学園到着
やっとのことで荒れ果てた山道を抜けることが出来たわたしたち。
後は村々を繋ぐ道幅が狭いだけの田舎道で、山道とは違い馬車が通れる程度には整備されているので移動のペースを上げられる。
でもウィリアム王子の表情は浮かないままだ。
わたしは声を掛けてみた。
「どうしたのよ、ウィリアム。やっと難所の山越えを終えたのに浮かない顔をして……」
「山越えに予定よりも時間を掛け過ぎてしまったせいで学園への到着がかなり遅れそうだ」
「それなら、これから馬車を飛ばせば大幅な時間短縮になって予定に間に合うわ」
「いや、飛ばしはしない。それが俺の決断だ」
ウィリアム王子の口調を聞く限り意思の固い決断で変えることは無さそう。
「決断?」
わたしが思わず呟いてしまうと、その決断に至るまでの考えをウィリアムは教えてくれた。
「色々と悩んだんだけどな。この道幅の狭い田舎道で焦って速度を出せば脱輪などの事故の引き金になる。おまけに馬車の速度を上げれば馬車の揺れも激しくなり兵士に疲労がたまり学園に早く辿り着いたとしても満足に戦えなくなる。なので、俺はあえて急がないことを決断した」
なるほど。
王子の考えには納得しかない。
王都から魔道塔への行きの道でも騎士さん、魔導士さんたちの顔に疲労の色が見えたし、乗り物酔いは想像以上に体力を消耗するのをわたし自身コルセットの締め付けで痛いほど経験したもの。
きっとわたしのことを見て馬車を飛ばさない決断をくだしたんだと思う。
急がば回れね。
*
予定では2日半の道のりだったけど、水晶学園に到着したのは3日後の日没に差し掛かった頃だったわ。
学園の近くまで来るとやたら焦げ臭い臭いが漂ってきた。
明らかに何かが燃えている臭いだわ。
ウィリアム王子は深刻な顔をする。
「これは間違いなく学園が襲われている」
臭いだけではない。
学園のあるべき方向からは煙の柱が立ち上っていた。
馬車を急かせると、わたしたちは絶句する。
あれほど立派だった学園は瓦礫と化して、校舎も講堂も寮も含めて全てが姿を消していた。
「なによこれ……」
廃墟には3匹のグレーター・デーモスが学園を蹂躙している。
四足歩行の亀形の巨大な魔獣だ。
学園が襲われてるけど、学園に居残りだったマリエルやブラッドフォード、クリスくん、ビリーくんは無事なんだろうか?
でも、そんなことを心配している暇はない。
グレーター・デーモスと言えば乙女ゲーの『リルティア王国物語』の2年生になった時に発生するウィリアム王子ルートのイベントで出現する魔獣。
王子との親愛度のパラメーターが非常に高い時に遭遇することがある校舎ほどの大きさの亀形の難敵だ。
しかも出てくるのは一匹だけ。
魔獣だけあり、グレーター・デーモスの身体の甲羅は無数の魔法陣で覆われ防御が凄まじく高い。
カメ頭の口からは炎を吐き出すべく、ゆらゆらと陽炎が浮かんでいる。
ウィリアム王子が仲の悪いチャールズ王子やブラッドフォードなんかの攻略対象たちに頭を下げることで和解し共闘、ギリギリで勝てる様な難敵なの。
それが3匹も同時に現れたのでは……勝てる気がしない。
でも、ウィリアム王子は動揺していない。
騎士さんや魔導士さんに的確な指示を出す。
「盾騎士は魔法盾のスキルを発動! 強化と回復の魔導士は盾騎士のサポートに回れ!」
盾騎士はグレーター・デーモスに負けぬほどの城壁のような巨大な盾をいくつも展開。
グレーター・デーモスを魔法の盾で取り囲んだ。
「弓騎士、精霊魔導士はグレーターデーモスの前足を狙え!」
無数の矢や魔法がグレーター・デーモスの前足を襲うと体制が崩れ、グレーターデーモスは膝を突き、頭を地面に投げ出した。
「今だ! 頭を切り落とせ!」
耐性を崩し地面に伏せた魔獣へ、騎士さんと魔道さんの総攻撃が始まる。
「死ぬ気で討ち取れ!」
一匹、二匹とグレーター・デーモスは倒され三匹目も倒すかと思われた時、とんでもない事が起きた。
狂化!
今まででも十分強かったのに、更に魔獣の強さが強くなったの。
なんで狂化したのか考えなくてもわかる。
わたしたちが到着するまでは学園が襲われた学生が必死の抵抗をしていた。
それもわたしたちが居た魔道塔への連絡の為の片道と、わたしたちがやって来た帰路の期間を合計すると一週間近くもの期間だ。
そんな長期間戦い続けていれば狂化しない方がおかしい。
むしろ狂化しなかった方が奇跡的だ。
きっとグレーター・デーモス的には全く攻撃と感じない程度の抵抗で、長時間攻撃による戦闘とみなさなかったんだろう。
戦闘に不慣れな1年生の攻撃だったから仕方ない。
おまけに水晶学園の守護神的な戦力のラインハルトは王都へと外出していて、二年生も魔道塔へ、ウィリアム王子、チャールズ王子、アイ、わたしも魔道塔へ遠征していて攻略対象関連の戦力も半減していた。
残っていた主な攻略対象関連の戦力はブラッドフォード、マリエル、クリスくん、ビリーくんしかいない。
おまけにクリスくんは回復特化で戦闘力は乏しいし、ビリーくんは主に知識担当で同じく戦闘力は皆無に近い。
ブラッドフォードとマリエルだけじゃグレーター・デーモス三匹を相手に出来るわけもない。
わたしたちが増援に来たことに気が付いたビリーくんが駆けつけて来た。
「アイビス様、加勢に来てくれたんですか! しかも魔獣を一気に倒してしまうなんて、凄すぎます!」
「いや、まだ全部倒してないし、かなり厄介なことになってるの」
「厄介なこと?」
「二匹の魔獣は倒したんだけどね。残り一匹が狂化しちゃったのよ」
「なんと!」
「ところで他の学生は無事?」
ビリーくんは浮かない顔をする。
「負傷者が多数出ましたが、コロシアムで結界を張って守備に入りなんとか耐えています」
「よかったわ。取り敢えず、コロシアムで合流して作戦を立て直すことにするわ」
わたしたちはコロシアムでマリエル、ブラッドフォード、クリスくん、ビリーくんそして一年生たちと合流し体制を整えることとした。




