■第12章 第6節:設備強化
翌日。
白花の薬屋は、朝から少しだけ慌ただしかった。
「重いねこれ!」
ミアが小さな箱を抱えながら言う。
「落とさないで」
リナが横で支える。
中身は、昨日町で買ってきたものだった。
クロエが確認する。
「火器具、到着」
もう一つの箱を見る。
「砂時計も問題ありません」
シャーロットはカウンターの奥でスペースを空けていた。
「ここ」
短く言う。
それだけで配置が決まる。
ミアとリナが箱を運び、クロエが開封する。
中から出てきたのは、小型の加熱器具。火力を一定に保つための簡易的な装置。そして、いくつかの砂時計。
「……これで変わるの?」
ミアが首を傾げる。
シャーロットが答える。
「変わる」
短く。
クロエが補足する。
「これまでの問題は、温度と時間のばらつきです」
リナが頷く。
「加熱の強さが安定していませんでした」
「抽出時間も、感覚頼りでした」
シャーロットは器具を触る。
火を入れる。
小さな炎が、一定の強さで揺れる。
「……安定してる」
ミアが覗き込む。
クロエが砂時計を置く。
「時間も測定可能です」
さらさらと砂が落ちる。
一定の速度。
シャーロットは薬草を取り出す。
天秤に乗せる。
左右を揃える。
そこまでは今までと同じ。
だが、その後が違う。
加熱する。
火力は変わらない。
時間を測る。
砂が落ちきるのを待つ。
「……遅くない?」
ミアが言う。
シャーロットは首を振る。
「一定」
それだけ。
クロエが言う。
「再現性が上がります」
リナが静かに頷く。
「同じものを、同じように作れる」
シャーロットは火から外す。
液体を瓶に移す。
揺れがない。
「……いつもより綺麗じゃない?」
ミアが覗き込む。
クロエが確認する。
「濁り、減少」
「品質、安定」
数値のように言う。
シャーロットは次の分を作る。
同じ手順。
同じ時間。
同じ火。
同じ結果。
リナが小さく言う。
「これなら……」
言葉を続ける。
「ばらつき、減りますね」
クロエが頷く。
「ストロングの安定供給も可能になります」
重要な部分。
シャーロットは少しだけ考える。
「増やす」
短く。
ミアが笑う。
「また忙しくなるね!」
リナも少しだけ口元を緩める。
クロエは淡々と続ける。
「ただし、完全ではありません」
シャーロットが見る。
「何が足りない」
クロエが答える。
「温度の細かい調整」
「時間の段階管理」
まだ粗い。
それでも、今までよりは確実に前に進んでいる。
シャーロットは頷く。
「これでいい」
今は十分。
ミアが砂時計を手に取る。
「これ楽しいね」
軽く振る。
リナが注意する。
「落とさないで」
クロエが補足する。
「精度に影響します」
ミアが慌てて戻す。
「ごめん!」
少し笑いが出る。
空気が少しだけ柔らかくなる。
シャーロットは次の調合に入る。
火をつける。
砂時計を置く。
薬草を入れる。
すべてが、少しずつ揃っていく。
白花の薬屋は、また一段階進んだ。
感覚だけではなく、
道具を使って整える。
それでも――
根本は変わらない。
見て、作って、整える。
ただ、その精度が上がっていく。
静かに。
確実に。




