「場所、かも」


小さく呟く。


クロエが視線を向ける。


「場所?」


「うん。道具がある場所」


村の中では限界がある。


それはもう分かっている。


なら、外に行くしかない。


「近くに町とかあるのかな」


そう言いながら考える。


王都ほど大きくなくてもいい。


最低限の道具が揃う場所。


「あります」


クロエが答える。


「あるんだ」


「はい。村から半日程度の距離に小さな町があります」


シャーロットは少しだけ驚く。


「半日って、そんなに遠くないね」


「徒歩でも可能な範囲です」


「そっか」


それなら現実的だった。


一日あれば往復できる。


もしくは一泊すれば余裕がある。


「……行けるね」


自然とそう思う。


クロエは静かに頷く。


「可能です」


シャーロットは少しだけ考える。


すぐに行くか。


もう少し準備してからか。


「でも、その前に」


言葉を区切る。


「もう少し情報欲しいかも」


クロエが聞く。「情報?」


「どんな店があるかとか、どこで買えるかとか」


ただ行くだけでは効率が悪い。


必要なものがどこにあるか分からなければ、時間がかかる。


「村の人に聞くのが良いと思います」


「だよね」


シャーロットは軽く頷く。


普段使っている人がいるはずだ。


道具を買う人。


修理を頼む人。


その情報があれば、無駄が減る。


「明日、聞いてみようかな」


「適切です」


シャーロットは机に視線を戻す。


作業はまだ途中だ。


考えるのはそのあとでもいい。


「とりあえず、今日の分終わらせよ」


そう言って手を動かす。


今できることをやる。


それが先だ。


葉を潰し、水と混ぜる。


火にかける。


混ぜる。


容器に移す。


その繰り返し。


作業は単純だ。


だが、その単純さの中に少しずつ違いが出ている。


昨日よりスムーズ。


昨日より安定。


でも、まだ足りない。


その状態がはっきり見える。


それが、今の位置だった。


外では、ゆっくりと時間が流れている。


村の空気は変わらない。


静かで、穏やかで、大きな動きはない。


その中で、シャーロットの中だけが少しずつ変わっていく。


やることが増えた。


考えることが増えた。


そして――


次にやることが見えてきた。


「……町、か」


小さく呟く。


その言葉には、さっきまでとは違う意味があった。


ただの思いつきではない。


必要なこととして、そこにある。


クロエは何も言わない。


ただ、その選択を否定もしない。


それで十分だった。


シャーロットは最後の一つを作り終え、容器を机に並べる。


数はそこそこ揃っている。


明日の分としては問題ない。


「……よし」


小さく頷く。


今日の作業はこれで終わりだ。


だが、次の動きはもう決まっている。


明日、情報を集める。


その次に、町へ行く。


やることはシンプルだった。


白花の薬屋は、ただ回るだけの場所から、次の段階へ進もうとしていた。


それは小さな変化だ。


だが、確実に前に進むための一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ