■第15章 第4節:認識
夜。
店を閉めたあとの静かな時間。
「おつかれさまー……」
ミアが少しだけ力なく言う。
いつもより、少しだけ疲れている。
リナが帳簿を閉じる。
「本日も問題ありません」
いつも通りの報告。
クロエが続ける。
「売上、安定」
「品質、維持」
数値としては何も問題ない。
だが――
ミアが言う。
「なんかさ」
言葉を探す。
「違うよね」
リナが顔を上げる。
「何が、ですか」
ミアは少し考えてから言う。
「使い方」
短い言葉。
それだけで通じる。
リナは静かに頷く。
「はい」
クロエも続ける。
「使用方法の変化を確認しています」
ミアが言う。
「前はさ」
少しだけ振り返る。
「必要なときに使う感じだったじゃん」
リナが答える。
「はい」
ミアは続ける。
「今は……」
少し迷う。
「前提になってる」
クロエが即答する。
「消耗前提行動です」
はっきりと。
リナが静かに言う。
「余裕があると、判断は変わります」
ミアは腕を組む。
「それってさ」
少しだけ強く言う。
「良くないよね」
クロエは一瞬だけ間を置く。
「評価は状況依存です」
ミアが眉をひそめる。
「どっちなの」
クロエは答える。
「薬の性能に問題はありません」
事実。
「しかし」
少しだけ続ける。
「使用者側の判断精度は低下しています」
リナが補足する。
「結果として、リスクが増えています」
ミアはため息をつく。
「やっぱりじゃん……」
――
少しの沈黙。
静かな空気。
外の音もない。
リナが小さく言う。
「止めますか」
問い。
クロエが見る。
「方法がありません」
現実的な返答。
ミアが言う。
「言えばいいじゃん」
簡単に。
リナは首を振る。
「強制はできません」
クロエも続ける。
「使用は任意です」
それ以上は踏み込めない。
――
ミアがぽつりと言う。
「じゃあ、このまま?」
不安が混ざる。
リナは答えない。
クロエも言わない。
二人とも、分かっている。
答えは一つではない。
――
その時。
シャーロットが口を開く。
「問題ない」
短く。
三人が見る。
ミアが言う。
「え?」
シャーロットは続ける。
「薬は、変わってない」
事実。
「使い方が変わっただけ」
クロエが頷く。
「正確です」
リナも静かに言う。
「はい」
ミアは少しだけ納得できない顔。
「でもさ」
言葉を続ける。
「危ないよ?」
シャーロットは答える。
「知らない」
短い。
はっきりと。
それで終わる。
――
ミアは何も言えなくなる。
リナは視線を落とす。
クロエは変わらない。
シャーロットは、次の準備に入る。
火を確認する。
砂時計を置く。
道具を整える。
いつも通り。
――
クロエが静かに言う。
「責任範囲外です」
リナが続ける。
「選択は使用者にあります」
ミアは小さく息を吐く。
「……そっか」
完全には納得していない。
だが、理解はしている。
――
シャーロットは言う。
「作るだけ」
それだけ。
役割は変わらない。
薬は変わらない。
――
問題は、外にある。
それでいい。
それで終わる。
違和感は、はっきりとした形になった。
だが――
それでも、白花の薬屋は変わらない。
そのまま、回り続ける。




