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夜宮伊織という男

男は深く頭を下げた。



「初めまして」



落ち着いた声だった。



「今日から配属になりました」



「夜宮 伊織です」



航は数秒固まる。



(……いや無理だろ)



心の中で即答した。



「えっと」



夜宮が少し首を傾げる。



「原田先輩、ですよね?」



「違う」



「え?」



「先輩じゃない」



「え?」



「俺も新人」



沈黙。



夜宮の思考が止まる。



「……え?」



「その反応になるよな」



航は遠い目をした。



「俺も今そういう気持ち」



夜宮は困ったように笑う。



「じゃあ、どうして……?」



「俺が聞きたい」



航は天井を見上げた。



「成瀬ぇ……」



名前だけ呟く。



もちろん返事はない。



「とりあえず」



航は小さく息を吐く。



「本当に何も知らないんだな?」



「はい」



「サクラのことも?」



「最低限だけです」



「……そっか」



航は頭をかく。



「じゃあ案内くらいならできる」



「ありがとうございます」



夜宮は素直に頭を下げた。



その様子を見て、航は少しだけ安心する。



(少なくとも、変なやつではなさそうだ)



そう思った、その時。



「へぇ」



聞き覚えのある声。



二人が振り向く。



黒川悠人が、廊下の壁にもたれながらこちらを見ていた。



「もう仲良くなった?」



「なってねぇよ」



航が即答する。


「ってかお前、任務入ったんじゃねーのかよ」


「うん、でも忘れ物しちゃって」


「すぐ戻るよ」



黒川は楽しそうに笑った。



「じゃあ、その案内」



「頑張ってね、航くん」

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