■第11章 第5節:選択
店内の流れは、再びいつも通りに戻っていた。
「いらっしゃいませ!」
ミアの声が響き、リナが注文を受け、クロエが在庫を整える。シャーロットはカウンターの奥で調合を続けている。
三人は、その流れから外れたまま立っていた。
言葉は出ない。
さっきの「検討する」という返事が、空気を止めたまま残っている。
レオンが小さく息を吐く。
「……で」
短い声。
「どうすんだ」
ガルドが視線を向ける。
シャーロットは手を止めない。
だが、聞いていないわけではない。
少しだけ間が空く。
その間にも、薬草が天秤に乗せられ、左右が揃えられていく。
静かな時間。
やがて、シャーロットが口を開く。
「戻りません」
短い言葉。
それだけ。
空気が、完全に止まる。
レオンの眉が動く。
「……は?」
間の抜けた声。
ガルドは何も言わない。
ただ、視線を外さない。
セリスは小さく息を呑む。
シャーロットは続ける。
「ここを優先します」
言葉は静かで、迷いがない。
「この店を続けます」
それだけで、十分だった。
レオンが口を開く。
「いや、ちょっと待てよ」
声が荒くなる。
「さっき“検討する”って言っただろ」
「しました」
即答。
「今、決めました」
一切の揺れがない。
レオンが言葉を詰まらせる。
「……そんなすぐ決める話か?」
「はい」
シャーロットは頷く。
ガルドが低く言う。
「理由は」
短い問い。
シャーロットは少しだけ考える。
「必要とされているので」
カウンターの方へ視線を向ける。
客が瓶を受け取り、礼を言っている。
「ここでやることがあるので」
それだけ。
レオンが言う。
「こっちだって必要だって言っただろ」
「聞きました」
シャーロットは答える。
「でも、優先はこっちです」
はっきりと。
セリスが小さく言う。
「……一緒には、できない?」
わずかな期待。
シャーロットは首を振る。
「できません」
短い否定。
クロエが補足する。
「稼働時間が不足します」
現実的な理由。
レオンが笑う。
乾いた笑い。
「は……マジかよ」
頭を掻く。
「ここまで言ってもダメか」
ガルドは何も言わない。
ただ、シャーロットを見ている。
その視線に、何かを測るようなものが混じる。
だが、答えは変わらない。
シャーロットは再び手を動かす。
何もなかったかのように。
セリスが視線を落とす。
「……そっか」
小さな声。
それ以上は言わない。
レオンが言う。
「……分かった」
諦めたような声。
「無理に引っ張っても意味ねぇしな」
ガルドが一言だけ言う。
「そうか」
それだけ。
感情は出さない。
だが、何も感じていないわけではない。
三人は少しだけその場に立つ。
何も言わず。
それから、ゆっくりと扉の方へ向かう。
ミアが少しだけ不安そうに見る。
リナは何も言わない。
クロエは視線を外さない。
扉の前で、レオンが一度だけ振り返る。
「……頑張れよ」
軽く言う。
シャーロットは手を止めない。
「はい」
短く答える。
それで終わり。
扉が開く。
外の光が差し込む。
三人は外へ出る。
扉が閉まる。
店の中は、すぐに元の流れに戻る。
「次の注文、いいですか?」
「はい、大丈夫です」
何も変わらない。
ただ一つだけ。
関係が、完全に切り替わった。
もう、戻らない。
それがはっきりと決まった瞬間だった。




